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まん延防止措置延長で経済損失は合計4.0兆円。ウクライナ情勢による原油高の影響と政府の各種政策の評価

2022/03/03

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延長で経済損失は9,280億円増加し合計4兆500億円に

政府は3月3日に、新型コロナウイルスの感染対策として、「まん延防止等重点措置」が現在適用されている31都道府県のうち、18都道府県の期限を3月6日から21日へと15日間延長し、残り13県については、6日の期限で予定通り解除する方針を固めた。3月4日に正式決定する。岸田首相は3日夜に、今回の措置延長とともに、水際対策の緩和強化、ガソリン補助金の増額などについて、合わせて説明する見通しだ。

措置を延長するのは、北海道、東京都、京都、大阪、青森、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、石川、静岡、岐阜、愛知、兵庫、香川、熊本の各都道府県である。18都道府県の県民所得が日本全体に占める比率は70.6%だ。

この18都道府県の期限が15日間延長されると、それが追加でもたらす経済損失(個人消費減少)は9,280億円に及ぶ計算だ。それは1年間の名目GDPの0.17%に相当し、3.7万人の失業者を生むと試算される。 1月7日に始められた「まん延防止等重点措置」の現状分までと合わせると、経済損失は合計で4兆500億円と4兆円台に乗る。これは失業者を16.0万人増加させる計算となる(図表1)。

図表1 まん延防止措置延長による経済損失試算

まん延防止措置とウクライナ問題で1-3月期はマイナス成長の可能性が高まる

今回の措置延長を受けて合計で4兆500億円に達すると試算される経済損失によって、1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率11.5%押し下げられる計算となる。ただし、まん延防止措置が完全に終了する以前から、感染リスクの低下を受けて個人消費が持ち直し、年初からの落ち込み分を一部挽回することが見込まれる。従って、1-3月期の実質GDP成長率が2桁のマイナス成長となる訳ではない。

さらに、個人消費が昨年10月から11月にかけて顕著に増加したプラスの効果は、今年1-3月期の個人消費あるいはGDPの前期比成長率を押し上げる。いわゆるゲタの効果を発揮するのである。これが、1-3月期の実質GDP成長率を前期比年率で5%程度押し上げると試算される。

ウクライナ問題による原油価格上昇が逆風に。水際対策緩和はプラス効果

感染リスクが低下していくなかで、国内景気は先行き持ち直していくことが予想される。しかし、ウクライナ情勢を受けた原油価格の高騰の影響が、その持ち直しの逆風になりそうだ。

3月3日には、WTI原油価格先物は114ドル台と2008年以来の水準まで上昇した(コラム「FRBの3月利上げとウクライナ情勢を受けた原油価格の一段高」、2022年3月3日)。主にウクライナ情勢の影響を反映して、原油価格は年初から足元まで55%上昇しているが、それは個人消費を中心に、日本の実質GDPを1年間で0.17%押し下げる影響を持つと試算される(コラム「ロシアのウクライナ侵攻本格化で日本経済に『円高・株安・原油高』のトリプルパンチ。GDP1.1%低下も」、2022年2月25日)。これは、1-3月期の実質GDP成長率を前期比年率で0.2%程度押し下げると見込まれる。

他方で、政府は3月から水際対策の緩和措置を打ち出し、1日当たりの入国者受け入れ数の上限を3,500人から5,000人に増やした。さらに、7,000人まで上限を引き上げる方針だ。

この緩和措置によって、(緩和措置が講じられない場合と比べて)1日に103.1億円の経済効果(1年間で3.7兆円)が生じると試算される(コラム「水際対策緩和の経済効果は年換算で1.6兆円と試算」、2022年2月15日)。3月分では3,200億円となる。1-3月期で考えれば、まん延防止措置という規制強化によって合計4兆500億円の経済損失が生じるが、他方で、水際対策の見直しという規制緩和によって、そのうち7.9%分は相殺される計算となる。

ガソリン補助金拡大の是非

ウクライナ情勢を受けたガソリン価格の高騰を抑えるため、政府は、現状5円の元売り業者への補助金の上限を、3月10日から25円に引き上げる方針を固めた。これが実施されれば、原油価格上昇による景気への悪影響は多少緩和されるだろう。

しかしこの施策は問題を抱えていると考えられる。第1に、小売価格に与える影響が明確でないという問題がある。第2に、財政負担がかなり高まる可能性がある。予算規模はおよそ3,500億円で、予備費から出されるが、原油価格がさらに上昇すれば、補助金は増額される。また、原油価格が高止まりすれば、補助金の打ち切りによって原油の小売価格が大きく上昇することを避けるため、補助金制度が長期化しやすいだろう。そのため、財政負担は3,500億円の見通しから一段と増加する可能性がある。

第3に、ガソリン・灯油価格の抑制を通じて国民の大半が利益を受けるこの補助金制度を、国民すべてが負担する財政資金で賄うという構図は問題ではないか。通常の補助金、給付金は、一部の企業、個人を国民全体で支えることに意味がある。ところがこの補助金は、将来世代も含めた国民全体の負担で国民全体を助けることになってしまう。負担も同額高まる分、長い目で見れば顕著なプラス効果は期待できないのである。

過去の原油高対策でも見られたように、原油高騰で特に打撃が大きい事業者や個人、いわゆる弱者を探し出し、彼らをピンポイントで救済するような対策が有効なのではないか。

感染対策こそが最も重要な経済対策

既にみたように、原油価格の高騰は国内経済の逆風となるが、それは海外の要因で引き起こされているものであり、日本政府が政策によってそれを止めることは難しい。だからといって、対処療法的に国内小売価格抑制のために補助金制度を導入すれば、既にみたように多くの問題を生んでしまう。

政府が優先的に行うべきなのは、今回のようなまん延防止措置の延長や、ワクチン接種を加速させるといった感染対策だろう。それによって感染リスクが低下すれば、個人消費は持ち直し、その力は原油価格高騰の悪影響を大きく凌駕することが期待できるのである。

ちなみに、以上のような様々な要因を考慮に入れた場合、1-3月期の国内実質GDPは前期比年率で-2%程度と、現時点では考えておきたい。

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