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ロシアは物価高騰とルーブル安の悪循環に

2022/03/24

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ロシアの消費者物価は1年間で2.8倍のペースで上昇

ロシア連邦統計局によると、3月12日から18日までのロシア国内の消費者物価は、前週比+1.9%上昇した。前週は同2.1%、前々週は同2.2%であり、3週連続で2%程度の高い上昇率が続いている。日本銀行が目標とする年間2%の物価上昇率が、現在のロシアではわずか1週間で達成されているのである。1週間で2%ずつ物価が上昇すれば、1年間で物価は2.8倍になる計算だ。このように、ロシアはハイパーインフレの状況にある。

ロシア連邦統計局が毎週水曜日に公表するこの消費者物価週次統計は、ロシアのウクライナ侵攻後のロシアの経済状況を確認できる、数少ない経済指標の一つであり貴重である(コラム、「ロシアで進むハイパーインフレ。旧ソ連型物不足・インフレになるか」、2022年3月18日)。

3月12日から18日までの1週間で前週から10%以上価格が上昇したのは、グラニュー糖の前週比+13.8%と、玉葱の同+13.7%の2つである。グラニュー糖は前週も同+12.8%と高騰していた。輸入品でルーブル安の影響を受けていることと、買い急ぎによる品薄が背景にあるのではないか。

この2つの品目に続いて高い物価上昇となったのは、トルコへの休暇旅行の前週比+9.7%、トマトの同+8.2%、国産乗用車(新車)の同+7.4%である。

歯止めがかからないルーブル安と物価上昇は相乗的に進みやすい

さらに、2月から最新週までの価格上昇率で上位を占めるのは、トルコへの休暇旅行の+62.7%、グラニュー糖の+30.8%、トマトの26.7%、テレビの+25.2%、バナナの24.9%、輸入乗用車(新車)の+19.6%、国産乗用車(新車)の+18.0%となっている。総じて食料品、自動車、電気製品の価格上昇が目立っている。生鮮食品については、2014年のクリミア併合後の海外からの制裁措置を受けて、国内生産を増やしてきたが、それでも、トマト、バナナ、玉葱、キャベツ、人参等の価格上昇は目立っている。国内での生産・供給に支障が生じていることの影響や、買い急ぎ、買い溜めの影響が出ているのかもしれない。

足元でのロシアの価格高騰は、ルーブル安による輸入品、輸入原材料価格の上昇の影響と、消費者の買い急ぎによる品不足によるところが大きいだろう。ウクライナ侵攻後のルーブル安には歯止めがかかっていない状況であり、現状は1ドル120ルーブル程度と、ウクライナ侵攻前の75ルーブル程度から6割下落した状況にある。外貨準備を凍結されたため、ロシア中央銀行はルーブル買い支えの為替介入ができない。為替防衛の目的でロシア中央銀行は政策金利を20%まで引き上げたが、これ以上の引き上げは国内景気にかなりの影響を及ぼすため慎重である。

23日にプーチン大統領は、ロシアからの天然ガス輸出の代金をルーブルで支払うように先進各国に要求した。それによって海外でのルーブルの調達を促し、ルーブル買い為替介入と同等の効果を得ようとしていると見られる。しかし、それは、重要な外貨獲得の機会を逸することにもなり、自分で自分の首を絞める措置のようにも見える。

ロシア国内で物価高騰が進めば、その分、ルーブルの対外的な価値は低下し、それがさらなるルーブル安を招きやすい。こうした物価高騰とルーブル安は相乗的に進みやすいのである。

急激なスタグフレーションに向かうロシア経済

一方、海外との貿易の縮小、金利上昇、物価高による消費悪化等を受けて、ロシア国内の経済が急速に悪化するのは、まさにこれからである。その結果、多くの企業が破綻することの影響が、海外企業のロシア事業撤退・一時停止の影響とともに、国内製品・サービスの供給を減少させるだろう。そうなれば、ルーブル安と買い急ぎによる物価高騰から、物不足による物価高騰へと局面が変わっていく。こうしてロシアは、物価高騰と経済の縮小が同時に進む、急激なスタグフレーションに陥るのである(コラム、「急激なスタグフレーションに陥るロシア経済」、2022年3月23日)。

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