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ロシア経済は衰退の道を歩むか中国化か

2022/03/28

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制裁で軍事活動に影響を与えられれば将来の抑止力に

過去の対ロ経済制裁は、ロシアの軍事侵攻を撤回させるような効果を発揮できなかった。しかし、ロシアのウクライナ侵攻を受けた今回の先進国の制裁措置は、過去と比べてかなり厳しいものであり、ロシア経済に既に大きな打撃を与えている。最終的にはロシアの軍事行動を修正させ、また政治基盤を揺るがすような働きをするかもしれない。

現在見られる制裁によるロシア経済の苦境は、「グローバル化された現代の経済システムのもとでは、他国から切り離されて経済は成り立たない」ということを改めて裏付けるものとなっている。今回の制裁措置が効果を発揮すれば、将来の不当な軍事行動を思いとどまらせる抑止力となることが期待される。

金融面での自立化は失敗

2014年のクリミア併合時には、既にロシアは将来のウクライナ侵攻を視野に入れていた可能性がある。以降、先進国からの制裁措置に備えてきたことが、それを示唆している。

2014年以降、ロシアは金融面ではドル離れを進め、米国からの金融制裁への耐性を強める試みをしてきた。貿易分野ではドル建てからルーブル建て契約への移行を進め、外貨準備のドルの構成を引き下げるとともに金の保有を拡大させてきた。さらに、「SPFS」という独自の国際銀行決済ネットワークも構築したのである。

それでも今回、SWIFT(国際銀行間通信協会)制裁や外貨準備の凍結といった措置を受けると、ロシアの貿易には大きな打撃が及び、また、通貨ルーブルの大幅下落がハイパーインフレを引き起こしている。金融面での自立化の試みは、上手く行かなかったのである。

「ロシア経済要塞化」計画も失敗に

さらにロシアは、2014年のクリミア併合以降、将来の経済制裁に備えて、輸入品の国産品への代替も進めてきた。これはロシア経済の防衛を目指した中期計画の一環で、「ロシア経済要塞化」とも呼ばれている。ロシア当局は2015年から2020年の間に、この輸入代替プログラムに2.9兆ルーブル(約3兆円)もの予算をあてた。これは同期間の予算支出の1.4%に相当する。

しかしこれは、より高いコストで国産化を進める非効率な政策でもあった。実際、それは上手くいかなかったのである。過去数年は、ロシアの輸入依存度はむしろ上昇している。ロシア国立研究大学経済高等学院の調査によれば、2020年には、ロシアで扱われている食品以外の消費財の75%が輸入品で占められていた。その比率は通信機器では86%にも達している。2020年の輸入額はGDPの約2割で、中国の16%を上回りインドやブラジルよりも高い比率となっている。

ロシアのガイダル経済政策研究所の調査によると、2021年に、ロシアの製造企業の約81%が、必要な輸入品の代替品となるようなロシア製品を探し出すことができていない、と回答している。またこれら企業の50%以上は、国産品の品質が十分に満足できる水準にない、と判断している。

ハイテク分野での先進国依存は脱却できていない

国産化が特に難しいのは、半導体、コンピューター、レーザー機器、センサーなどのハイテク製品である。ロシアのような小規模な経済では、複雑なハイテク製品を自力で作るのは難しい。そのため、先進国によるハイテク製品の輸出規制や、先進国企業のロシアからの撤退や業務停止は、ロシアの産業全体に大きな打撃となっているのである。

ロシアの自動車メーカーは、半導体など輸入部品の不足によって大きな打撃を受けている。ロシア中部タタルスタン共和国の指導者は3月16日に、トラックメーカーのカマズの生産が最大40%減少するため、サプライチェーンの問題が解消されるまでの間は、従業員1万5,000人前後が一時帰休・解雇される可能性もあるとした。

2007年に発表されたスホーイ・スーパージェット100は、ロシアの民間航空機製造セクターを復活させるための試みだった。しかし、同機の製造に使われている部品のコストの約半分は輸入品であるため、計画は滞ってしまった。同機のエンジンや着陸装置、エンジンカバーを製造するフランスの航空部品大手サフランは、ロシアでのすべての活動を中止すると発表している。

また、ロシアの銀行および企業の最大90%が先進国製のソフトウエアを使用している、とフィンランド国際問題研究所(FIIA)は推測している。ローテク製品の国内品への代替は可能でも、ハード、ソフトともにハイテク製品は、先進国の技術やノウハウに強く依存しているのである。

ロシア経済は衰退の道か中国化の道へ

ロシア経済が直面する現在の苦境は、高度にグローバル化が進んだ現代では、他国から切り離されては一国の経済が成り立たないことを裏付けるものだ。ウクライナでの軍事的な紛争は収束に向かっても、ロシアがウクライナでの軍事的、政治的影響力を完全にあきらめない限りは、先進国による対ロ制裁措置は解除されず長期化するだろう。その中でロシア経済の鍵となるエネルギー産業は衰退の道を辿り、また、ハイテク製品やハイテク関連のノウハウの輸入が停止することで、多くの産業は将来の成長が奪われることになるだろう。

こうした状態が続けば、ロシア経済は衰退の一途辿るか、あるいは中国製品に席巻される形で中国経済圏に取り込まれるか、のどちらかの道しか残されていないように思われる。それはロシア自身の選択ではなく、中国の姿勢によって決まるものだ。今後の中国の姿勢が、ロシアの将来を大きく左右するのである。

(参考資料)
"Russia's Push for Self-Sufficient Economy Fails Before Western Sanctions", Wall Street Journal, March 22, 2022

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