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衰退に向かうロシア・エネルギー産業と世界のエネルギー価格への影響

2022/03/29

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ロシアの石油生産は今年約15%減少との見通し

大量の原油、天然ガスを世界に供給できることが、今まで世界の中でのロシアの地位、国力を支えてきた。しかし、ウクライナ侵攻後に先進国が打ち出した対ロ制裁措置によって、ロシアはその強みを急速に失う可能性が高まっている。

米国とカナダは、ロシア産の石油・天然ガスの輸入を禁止した。英国は、段階的にロシア産の石油輸入を停止する方針を示した。欧州連合(EU)も米国の支援も得て、ロシア産天然ガスからの脱却を急速に進めている。

制裁措置への報復として、ロシアが欧州や日本などへの原油、天然ガスの供給を停止するという見通しが当初からあったが、ロシアはそれを実施していない。海外への原油、天然ガスの輸出は、ロシア経済にとって非常に重要である中、制裁措置によって既にその輸出が打撃を受けていることが背景にあるだろう。ロシアもできるだけ原油、天然ガスの輸出を確保しておきたいのである。

過去に経済制裁を受けたイランやベネズエラなど産油国は、石油生産が深刻な打撃を受け、それ以降は回復できずにいる。ロシアも同じ道を辿る可能性が考えられる。国際エネルギー機関(IEA)の予測では、ロシアの石油生産は今年約15%減少し、2003年以来の水準に落ち込む。石油・ガス業界はロシア政府の歳入の約4割を占めており、同産業の衰退はロシア経済の悪化とともに財政の悪化につながる。150万人程度と推定されるエネルギー関連業界では失業が急増する可能性もある。

ブルームバーグが業界データとして報じたところによると、3月17日~23日の週に、ロシアの原油輸出は前週比で26%減少したという。1週間で26%の減少は驚くほどの急減ペースである。

先進国のエネルギー企業のロシア撤退が大きな打撃に

EUや日本はまだ、ロシアからの原油、天然ガスの輸入を制限していない。また、SWIFT(国際銀行間通信協会)制裁でも、ロシアのエネルギー関連の貿易決済は対象から外されている。それにも関わらず、ロシアの原油、天然ガスの輸出は既に大きく減少しているのである。それは先進国の企業が、ロシアでのエネルギー開発から撤退を決めたことによるところが大きい。

英BPは、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、ロシア国営石油大手のロスネフチの株式20%近くを手放すことを発表した。また英シェルは、ロシアでの合弁事業から撤退すると明らかにした。米エクソンモービルも北太平洋のサハリン島で進めていた巨額の石油・ガスプロジェクトからの撤退を表明している。

これらによって、ロシア全土の大型開発案件に支障が生じているようだ。先端的な探査・油田の保全技術では、ロシアは海外企業に大きく依存してきたためだ。

ロシアは、北極圏の油田開発を海外企業に頼ることで、世界の液化天然ガス(LNG)市場でシェア拡大をもくろんできたが、それも難しくなってきた。ロシアは関連インフラを開発する上で重要な液化やガス層の評価などに関する技術が入手できなくなったのである。また精製業者にとっても、精製過程で必要な化学薬品の調達が一部で難しくなる。

ロシアは、カザフスタンから黒海に向かうパイプラインを経由した石油輸出が、一時的に日量100万バレル程度(世界の石油需要の1%に相当)落ち込む可能性を明らかにした。悪天候によりインフラが打撃を受けたという。海外企業の関与がなければ、修復には時間が掛かることが考えられる。ロシア当局者は、その修復には最大2か月を要するとしている。

ロシアのエネルギー産業の衰退は長期にわたる価格上昇要因に

ロシアの石油生産は以前から、2020年代でピークに達すると予想されていた。稼働中の油田は全般的に老朽化が進んでいたのである。そこで、ロシア企業は新たな油田の開発に向けて、フラッキング(水圧破砕)など米国のシェール産業から技術を学ぼうとしていたが、それも難しくなってしまった。

先進各国は、原油、天然ガスでロシア離れを急速に進めている。ロシアが先進国向け輸出を中国やインドに振り向けることで輸出の水準を維持できるのであれば、世界のエネルギー需給には影響しない。しかし実際には、ロシアでの原油、天然ガスの生産が趨勢的に減少する方向が見えてきている。これは長期にわたって世界の原油、天然ガスの需給に影響を与え、価格を高止まりさせる可能性があるだろう。

制裁によるロシアのエネルギー産業の衰退は、価格上昇を通じて先進国経済に長期間の打撃を与える可能性がある。ただし先進国はむしろこれを奇貨として、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーを用いた発電の拡大に一層取り組み、脱炭素化を強く推進していくことも求められるだろう。

(参考資料)
"Russia's Oil-and-Gas Industry Is Starting to Feel the Bite of Sanctions", Wall Street Journal, March 24, 2022

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