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デフォルト瀬戸際の状態が続くロシア:4月4日の次は5月27日がXデーか

2022/04/01

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ドル建て国債の前倒し償還で4月4日もデフォルトは回避か

ロシア財務省は、3月31日に支払い期限を迎えたドル建て国債の利払い4億4,700万ドル分を履行した、と発表した。ロシアによるウクライナ侵攻、先進国による対ロ制裁が実施されて以降、4回目となるドル建て国債の利払いがドルで行われ、デフォルト(債務不履行)は回避された。

次のドル建て国債の償還及び利払いは、4月4日に設定されている。同日には償還、利払い合わせて21億2,900万ドルと、今までと桁違いに支払い金額が大きくなる予定だった。その償還を翌週に控えた29日に、ロシアは4月4日に償還期限を迎える20億ドルのドル建て国債について、ルーブルでの前倒し償還を行うと突如発表したのである。ロシア財務省は、ルーブル建てでの償還に応じるドル建て国債保有者は、ロシア連邦証券保管振替機関(NSD)にその意向を30日(日本時間午後11時)までに示す必要がある、と表明した(コラム「ロシアがドル建て国債をルーブルで前倒し償還と発表、2022年3月30日)。

先進国による外貨準備の凍結措置によって深刻な外貨不足に陥っているロシア政府が、ドルを節約するための苦肉の策と考えられる。しかし、価値が不安定なルーブルで前倒し償還に応じる海外投資家は、かなり少数と考えられていた。

ところが驚くことに、全体の72.4%にあたる14億4,760万ドル分を自国通貨ルーブル建てで前倒し償還した、とロシア財務省は3月31日に発表したのである。これは主に、同国債を保有するロシア人投資家がルーブル建ての前倒し償還に応じたため、と推察される。ロシア政府は、ロシア人投資家に対してルーブル建てでの前倒し償還に応じるよう、強く要請したのかもしれない。

この前倒し償還によって4月4日に期限を迎える償還額は、5億5,240万ドルまで大きく減少した。規模が大幅に縮小したこともあり、ロシアは4月4日にドルでの償還を履行し、再びデフォルトが回避される可能性が高そうだ。

5月27日が次のXデーか

デフォルトのリスクが高まる4月4日を無事通過すれば、次のXデーとなるのは、5月下旬だろう。先進国の制裁措置によって、各国の銀行はロシアの財務省、中央銀行、政府系ファンドとの取引が禁じられている。しかし米財務省外国資産管理室(OFAC)は3月2日に、「債券ないし株式の利子や配当、償還金受け取り」を目的とする取引はその禁止対象から除外する、との通達を出した。この通達のおかげで、過去4回にわたって、米国の投資家はドル建て国債の利払いを受けることができたのである。

しかしその有効期限は5月25日までであり、米国財務省はその例外措置を延長しない可能性がある。5月25日以降も、ロシアは年末までに総額約20億ドルのドル建て国債の利払い、償還を行わねばならない。

5月25日以降に最初に到来する期日は5月27日であり、この日が、デフォルトが事実上確定する(実際の確定は猶予期間後)次のXデーとなるだろう。

IMFの支援は得られない

ロシアの外貨建て国債がデフォルトに陥れば、1917年のレーニンによるボリシェビキ革命以来のことになる。一般に外貨建て国債のデフォルトは、それを発行する政府の信頼性を大きく損ね、信頼を回復するまで国際金融市場からの資金調達の道が閉ざされる。通常は、国際通貨基金(IMF)の融資という支援を得ながら、債権者と真摯に交渉を重ね、新たに合意された条件での支払いが完了すると、信頼回復への道が開けてくるのである。

しかし、ウクライナ侵攻によって先進各国から強い非難を浴び、また厳しい制裁対象となっているロシアを、欧米が主導する国際組織のIMFが支援することは当面考えにくい。また、ロシアがIMFに支援を求めることもないだろう。さらに、デフォルト確定後も、先進国の債権者との間で債務リストラの交渉が直ぐに始まることはないだろう。

デフォルトであってデフォルトでない状況が続くか

1917年のデフォルトの際には、レーニンが帝政ロシア時代の対外債務の履行を拒否した後、債権者との交渉が決着するまでに数十年という長い時間を要したという。今回も同じようなことになるかもしれない。その場合、ロシア政府が海外から資金を調達できない状況がかなり長期化する。それはロシア経済の発展の芽を摘んでしまうことになるだろう。

ところで、米財務省が上記の通達の期限を延長せず、ロシアが5月27日のドル建て国債の利払いを履行できない場合、ロシアは「利払いの意思があるにも関わらず不当な制裁措置によってそれが阻まれた」として、「それはデフォルトにあたらない」と主張するだろう。さらに、主要格付機関はロシアでの業務から既に撤退しており、ロシア国債にデフォルトの格付けをすること、つまりデフォルト認定を正式に行うことはないのではないか。

その結果、事実上はデフォルト状態であっても、正式にデフォルトが確定しない、極めて曖昧かつ混乱した状況が、ロシア政府と債権者の間で長く続くことになるのではないか。

(参考資料)
「情報BOX:ロシア、綱渡りの「デフォルト回避」継続できるか」、2022年3月31日、ロイター通信ニュース
「ロシア、ドル国債ルーブルで買い戻し 4日償還分の7割」、2022年4月1日、日本経済新聞電子版

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