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ガソリン補助金で本当に家計は助かるのか

2022/04/12

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ガソリン補助金の効果を2つのケースで試算

ウクライナ情勢による物価高への対応として、政府は4月末までに緊急経済対策をまとめる。その柱の一つとなるのが、ガソリンなど燃料価格の高騰への対応だ。11日に明らかになった自民党の提言案では、原油価格高騰への対応について、「ウクライナ情勢はなお予断を許さない」として、元売り業者への補助金を通じてガソリンの小売価格を170円/リットルに抑える「燃油に対する激変緩和事業の5月以降の実施に加え、支援幅の上限を超える高騰に対しても、一定の支援を行う」ことを求めた。

1月27日から実施されているこの補助金制度は、4月末に期限を迎える。それを延長することが自民党の提案である。他方、揮発油税の減税を通じてガソリン価格の引き下げを可能とする、いわゆるトリガー条項の発動については、政府、与党は当面先送りする方向で調整を進められている。

そこで、この補助金制度が延長された場合、家計にとってどの程度のガソリン支出の節約となるか、以下で試算してみた。補助金がない場合のガソリン小売価格(円/リットル、東京都レギュラー)を試算するために、今後のWTI先物原油価格とドル円レートについて、2つのケースを設定した。

第1のケースは、今後WTI原油先物価格が1バレル100ドル、ドル円レートが125円で推移するものだ(今年5月~12月)。現状程度の価格が維持されるケースである。第2のケースは、原油価格の上昇と円安がさらに進むもので、WTI原油先物価格が1バレル130ドル、ドル円レートが135円で推移するものだ(今年5月~12月)。当然ではあるが、海外で原油価格が上昇する程、そして円安が進むほど、日本の原油輸入価格は上昇し、国内のガソリン価格は高くなる。

ガソリン補助金の延長は世帯当たり5千円~1万2千円の節約に

第1のケースでは、2022年の平均ガソリン価格は、補助金の影響を除いて182.9円/リットルと、2021年平均の153.9円/リットルから18.8%の上昇となる。また第2のケースでは、2022年の平均ガソリン価格は、補助金の影響を除いて201.6円/リットルと、2021年平均から31.0%の上昇となる(図表1)。

実際には、平均ガソリン小売価格が170円/リットルを超えないように政府が補助金を支出している。両者の価格の差が、個人にガソリン購入費を節約することを可能にさせるのである。

2022年のガソリン購入量が2021年と変わらないとして、その金額を計算すると、ケース1では1世帯当たり(二世帯以上)4,985円、ケース2では、1世帯当たり(二世帯以上)12,197円となる。それぞれ、2021年の年間家計支出全体である334万8,287円の0.15%、0.36%のガソリン購入費の節約となる計算だ。ガソリン補助金制度が、家計の負担を軽減するように見える。

図表1 ガソリン補助金制度による家計の節約効果試算

ガソリン補助金の効果はかなり限定的

2つのケースでは、2022年の消費者物価はそれぞれ0.04%、0.09%押し下げられる。その結果、景気浮揚効果は、1年間のGDPの累積効果でそれぞれ+0.01%、+0.03%となる(内閣府「短期日本経済マクロ計量モデル(2018年版)」による)。これはかなり小さい効果と言えるだろう。その理由は、補助金制度の対象となるガソリン(及び灯油)が家計の消費に占める比率は、家計のエネルギー関係支出全体の中では決して大きくないためだ。

ガソリンと灯油の支出が家計全体の消費に占める比率は2.2%であるが、電気代とガス代の比率は5.4%と、その2.5倍にも達する(図表2)。ガソリンと灯油の支出は、エネルギー関連支出全体の29%と3分の1未満にとどまるのである。

ガソリン補助金制度が対象としているのは、燃料費高騰によって家計の負担が増加する品目全体のうち、3分の1に満たないのである。これでは、有効な燃料費高騰、物価高騰への対策とは言えないのではないか。

ちなみに、2022年の平均WTI原油先物価格は、ケース1では前年比+45.0%、ケース2では+74.4%である。GDPへの影響を1年間の累積効果で見ると、それぞれ-0.14%、-0.22%となる(内閣府「短期日本経済マクロ計量モデル(2018年版)」による)。既にみたガソリン補助金制度のGDP押し上げ効果のそれぞれ+0.01%、+0.03%は、これと比べればかなり小さい。

このように、ガソリン補助金制度は、原油価格高騰や円安による家計負担の増加、そして景気悪化効果のうち、ごく一部しか軽減できないことになり、物価高対策として打ち出すには実際のところ力不足である。

企業が決定する電気料金やガス料金を政府が直接下げることができないのであれば、ガソリン・灯油価格等だけを抑える政策には、あまり意味がないのではないか。それよりも、燃料費高騰によって深刻な打撃を受ける企業、家計を見つけ出し、そうした弱者をピンポイントで支援する施策の方が重要なのではないか。

図表2 家計のエネルギー関連支出構成

(参考資料)
「緊急経済対策 「物価高騰で支援金給付」 自民提言案が判明」、2022年4月12日、産経新聞

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