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米国6月分CPIと日米の金融政策展望

2022/07/14

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米国6月分CPIは事前予想を上回る上昇に

7月13日に発表された米国の6月分CPI(消費者物価指数)は前月比+1.3%、前年同月比+9.1%となった。それぞれ前月5月分の同+1.1%、同+8.6%を上回った。前月比上昇率の事前予想の平均は+1.1%程度であり、その事前予想を上回る結果となった。

他方、食料・エネルギーを除くコアCPIは前月比+0.7%、前年同月比+5.9%となった。コア指数の前年比は3か月連続で緩やかに低下している。6月の指数でみると、自動車の価格上昇率はやや鈍化してきた。しかし、コアCPIの約5分の2を占める家賃など住宅関連の価格上昇率にはまだ鈍化の傾向は見られておらず、コア指数についても、明確にピークアウトしたとはまだ言えない状況だ。

全体としては事前予想を上回る物価上昇となったことで、金融市場では次回米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.75%、あるいは1.0%の大幅利上げの可能性を一段と織り込んでいくことが考えられる。

金融市場の注目を集めたCPI統計

今回のCPIが事前に金融市場の注目を大きく集めたのは、前月6月10日に発表された5月分のCPIが、「CPIショック」と呼ばれるほど大きな影響を金融市場に与えたためだ。5月分CPIが前月比+1.0%と事前予想を大幅に上回ったことで、インフレ懸念が一気に強まり、6月14・15日に開かれるFOMCで大幅な利上げ(政策金利引き上げ)が実施されるとの見方が強まった。

この指標の発表をきっかけに米国の10年国債利回りは3%程度から3.5%まで一気に上昇し、ドル円レートが135円台に突入するきっかけとなった。さらに、日米を含め世界の株価が10日近くにわたって大きく調整することになった。

米連邦準備制度理事会(FRB)は、6月のFOMCで0.5%の利上げを実施する考えを金融市場に伝えていた。しかし、5月分のCPIが予想以上に上振れたことで、金融市場は0.75%幅の利上げを織り込んでいき、市場の期待に追随する形で、6月14・15日のFOMCでは、0.75%の利上げが行われた。金融政策が金融市場の期待に大きく左右され、FRBが主導権を奪われたようにも見えた。利上げ幅は、3月に始められた利上げ以降、0.25%、0.5%、0.75%と加速的に拡大したのである。

1.0%の利上げ観測も浮上

6月のFOMC後にパウエルFRB議長は、次回7月26・27日のFOMCでは、0.5%あるいは0.75%の利上げを行う考えを金融市場に伝えている。

ただし今回の6月分CPIが予想を上回ったことから、金融市場は次回FOMCで0.75%の利上げが行われる可能性を完全に織り込み、さらに1.0%の利上げが行われる可能性も半分程度織り込んだ。

大幅な利上げがいずれ米国景気を悪化させるとの懸念もあり、統計発表直後の時点では長期金利は大きくは上昇せず、その結果ドル円レートも大きくは動いていない。しかしこの先は、インフレ長期化の懸念とFRBの先行きの利上げ見通しの上方修正を織り込んでいくなか、米国の長期金利が一段と上昇し、それが円安をさらに進行させる可能性があるだろう。

日本銀行の政策修正の引き金になるか?

その際には、今月は米国のFOMCよりも先に開かれる7月20・21日の日本銀行金融政策決定会合で、円安進行を食い止める観点からも10年国債利回りの上昇を容認するイールドカーブ・コントロールの修正を日本銀行が決める、との観測が金融市場に強まる可能性がある。そうなれば、6月の日本銀行金融政策決定会合の直前に債券市場が大きく混乱した事態が、再び繰り返されかねない。

日本銀行が7月20・21日の金融政策決定会合でイールドカーブ・コントロールの修正を実施する可能性は高くはないものの、その可能性を全くは否定できない。また、向こう数か月間の決定会合、あるいは臨時会合で、「10年国債の指値オペを0.25%で毎営業日実施する」との対外公表分の文言を削除し、より柔軟に指値オペを実施する形で10年国債利回りの一定程度の上昇を容認する確率が、50%程度はあるのではないか。

日本銀行「逃げ切り」の可能性も

残り50%は、米国の長期金利上昇が止まり、円安も止まる場合である。その際には、日本銀行は政策の修正をすることは当面なくなり、正常化策の実施は、来年4月の黒田総裁の退任以降に先送りされるだろう。

米国経済が来年景気後退に陥り、FRBが金融緩和に転じるとの観測が高まってきていることを踏まえれば、日本の債券市場とドル円レートに大きな影響を与える米国の長期金利の上昇余地が限られることで、そうしたシナリオとなる蓋然性も低くはない。それは日本銀行の「逃げ切り」のパターンである。

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