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円安は国力低下のせいではない

2022/10/25

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円安進行は日米長期金利差の拡大による

21日の米国市場で1ドル152円台直前まで円安が進んだが、為替介入によって一気に144円台まで円高に巻き戻された。週明け24日の東京市場では、再び介入観測もあり大きな変動を繰り返したが、概ね150円近辺に収れんして取引を終えた。

神田財務官は、介入実施の有無については先週までと同様にコメントをしない姿勢を続けたが、他方で、円の価値を高めるには国力を高める必要があると語った。具体的には、「労働の移動を含む生産性を上げる改革」、「貿易収支の悪化を是正するためにエネルギーの多様化」の必要性を説いた。

こうした取り組みは確かに重要である。しかし、それが足元の円安進行の理由であるとは思えない。円安が進行する中、日米金利差で説明することに飽きた人々は、金利差以外の要因を指摘するようになってきている。しかし、実際には、現在の円安は日米金利差、特に、日米長期金利差の拡大によって主に引き起こされていることは疑いがない。

国力低下の下で進んだ超円高

それは、ほとんどの国の通貨が、対ドルで下落を続けていることでも明らかだ。すべての国で国力が落ちているはずがない。米国の国力が向上しているとも言えない。

また、生産性上昇率や潜在成長率で国力を測るというのであれば、バブル崩壊以降、両者は低下トレンドを辿っている点に注目する必要がある。その中で、1ドル100円を超える円高、2008年のリーマンショック(グローバル金融危機)後には、70円台までの超円高が生じたのである。この円高を、日本の国力の向上の結果と考える向きはいないだろう。

生産性上昇率や潜在成長率が低下すると、賃金上昇率や物価上昇率のトレンドは低下しやすくなると考えられる。そうなれば、他国に比べて物価上昇率が低い国の通貨の価値は高まる。それは、購買力平価の考え方に基づく。

このように、生産性上昇率や潜在成長率が低下し、国力が低下している国こそ、通貨高に見舞われやすいのである。この点から、「通貨安は国力低下の表れ」と考えるのは誤りだ。

貿易・経常収支の悪化が為替需給に与える影響は小さい

海外からのエネルギー輸入依存に頼る日本は、エネルギー価格上昇時には貿易収支・経常収支は悪化しやすく、それが円売りドル(あるいは外貨)買いの実需を生むことは確かである。

2021年の日本の経常収支は19.1兆円の黒字だった。国際通貨基金(IMF)の10月の世界経済見通しによると、日本の経常収支のGDP比率は、2021年から22年にかけて1.5%程度低下すると予想されている。実額では8兆円程度の悪化となり、経常黒字額はほぼ半減する見通しである。

しかし、東京市場での1日の平均取引額は54兆円程度と推定されるのと比べると、年間8兆円程度の経常収支の悪化が為替需給に与える影響は極めて小さい。

エネルギー価格上昇で日本の貿易・経常収支が悪化したから円安になったのではなく、エネルギー価格上昇が米国の利上げを加速させたから円安になったのである。

FRBが0.25%まで利上げ幅を縮小させるとの観測浮上で円安一巡か

従って、現状では米連邦準備制度理事会(FRB)の先行きの利上げ姿勢とそれを映す米国長期金利の上昇、それによる日米長期金利差の拡大が円安進行の主因である。FRBが0.25%まで利上げ幅を縮小させるとの観測が広まって、初めて米国の長期金利の上昇は一巡し、ドル高円安は一巡することが予想される。それは今年年末から来年1-3月期の間であり、そこまでにドル円レートは160円手前まで進み、そこでピークをつけると現状では考えておきたい。

為替介入は、円安の流れを止めるためではなく、為替の過度な変動を抑える目的で実施している、というのが当局の建前である。しかし、物価高を助長する円安の流れを止めて欲しいというのが、国民が切に願うところだ。

通貨当局が、「円高には日本の国力向上が必要」と述べることは、為替介入の効果には期待していない、というメッセージとならないか。それが、為替介入の効果を削いでしまうことが懸念されるところだ。

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