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利上げペース縮小はいつ起こるか(ECB理事会)

2022/10/28

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ユーロのパリティ割れも大幅利上げの背景

欧州中央銀行(ECB)は10月27日の理事会で、政策金利の0.75%引き上げを決めた。ECBは米連邦準備制度理事会(FRB)に4か月遅れて7月に利上げ(政策金利引き上げ)に踏み切った。7月は0.5%、9月と今回は0.75%の大幅利上げをそれぞれ実施した。利上げ開始前まで-0.5%であった中銀預金金利は、+1.50%にまで引き上げられた。

ECBの2023年のユーロ圏の実質成長率見通しは、標準シナリオでは+0.9%であるが、ウクライナ危機の長期化で資源高が進むリスクシナリオでは-0.9%となっている。経済は景気後退の瀬戸際にある、との見方であろう。

それにも関わらず、ECBが今回大幅な利上げを決めたのは、9月のユーロ圏の消費者物価上昇率が+9.9%と高水準にあるためだ。ECBは、景気が後退に陥ることを覚悟の上で、物価高が定着するのを金融引き締めで回避させる方向に動いている。

それに加えて、明言はしていないものの、ECBは通貨の安定を強く意識して大幅な利上げを決めたとみられる。通貨安は、物価高を助長し、金融市場の不安定化にもつながるからだ。ECBにとっては、対ドルでユーロがパリティ割れに追い込まれていることは容認できないのではないか。

先行きについてラガルド総裁は、追加利上げを行う考えを示す一方、追加でどの程度の利上げが必要になるかについては明言を避けた。中期的に2%のインフレ目標を達成できる政策金利の水準が目指す水準である、とだけ述べている。

米国の大幅利上げについていけなくなる国が先行き増えてくる可能性

ECBは今回0.75%の大幅な利上げを実施したが、今後もそれを続けるかどうかは明らかではない。今月は、オーストラリアやカナダなど、予想よりも小幅な利上げにとどめる国も出始めている。国内経済に配慮した側面が強いのだろう。

ドルに対する自国通貨安を回避しようとすれば、米国の利上げに合わせて大幅な利上げを実施することを強いられるが、それでは国内経済が持ちこたえられなくなってしまう。先般のG7財務相・中央銀行総裁会議では、ドル高の弊害が議論された。FRBが他国の経済、金融にも配慮した利上げ策を実施するよう求める声が各国の間で強まり、そうした主張がにじみ出る文言が、声明文に盛り込まれたのである。

しかし、現状ではFRBが他国に配慮して、利上げ幅の縮小を決めることはないだろう。その場合、他国では、自国通貨安が進むことを覚悟の上で、国内経済に配慮して利上げ幅を縮小する国が今後広がってくるのではないか。あるいは、利上げ幅を縮小する一方で、自国通貨安を回避するために、日本に続いて為替介入に踏み切る国が出てくる可能性もあるだろう。これは、為替介入を嫌う米国との間での軋轢を生み、国際協調が大きく揺らぐ事態となるのではないか。

米国の利上げ幅縮小を待ち望む

FRBが早期に利上げ幅を顕著に縮小させれば、他国もそれに追随して利上げ幅を縮小することができるようになり、国際協調が大きく揺らぐ事態は回避できるだろう。

FRBは、12月に利上げ幅を0.5%に縮小させることを11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で議論するという観測が生じている。しかし、0.25%までの縮小でなければ、事態は大きく変わらないのではないか。それが見えてくるのが早ければ年末から来年1-3月期とみたいが、不確実性はなお小さくない。

米国以上にユーロ圏の経済は厳しさを増している。他方で、物価上昇率は米国よりも高い。さらに、イタリア国債の利回り上昇など、金融市場の不安定性は高い。こうした中、米国での利上げペースの縮小を待たずに、ECBが利上げペースの縮小に踏み切らざるを得なくなる可能性もあるだろう。ただしそれが一段のユーロ安を生じさせ、物価上昇率を高めてしまうリスクがあるのではないか。

このように、他の主要国と比べても、ユーロ圏の金融政策運営は格段に難易度が高い状況だ。米国が利上げ幅を0.25%に縮小させる展望が見えてくれば、ドル高も一巡するだろう。円安に苦しむ日本の当局は、為替介入で時間稼ぎをしながら、その時が来るのをじっと待ち望んでいることだろう。しかし、日本以上にそれを強く待ち望んでいるのがECBなのではないか。

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