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NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 「DX相談ルーム」 企業の価値観変容がデジタル新事業創出には不可欠:デジタル新事業企画編(3)

「DX相談ルーム」

企業の価値観変容がデジタル新事業創出には不可欠:デジタル新事業企画編(3)

2022/09/29

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デジタル新事業立ち上げに向けて進めていく中で、「上層部をはじめとする社内の理解がなかなか得られない」というお悩みをよくお聞きします。デジタル新事業を企画して、進めていくには、企業の価値観変容が不可欠です。容易な道ではありませんが、いかにして、社内の考え方、価値観を変えていくか、そのヒントをお伝えします。

連載「DX相談ルーム」では、DX推進担当者と、NRIのコンサルタントの対話を通じて、DXに関して、多くの方が抱く悩みや疑問にお答えしていきます。
※ DX推進担当者は架空の人物です。

話し手:コンサルタント 栗山 勝宏
1998年大手システムインテグレーターに入社後、2007年1月NRIに入社。
一貫して、業務改善を伴うシステム上流工程(構想、計画、システム調達)、システム開発時のユーザー側活動(要件定義、業務移行、受入テスト)および大規模開発PMOなどのITコンサルティングに従事。
2012年以降、ICTを活用した事業変革・新事業創造、顧客接点高度化(顧客接点改革、CRM/SFA導入、会員制度見直し、顧客情報統合)、業務改革・業務改善などのコンサルティングに従事。
経済産業大臣認定 中小企業診断士。

デジタル新事業には新しい価値観が必要

DX推進担当者
先日、新しいデジタル新事業の企画を経営陣に説明したところ、「投資回収までの期間が長すぎる」と言われて、却下されてしまいました。
わたしは有望な企画だと思っていました。これから磨いていけば、将来大きな事業に成長すると確信しています。
どうやって、上層部に納得してもらえばいいのでしょうか?

栗山
そういうお話はとてもよく聞きます。
デジタル新事業を立ち上げるには、担当者や担当部署だけが頑張っても実現は難しいです。事業に対する考え方や価値観の変容を、経営陣をはじめとする会社全体で変えていくことが必要です。

DX推進担当者
どんな考え方に変えていけばいいのでしょうか?

栗山
まず既存事業とデジタル新事業の違いを理解してもらわなければいけません。既存事業の場合、基本的に、全て成功することが大前提です。それに対して、新事業は小さく失敗を重ねて事業の種を育てていくものであり、経営陣を含め、会社全体で「失敗自体もひとつの成果」と考えて見守っていただく必要があります。上層部が、過去の経験や、既存の事業の感覚で判断をすると間違います。

DX推進担当者
そういう感覚を、上層部に理解してもらうためのヒントはありませんか?

栗山
デジタル新事業と既存事業の違いを分かってもらうためには、たとえば計画書の書き方ひとつとっても工夫が必要です。既存事業と同じように、新事業の計画書を、最初に詳細までしっかり決めて、ひとつひとつの工程を順に進めるウォーターフォール型プロセスで書いてはいけません。経営陣は計画通りに進むものだと思ってしまい、後で「なぜ、この予定通りに進んでいないのか?」と突っ込まれることになります。

新事業の計画書を書く時には、一方通行ではなく、プロセスを繰り返しながら事業化に向けて進んでいくということが分かるようなフローにするべきです。そうしておくと、途中経過報告を求められても、「この部分の1巡目をやっているところです」というふうに答えられます。
プロセスについてだけでなく、投資回収までの期間や、KPI(重要業績評価指標)についても、少しずつ社内を啓蒙していく必要があります。

社内を説得するカギは消費者ニーズ

DX推進担当者
デジタル新事業の企画に対してよく言われるのが、「そんなサービス、自分なら使わない」など、企画の価値そのものの否定です。そう言っている人はターゲットユーザーではないにもかかわらず。

栗山
そう言われる可能性がある企画では、早めにターゲットユーザーの声を集めておきましょう。そして企画の最初の説明時に、ターゲットは価値を感じていることを説明するようにしたほうがいいですね。

DX推進担当者
確かにユーザーの声であれば納得してくれそうですね。

栗山
ただ、消費者ニーズをはじめ、世の中は変化しています。普段から少しずつ、それを伝えておくことも大事です。
例えば、大企業の経営陣の多くは、「所有」に価値を感じた世代ですが、若い世代はカーシェアやシェアハウスなどの「共有」や、さらに機能が利用できればいいとする「機能のみ利用」へと、価値観が変わっているからです。

出口条件の明確化が上層部の判断を後押し

DX推進担当者
経営陣が企画の価値を理解しても、何かと指摘が入り、次の投資判断がなかなかされません。

栗山
社内説得のためには、もう一つ、事業の"出口"を明確にしておくことが大切です。
"出口"とは、新規事業から既存事業への移管、つまり「本格事業化」、またはその逆の「事業撤退」のことです。

そして、"明確化"とは「本格事業化」または「事業撤退」を判断する期間とKPI・KGIを定義することです。

DX推進担当者
期間はどのくらいが適切なのでしょうか?数か月で売上などの成果にコミットするのは正直難しいと思っています。

栗山
そうですね、期間は、事業内容によって異なりますが、多くは1年~2年程度になるでしょう。

おっしゃる通り、KPI・KGIは、これも事業内容によって異なりますが、新事業がすぐに利益をあげることは難しいでしょうから、「アクティブユーザー数」や「導入企業数」、「契約件数」などになるでしょう。

なお、「事業撤退」については、その際の影響も明確にしておく必要があります。 撤退に係るコストや既存事業への影響などです。それは可能な限り定量化しておくことが望ましいです。
こうすることで事業に対する出口が明確となり、撤退の場合のリスクも可視化され、社内の事業投資判断を得やすくなるでしょう。

今回は、デジタル新事業の企画にあたって、しばしば障壁となる上層部をはじめとする企業の既存概念や価値観をどう変えていくか、どういった点を明確にするかそのヒントをご紹介しました。
次回は、新しいがゆえに困難も多いデジタル新事業をやり抜くモチベーションを保つヒント「デジタル新事業をやり抜くために」をお届けします。

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