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貸出抑制が招く米国の銀行不安第2ラウンド:債券含み損が実質的に自己資本を毀損

2023/04/04

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銀行不安はまだ燻ぶっている

2つの米銀が相次いで破綻した日を含む2023年3月15日を終わりとする1週間で、米国の中小銀行の預金流出額は、歴史的な水準に及んだ。一時的にはほぼ銀行危機と言ってよい状況だったのである(コラム「米国の中小銀行は歴史的な預金流出に直面:綱渡りの経営と揺らいだ銀行システムの信頼」、2023年3月27日)。

3月23日で終わる次の1週間では、中小銀行の預金流出には歯止めがかかり、事態はやや落ち着きを取り戻した(図表1)。しかし、中小銀行から大量に流出した預金は戻ってきてはいない。また、前週に預金は中小銀行から大手銀行へと流れたが、この週には、大手銀行からも大量に預金が流出している。MMFなどに資金がシフトしたとみられる。

このような点を踏まえると、米国で銀行不安はまだ燻ぶっており、終息したとは言えない。

図表1 中小米銀と大手米銀の預金の週次変化

「合成の誤謬」が第2ラウンドの銀行不安に

今後注視しておかなくてはならないのは、米国での銀行不安が銀行の貸出抑制姿勢などを通じて実体経済に与える悪影響だ。中小銀行は、次の銀行不安の高まりに備え、自己資本と手元流動性を増強して、顧客や金融市場に対して経営の健全性をアピールするだろう。

その過程では、自己資本比率の引き上げを目指して、リスクアセットである貸出債権やリスク性の高い有価証券を削減して、現預金比率を高める必要が出てくる。その結果生じる信用収縮(クレジット・クランチ)が、実体経済に打撃を与えるだろう。それが銀行の貸出債権を劣化させ、銀行の不良債権増加が収益を圧迫して、自己資本比率がむしろ低下してしまうのである。

このように、経営の安定性、信頼性の回復を目指す銀行の取り組みが、「合成の誤謬」のような形で、むしろ銀行の経営を圧迫してしまう恐れがある。この場合、銀行は第2ラウンドの銀行不安を、自ら手繰り寄せてしまうのである。こうしたリスクが年内にも顕在化する可能性が、米国及び欧州にあるのではないか。

そこで米銀の貸出の動きをみると、実際のところ、明確に鈍化している。今年1月最終週の前年比+5.3%をピークに、3月23日で終わる週には同+3.7%まで低下している(図表2)。信用収縮(クレジット・クランチ)的な動きは、既に始まっているのではないか。

図表2 米銀の貸出の週次変化

巨額の債券含み損にも注目

銀行不安の原因の一つとなった米銀の債券含み損の拡大についても、注視しておく必要があるだろう。昨年3月以降の米連邦準備制度理事会(FRB)の大幅利上げを受けて、債券価格が急落した。収益に与える打撃を回避するため、大手米銀の一部は保有する債券を、時価評価が適用されるトレーディング勘定から、時価評価が免れる満期保有目的の勘定へと移し替えたとされる(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)。

連邦預金保険公社(FDIC)によると、米銀が保有する証券の含み損は、2022年末で6,200億ドルに上る。このうち3,410億ドルは満期保有目的である(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)。しかし、満期保有目的で保有する証券も、シリコンバレーバンク(SVB)のように、預金が流出すれば売却を迫られ、その過程で生じる損失が自己資本を毀損してしまう。この点から、証券の含み損の拡大は、自己資本の質を低下させると考えられる。

そこで、満期保有目的で保有する証券の含み損を自己資本から控除すると、2022年年末時点のFDIC加盟銀行の自己資本比率14.94%は、2%ポイント以上引き下げられ、12.63%となる計算だ(図表3)。

図表3 米銀の証券含み損と自己資本比率

これは、リーマンショック(グローバル金融危機)直前の2008年9月末の12.5%に近い水準である(図表4)。債券の巨額な含み損の影響で、実質的な自己資本比率は見かけよりも低く、ソルベンシー(負債返済能力)リスクは高まっていると金融市場あるいは顧客は判断するだろう。

そのため、銀行は自己資本比率の引き上げを意図して、貸出債権を中心にリスク性資産を抑制し、それが既述のように、銀行不安のリスクを自ら高めてしまう可能性がある。

図表4 米銀の自己資本比率の推移

(参考資料)
"As Interest Rates Rose, Banks Did a Balance-Sheet Switcheroo(米銀が債券含み損を目隠し 資本の質に不安)", Wall Street Journal, March 30, 2023

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