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ロシアが穀物輸出合意からの離脱を発表

2023/07/19

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制裁緩和を求めロシアはウクライナ産穀物の輸出に関する合意から離脱

ロシアは7月17日に、黒海を経由するウクライナ産穀物の輸出に関する合意から離脱すると発表した。この合意は、ロシアの侵略で停滞したウクライナ産穀物の輸出を再開させることでアフリカなどの低所得国を支援し、また高騰した世界的な食料価格の安定を取り戻す目的で、昨年7月にトルコと国連が仲介して成立したものだ。

合意は昨年11月に120日間延長され、今年3月にも再延長された。合意は、当事者に異論がなければ自動的に延長される仕組みであり、延長期間は最短でも120日と定められている。しかし、ロシアは自国の国益を満たしていないとし、期限となった17日に合意からの離脱を表明した。

ロシア外務省は17日に声明を発表し、合意の一部として国連が約束したロシア産穀物・肥料の輸出障壁の撤廃措置が進展していない、と離脱の理由を説明した。さらにロシア外務省は、合意への復帰の条件として、露農業銀行の国際決済ネットワークSWIFT(国際銀行間通信協会)への再接続、農業機械部品の禁輸措置の解除、ロシア運搬船に対する高額の保険料設定の見直し、各国によるロシア運搬船の入港禁止措置の解除、などを挙げた。

ロシアが穀物輸出合意への復帰と交換条件に、従来続くこれら制裁措置の見直し、解除を改めて求めたのは、制裁措置によるロシア経済、財政への影響が足元でより深刻になってきたことの表れではないか。しかし、ロシア側の求めに応じて、先進国が対ロシア制裁を緩和する可能性は低い。

ロシアは黒海経由でのウクライナ産穀物の輸出継続をけん制か

ロシアの合意離脱については、食料不足や食料価格高騰に苦しむ低所得国に大きな打撃を与えるとし、人道的観点から先進各国はロシアを強く批判している。他方、ウクライナのゼレンスキー大統領は17日に、トルコのエルドアン大統領と国連のグテーレス事務総長に、ロシアを除く3者で穀物輸出を続ける方法を検討すべきだとする書簡を送ったことを明らかにした。しかしロシアが合意しない中、黒海経由で安全に穀物を輸出することは難しい。

ロシア軍は18日にウクライナ南部オデーサ一帯を、無人機で複数回にわたって攻撃した。オデーサは黒海経由でのウクライナ産穀物の主要な積み出し港だ。ロシアによる合意離脱後も輸出継続を模索するウクライナをけん制した可能性がある。

小麦価格の大幅上昇は回避

ロシアの合意離脱の影響は日本にも及ぶ。日本はウクライナから輸入する小麦、その他穀物の量は少なく、それらの調達に直ぐに支障が出るわけではない。しかし、世界の穀物価格が上昇すれば、日本の物価高が助長され、個人消費などに悪影響が及ぶ。

ウクライナ情勢などを受けて政府は、今年4月の小麦の企業への売り渡し価格の上昇を抑える措置を講じた。輸入価格の上昇によって本来は13%引き上げられるところを、5.8%の上昇に抑えた。しかし、海外での小麦市況が上昇、あるいは円安が進めば、売り渡し価格のさらなる上昇が生じるか、政府が財政措置を通じて再び価格上昇を抑える必要が出てくる。

ロシアの合意離脱を受けて、17日の小麦価格は乱高下しつつ、終値は先週末比2%程度の上昇となり、大幅上昇は回避された。市場は黒海経由でのウクライナ産小麦輸出停止のインパクトをまだ図りかねているのである。

黒海経由でのウクライナ産穀物輸出が停止しても、鉄道、トラック、ドナウ川経由の輸出など代替ルートで補うことができる。しかし、今年は穀物の収穫量自体が少ない見込みであるため、黒海経由での輸出に制約が生じても、ウクライナの穀物輸出量全体への影響は小さい、との見方が多い。さらに、ロシアが黒海経由でのウクライナ産穀物輸出を完全に止めなければ、安全面のリスクはあるとは言え、一定程度の輸出継続は可能であるかもしれない。こうした観測が、価格への影響を限定的にさせている面がある。

グローバルサウスの反応にも注目

しかし、鉄道、トラック、ドナウ川経由といった代替ルートでの穀物輸出はコストがかかる。そのため、コスト分だけウクライナ産穀物の価格を押し上げることになるだろう。それは、世界の穀物価格には大きな影響を与えないとしても、安価なウクライナ産穀物に依存するアフリカなどの低所得国には大きな打撃となりかねない。

以上のような経緯から、ロシアの合意離脱はアフリカの低所得国などグローバルサウスには脅威となるのである。それを受けてグローバルサウスがロシアとの距離を広げ、先進国との距離を縮めるきっかけとなるかどうかという点も、世界の穀物価格動向と合わせて注目しておきたい。

(参考資料)
「ウクライナ産穀物の積み出し港オデーサ一帯でロシア軍が無人機攻撃…「クリミア大橋」の報復か」、2023年7月18日、読売新聞速報ニュース
「ゼレンスキー氏、ロシア抜きでの輸出延長を提案 「穀物合意」失効」、2023年7月18日、産経新聞速報ニュース

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