フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 1ドル147円台まで円高が進む:マイナス金利政策解除後の金融市場のリスクを浮き彫りに

1ドル147円台まで円高が進む:マイナス金利政策解除後の金融市場のリスクを浮き彫りに

2024/03/08

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

市場は3月マイナス金利政策解除の観測を強めた

3月7日の東京市場で、ドル円レートは1ドル147円台後半まで円高が進んだ。これは、2月7日以来1か月ぶりのドル安円高水準であり、日本銀行が3月の金融政策会合でマイナス金利政策解除に踏み切る、との観測が強まったことを受けたものだ。円高の結果、日経平均株価も一時500円超の大幅下落となった。

ドル円レートは2022年と2023年に1ドル151円台までドル高円安が進んだ後、円高方向に振り戻された。今年2月には1ドル151円台目前と、ほぼ同水準まで円安が進んだが、この水準でドル高円安の流れが阻まれることが3回繰り返されることになれば、この水準は強い抵抗ラインと市場で意識されることになるだろう。その結果、ドル円レートはその後は円高方向に振れやすくなることが考えられる。

3月7日に日本銀行のマイナス金利政策解除が3月に行われるとの観測を市場が強める材料とされたのは、第1は、同日に発表された1月の実質賃金の下落幅が予想外に縮小したことだ。しかし、これは一時的な統計の振れによるところが大きく、賃金と物価の好循環の実現、あるいは実質賃金の早期プラス化の可能性が高まった訳ではない。これは実際には、日本銀行の政策判断に直接的に大きな影響は与えないだろう(コラム「1月の実質賃金下落幅は縮小も上昇まではなお遠い:日銀のマイナス金利政策解除の時期決定に大きな影響はない」、2024年3月7日)。

第2は、連合が、今年の春闘における参加労組の賃上げ要求が5.85%と30年ぶりに5%を上回った、と公表したことだ。しかし、日本銀行のマイナス金利政策解除の判断に大きな影響を与えるのは、賃上げの妥結水準であり、要求水準ではない。さらに昨年の春闘で、賃上げ率は30年ぶりの水準に既に達していた。

第3は、日本銀行の審議委員が講演で、「(2%の物価目標達成に向けて)着実に歩みを進めている」、「賃金と物価の好循環が展望できる」などの発言をしたことだ。しかし、マイナス金利政策解除の時期に関わる発言はしていない。

こうした点を踏まえると、3月7日の金融市場が日本銀行の3月のマイナス金利政策解除の観測を一気に高めたことは、強い根拠に基づいたものとは言えないだろう。

マイナス金利政策解除が円安株高の流れを変える可能性

注目したいのは、3月7日に10年国債利回りが前日比でわずか1bp程度しか上昇していないのに対して、ドル円レートが2円弱と比較的大きく動いた点だ。為替市場の方が、債券市場よりもボラティリティが高いのは、プレイヤーが日本勢にとどまらないことが理由の一つなのではないか。

債券市場の参加者は、「マイナス金利政策解除後もゼロ近傍の低金利が当面維持される」という日本銀行の説明を受け入れており、日本銀行のマイナス金利政策解除については、既にかなり消化した感が強い。

しかし、海外の投資家は、マイナス金利政策解除後の日本銀行の金融政策について、より不確実性を感じており、これが為替市場のボラティリティの高さにつながった面もあるのではないか。

日本銀行は2%の物価目標達成を宣言した上で、政策金利を現状の-0.1%から+0.1%に引き上げることが見込まれるが、2%の物価目標が達成されるのであれば、インフレ率及び中長期のインフレ期待は2%の水準が維持されるはずであり、そのもとで金融政策を中立水準に戻す正常化を行うのであれば、実質政策金利(名目政策金利-中長期の期待インフレ率)はプラスの領域、名目政策金利は2%以上の水準まで引き上げられる必要がある。

国内投資家は、「低金利が当面維持される」との日本銀行の説明を概ね素直に受け入れるとしても、海外投資家は、日本銀行がそのように説明していても、実際にはその約束をたがえて、比較的迅速に政策金利を引き上げていくとの観測を強める可能性が考えられる。

その場合、日本銀行が実際にマイナス金利政策を解除した後も、国内投資家が支配する債券市場は安定を維持し、長期金利の大幅上昇などは回避される一方、海外投資家の影響力をより受けやすい為替市場では、円高が急速に進む可能性があるのではないか。そして急速な円高進行は、急上昇を続けてきた株価が調整する引き金となりやすい。

このように、3月7日の円高株安は、日本銀行がマイナス金利政策を解除した後の金融市場のリスクを、前もって浮き彫りにした側面があると見ておきたい。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ