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マイナス金利政策解除後の総裁記者会見:非伝統的金融政策からの脱却という使命:正常化は始まったばかり

2024/03/19

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政策変更はもっと早くに実施すべきだった

日本銀行は、「2%の物価安定目標が見通せるようになった」として、3月19日の金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除に踏み切った。経済環境が改善したことから「大規模な金融緩和は、その役割を果たした」として、異例の金融緩和を修正するに及んだ、との説明ではある。

しかし実際のところは、物価と賃金が上振れたことで、日本銀行が副作用軽減を狙った政策修正を実施できる環境が整った、ということが本質なのではないか。この点から、コロナ問題、ウクライナ問題をきっかけに生じた世界的な物価高騰という経済の逆風が、日本銀行の政策修正を助ける神風のようなものになったと言えるだろう。

ただし、過去数年間、物価上昇が上振れる中で日本銀行が政策修正を見送ってきたことで、個人のインフレ期待がかなり上振れてしまった。それが足元の消費抑制につながっている面があり、それは、春闘での予想外に高い賃上げのもとでもしばらく続くだろう。今回の日本銀行の政策変更は歓迎したいが、もっと早くに実施すべきだった。

短期金利の操作を主たる政策手段に

決定会合後に公表した資料(金融政策の枠組みの見直し)や、総裁の記者会見で強調されたのは、「短期金利の操作を主たる政策手段」とする点だ。実際には、短期金利の操作以外の政策も多く残されている。

日本銀行は国債の買い入れは当面は続ける。また今回ETFの買い入れの停止を決めたものの、なおその保有を続ける。また、イールドカーブ・コントロール(YCC)の廃止を決めても、長期金利の大幅上昇を回避するために、オペを機動的に活用することも変わらない。今回、大きな政策修正を行ったように見えるが、マイナス金利政策の解除以外は、政策の枠組みは実際には大きく変わっていない。

このように、異例の金融緩和を一気に撤回することはしていない。その中でも「短期金利の操作を主たる政策手段」とするという大きな政策手段の転換を日本銀行が強調しているのは、「非伝統的な金融政策を、短期金利の操作に基づく伝統的金融政策に戻していく、との考え」を強く持っているためではないか。そしてこれは、過去10年間で拡大し、複雑化した非伝統的な金融政策を整理し、短期金利の操作に基づく伝統的金融政策に戻していくことが歴史的使命である、という植田総裁の考えに基づくものではないか。

2%の物価目標は本当に達成が見通せたのか?

日本銀行は2%の物価安定目標の実現が見通せるようになった、として今回の政策修正を実施した。しかし、植田総裁の会見を聞く限り、2%の物価安定目標の実現が見通せるようになった、とは本当のところは言えないのではないか、日本銀行もそう考えていないのではないか、との印象がある。

植田総裁は、「基調的な物価上昇率はまだ2%に達していない」としている。さらに、「予想物価上昇率も2%に達していない」としている。実際の物価環境が期待の影響を強く受けることを踏まえると、予想物価上昇率が2%に達することは、将来、基調的な物価上昇率が2%となる必要条件と言えるだろう。

それがまだ達成できないのであれば、将来、基調的な物価上昇率が2%となり、2%の物価目標の達成もまだ見通せていないということになるのではないか。この点から、2%の物価安定目標の実現が見通せるようになった、との今回の日本銀行の判断とそれに基づいた政策修正は、「見切り発車」だったとも考えられる。

ただし、見切り発車になるとしても、物価と賃金が一時的にせよ大きく上振れているこの時期を好機と捉え、相応の副作用を持つ異例の金融緩和を修正し、副作用の軽減を図りたい、と日本銀行が強く考えたのではないか。

他方、「2%の物価安定目標の実現が見通せるようになった」と宣言したことで、「当面、緩和的な金融緩和が継続する」と日本銀行が説明しているにもかかわらず、政策金利が中立と考えられる2%を超える水準まで迅速に引き上げられるとの金融市場の観測が燻ぶる素地が十分にある。それは、急速な円高進行など、金融市場の不安定化をもたらす可能性があるだろう。

日本銀行は、マイナス金利政策は解除し、YCCの撤廃を決めたが、この先には、国債保有残高の削減やETFのオフバランス化など、難易度の高い正常化策はまだ多く残されている。さらに、市場との対話を通じて、正常化の過程で金融市場の安定を維持できるかどうかについても、なお多くの不確実性が残されている。マイナス金利政策を解除し、正常化開始にようやく漕ぎつけたものの、なお前途多難だ。

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