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金利上昇へのリスク耐性が進む銀行:利益増加効果は前回利上げ局面を下回るか

2024/04/23

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円債のリスク量抑制が進んだ

日本銀行は4月18日に、「金融システムレポート(2024年4月)」を発表した。日本銀行が3月19日にマイナス金利政策を解除し、8年ぶりに政策金利引き上げに動いてから、初めて発行する同レポートとなった。

そこでは、金利上昇が金融機関の経営に与える影響が、大きな分析対象の一つとされた。全体として金融機関は、金利上昇に対する相応のリスク耐性を持っており、日本銀行のマイナス金利政策解除、追加利上げがもたらす各種金利の変化が、直ぐに金融機関経営に深刻な打撃を与え、金融システムの不安定化をもたらすリスクは大きくない。

金融機関の有価証券投資に関わる金利リスク量を、円貨については100bpv、外貨は200bpvで計算すると、金利リスク量全体の対自己資本比率は、大手行、地域銀行が20%程度、信用金庫が30%程度と、比較的低位に抑えられている。

ただし、リスク量の構成には大きな変化が見られている。世界的に金利上昇傾向が顕著となった2022年以降、大手行では外債のリスク量を復元する動きが見られた。他方で、日本銀行の政策転換などによる金利上昇リスクの高まりを受けて、円債については、大手行、地域銀行、信用金庫のいずれも円債のリスク量を抑制する動きがみられる。

円債のリスク量の抑制は、いずれの業態でもデュレーションを短期化させる形で行われている。さらに、時価評価を求められない満期保有目的の円債の比率を高めることを通じて、リスク量を抑制する動きもみられる。同比率は2022年から顕著に上昇しており、円債、外債共に5%程度から足元では15%程度まで上昇している。

金利上昇に対する耐性はかなり高まった

金利上昇によって有価証券の評価損が拡大し、自己資本が毀損されても(国内基準行についても、国際基準行と同様に有価証券評価損を自己資本に算入するとして計算)、自己資本比率が規制水準を維持できる上限の10年国債金利を計算すると、足もとで国内基準行、国際基準行共に8%程度にある。2022年以降、その金利水準は切り上がっている。

世界的に金利上昇が顕著となった2022年以降、国内銀行は円債についてリスク量の抑制を進めてきた結果、日本銀行の政策転換後も国内銀行は金利上昇に対する耐性をかなり強めたと言える。

長期の固定金利貸出の割合上昇で利上げの収益増加効果は前回よりも小さめ

他方、市場金利の上昇は、貸出金利の上昇を通じて銀行の収益を拡大させる。しかしその程度は、貸出のタイプによって大きく異なる。大手行では固定金利型が30%強、市場金利連動型が40%強、プライムレート連動型が20%強となっている。地域銀行では、固定金利型が40%強、市場金利連動型が20%弱、プライムレート連動型が約40%となっている。

市場金利が0.1%上昇する場合、市場連動型の貸出金利が最も大きく上昇し、収益増加に貢献する。そのため、市場金利連動型の比率が高い大手行は、地域銀行に比べて金利上昇による収益増加の恩恵を受けやすい。

大手行では、市場金利上昇から2四半期後以降、市場金利連動型貸出の金利上昇を通じて、貸出金収益率(対貸出残高比率)は0.04%程度上昇、プライムレート連動型を通じて0.02%程度上昇する。

地域金融機関では、市場金利連動型貸出の金利上昇を通じて貸出金収益率(対貸出残高比率)は0.01%未満の上昇、プライムレート連動型では0.03%程度の上昇となる。市場金利の上昇は、地域銀行よりも大手行の収益により貢献する。

他方、固定金利貸出の収益貢献は、大手行、地域銀行ともに小さい。そして、双方ともに2006年の前回利上げ局面と比べて、長期の固定金利貸出の割合が高まったことから、市場金利上昇の収益への効果は総じて弱まっている。

金利上昇へのリスク管理が進んだ一方、利上げによる収益拡大効果は縮小

一方、負債サイドでは、大手行、地域金融機関ともに、前回の利上げ局面に比べて預金に占める定期預金の割合が低下し、要求払い預金の割合が高くなっている。その結果、市場金利上昇が預金コストに与える影響は、全体として高まっている。

このように、前回の利上げ局面と比べて、貸出金利の上昇幅は小さくなる一方、預金コストの増加幅は大きくなりやすい。その結果、利上げ局面での収益拡大効果は、前回と比べて小さくなると見込まれる。

以上の議論を総括すれば、デュレーション短期化を通じて円債のリスク量抑制が進められた結果、金利上昇による有価証券評価損は抑えられる。また、満期保有型の割合が高まっていることも踏まえると、金利上昇が自己資本の毀損を通じて銀行の経営を大きく揺るがすリスクは小さい。銀行はすでに、日本銀行の政策変更による金利上昇に対するリスク耐性を相当に進めたと言えるだろう。

他方、貸出と預金については、長期の固定型貸出の割合が高まる一方、要求払い預金の割合が高まるといった変化が進んだことで、金利上昇による利益拡大効果は、前回の利上げ局面と比べると出にくい、と言える。利上げが銀行の経営に与える影響は、前回の利上げと比べて、マイナス面、プラス面共に抑制されると考えられる。

(参考資料)
日本銀行「金融システムレポート(2024年4月号)」、2024年4月18日

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