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2024年度物価見通しは懸念されたほどには大幅上方修正されず

4月26日の金融政策決定会合で、日本銀行は金融政策の維持を決めた。政策金利である無担保コールレートの誘導目標は0~0.1%で据え置かれた。さらに、長期国債などの買い入れについては、前回3月の会合で決定された方針に沿って実施するとした。3月には、「これまでと概ね同程度の金額(月間6兆円程度)で長期国債の買い入れを継続する」としていた。

前回3月の会合でマイナス金利政策を解除するなど大きな政策変更を行ったことから、今回は、政策変更は見送られるとの見方が大勢だった。

注目された展望レポートの物価見通し(政策委員見通しの中央値)は、2024年度は前回+2.4%を+2.8%に上方修正、2025年度については+1.8%を+1.9%に小幅上方修正、今回新たに公表された2026年度については+1.9%とされた。全体としては、2025年度、2026年度の予測期間後半にかけて、2%の物価目標水準で物価が推移する姿が示された。

2024年度見通しについては、再生可能エネルギー賦課金増額、電気・ガス補助金終了の影響で、2024年度のコアCPIの上昇率は+0.6%押し上げられると筆者は試算している。また、足もとの円安、原油高の影響を織り込めば、2024年度のコアCPIの上昇率は+0.3%上方修正となると試算した(コラム「 日銀・展望レポートで2024年度物価見通しは大幅上方修正か 」、2024年4月24日)。

これに、春闘での賃金の大幅上昇の影響などを反映させる場合、2024年度のコアCPIの日本銀行の予測値は、前回1月時点から1%ポイント上方修正されると筆者は予想していたが、実際には+0.4%の上方修正にとどまった。円安、原油高、賃金上昇の影響を、今回の見通しには顕著に反映させなかったとみられる。

金融市場の想定よりも「ハト派的」なメッセージで円安がさらに進行

このように、展望レポートの物価見通しは、日本銀行の追加利上げ観測を強めるものとはならなかった。また事前には、円安阻止の効果も視野に入れて、日本銀行が長期国債の買い入れ額を削減し、長期金利の上昇を容認するとの見方もあったが、実際には、買入方針は維持された。

さらに、金融政策運営については、「当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」とした。決定会合は、全体としては追加利上げなど政策修正の実施を急がず、金融市場が想定していたよりも「ハト派的」なメッセージとなった。これを受けて、株価は上昇するとともに、為替市場では1ドル156円台まで円安が進んだ。

次の注目は、本日の総裁記者会見で植田総裁が、ワシントンで行ったように(コラム「 日銀による為替市場への口先介入:円安進行と株価下落の板挟みに 」、2024年4月23日)、円安けん制を狙って追加利上げの観測を高めるような発言を行うか、そして、政府による為替介入が行われるか、に移っている(コラム「 1ドル155円台まで円安が進行:日銀の金融政策決定会合後に為替介入はあるか 」、2024年4月25日、「 為替介入を巡る日米当局間の軋轢:円安阻止で日銀への依存が高まるか 」、2024年4月26日)。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。