両者の認識の食い違いを残す米国とEUの関税合意
トランプ米大統領と欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は7月27日に、関税協議で合意したと発表した。
トランプ大統領は、自動車を含む欧州製品に対して15%の相互関税を適用するとし、7月に通告していた30%から引き下げた。EUは合意の一環として、米国から天然ガスなど7500億ドル(約111兆円)相当のエネルギー製品を購入し、さらに6000億ドルを米国に投資することに同意したという。トランプ大統領は、EU側は軍事装備品についても米国から数千億ドル規模で購入する、と説明している。
EU側は米国への報復措置として、930億ユーロ(約16兆円)相当の米国産品への報復関税や、金融を含む米国のデジタルサービスへの制裁を検討していたが、今回の合意を受けて発動を見送る見通しが強まっている。
合意全体の枠組みは、7月22日(米国時間)に日米で合意した内容と似ており、それをモデルに交渉が進められた可能性が考えられる。また、両国の合意が正式な文章では発表されておらず、両国間に認識の相違を残している点も共通している(コラム「15%の相互関税・自動車関税で日米が合意:妥協の産物で経済への打撃は相応に残る」、2025年7月23日、「日米関税合意は対米貿易黒字を6.2兆円削減する計算だが黒字解消には至らない:トランプ政権による対日圧力はなお続く」、2025年7月24日、「日米関税合意とホワイトハウスのファクトシートの問題点」、2025年7月25日)。
トランプ大統領は記者団に対し、現在50%の世界的な鉄鋼・アルミニウム関税は変更されないことを示唆した。他方フォンデアライエン委員長は、EUから米国に輸出する鉄鋼など一部の金属製品について、関税率を低く抑えるための割当制度で合意した、と述べており、両者の発言は一致していない。
またフォンデアライエン委員長は、15%の税率は「医薬品や半導体にも適用される」とした。しかしトランプ大統領は現在関税の適用を検討している医薬品は合意の対象にならないと語っている。米国のラトニック商務長官は半導体関税の詳細を2週間以内に明らかにすると話した。
米政権が主張するフィリピンや日本との合意についても文書は公表されておらず、インドネシアとの合意の詳細も不明確なままだ。5月に公表された英国との枠組みも、鉄鋼関税水準など重要な項目が未解決のままとなっている。
トランプ大統領は、自動車を含む欧州製品に対して15%の相互関税を適用するとし、7月に通告していた30%から引き下げた。EUは合意の一環として、米国から天然ガスなど7500億ドル(約111兆円)相当のエネルギー製品を購入し、さらに6000億ドルを米国に投資することに同意したという。トランプ大統領は、EU側は軍事装備品についても米国から数千億ドル規模で購入する、と説明している。
EU側は米国への報復措置として、930億ユーロ(約16兆円)相当の米国産品への報復関税や、金融を含む米国のデジタルサービスへの制裁を検討していたが、今回の合意を受けて発動を見送る見通しが強まっている。
合意全体の枠組みは、7月22日(米国時間)に日米で合意した内容と似ており、それをモデルに交渉が進められた可能性が考えられる。また、両国の合意が正式な文章では発表されておらず、両国間に認識の相違を残している点も共通している(コラム「15%の相互関税・自動車関税で日米が合意:妥協の産物で経済への打撃は相応に残る」、2025年7月23日、「日米関税合意は対米貿易黒字を6.2兆円削減する計算だが黒字解消には至らない:トランプ政権による対日圧力はなお続く」、2025年7月24日、「日米関税合意とホワイトハウスのファクトシートの問題点」、2025年7月25日)。
トランプ大統領は記者団に対し、現在50%の世界的な鉄鋼・アルミニウム関税は変更されないことを示唆した。他方フォンデアライエン委員長は、EUから米国に輸出する鉄鋼など一部の金属製品について、関税率を低く抑えるための割当制度で合意した、と述べており、両者の発言は一致していない。
またフォンデアライエン委員長は、15%の税率は「医薬品や半導体にも適用される」とした。しかしトランプ大統領は現在関税の適用を検討している医薬品は合意の対象にならないと語っている。米国のラトニック商務長官は半導体関税の詳細を2週間以内に明らかにすると話した。
米政権が主張するフィリピンや日本との合意についても文書は公表されておらず、インドネシアとの合意の詳細も不明確なままだ。5月に公表された英国との枠組みも、鉄鋼関税水準など重要な項目が未解決のままとなっている。
相互関税が世界のGDPに与える影響は-0.64%
今回の米国とEUとの相互関税15%の合意を反映させると、米国の相互関税全体の各国の平均水準は23.5%となり、4月に当初トランプ政権が発表した水準と変わらない計算となる(図表)。4月に発表した相互関税を受けて金融市場は大きく混乱し、それが相互関税の上乗せ部分の90日間停止措置につながった。
しかし、現状で考えれば4月の相互関税率の平均と同水準のものが8月から適用されようとしている。この間、日米の株価の水準は切り上がり、ドル高円安も進んだ。トランプ関税が経済に与える悪影響について、今や金融市場は過小評価をしているのではないか。
現時点で相互関税が世界のGDPに与える影響は-0.64%程度と試算される。また、7月22日(米国時間)に日米で合意した内容に基づくと、トランプ関税全体が日本経済に与える影響は1年程度で-0.55%と試算される。このうち、新たな相互関税15%の直接的な影響は-0.38%である。
他方、新たな相互関税による日本のGDPへの影響は-0.82%であり、両者の差である-0.44%が、相互関税の他国への影響を通じた日本のGDPへの間接的な影響とみなすことができるだろう。これを、トランプ関税全体が日本のGDPに与える直接的な影響の-0.55%に加えた-0.99%が、間接的な影響を含めたトランプ関税全体が日本のGDPに与える影響と試算できる。
(参考資料)
“Trump and EU Reach Tariff Deal, Avoiding Trade War(米とEUが関税合意。米国は最大の貿易相手との貿易戦争を回避)”, Wall Street Journal, July 28, 2025
「米国のEU関税、自動車含め15%で合意 EUは6000億ドル投資」、2025年7月28日、日本経済新聞電子版
しかし、現状で考えれば4月の相互関税率の平均と同水準のものが8月から適用されようとしている。この間、日米の株価の水準は切り上がり、ドル高円安も進んだ。トランプ関税が経済に与える悪影響について、今や金融市場は過小評価をしているのではないか。
現時点で相互関税が世界のGDPに与える影響は-0.64%程度と試算される。また、7月22日(米国時間)に日米で合意した内容に基づくと、トランプ関税全体が日本経済に与える影響は1年程度で-0.55%と試算される。このうち、新たな相互関税15%の直接的な影響は-0.38%である。
他方、新たな相互関税による日本のGDPへの影響は-0.82%であり、両者の差である-0.44%が、相互関税の他国への影響を通じた日本のGDPへの間接的な影響とみなすことができるだろう。これを、トランプ関税全体が日本のGDPに与える直接的な影響の-0.55%に加えた-0.99%が、間接的な影響を含めたトランプ関税全体が日本のGDPに与える影響と試算できる。
(図表)相互関税の経済効果試算


(参考資料)
“Trump and EU Reach Tariff Deal, Avoiding Trade War(米とEUが関税合意。米国は最大の貿易相手との貿易戦争を回避)”, Wall Street Journal, July 28, 2025
「米国のEU関税、自動車含め15%で合意 EUは6000億ドル投資」、2025年7月28日、日本経済新聞電子版
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。