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ベッセント財務長官はFRBに1.50%~1.75%ポイントの利下げを求める

ベッセント米財務長官は13日のブルームバーグのインタビューで、米連邦準備制度理事会(FRB)に利下げを求めるだけでなく、日本銀行には利上げを促す異例の発言を行った。この発言を受けて為替市場では、1ドル147円台半ばから146円台半ばにドル安円高が進んでいる。
 
ベッセント財務長官は、米国の政策金利の水準は現状の4.25%~4.5%よりも1.50%~1.75%低くあるべき、との見方を示した。トランプ大統領は7月に米国の政策金利は現状よりも3%ポイント低い水準にあるべきと主張していた。ベッセント財務長官が指摘した利下げ幅は、トランプ大統領が示したものよりは小幅であったが、金融市場の反応はより大きかった感がある。金融市場はベッセント財務長官の発言をより重く受け止めたのである。
 
米連邦公開市場委員会(FOMC)の参加者が示す政策金利の中長期見通しの中央値は3.0%であるが、ベッセント財務長官が示唆する将来の政策金利の水準は2%台である。ベッセント財務長官の発言を受けて、金融市場では9月のFOMCで通常の0.25%ではなく0.5%の利下げが実施されるとの観測が浮上している。米国10年国債利回りは4.2%まで低下しており、3%台が視野に入りつつある(コラム「7月米CPIで強まる9月の利下げ観測:経済の不確実性がなお大きい中、金融相場の様相を強める株式市場」、2025年8月13日)。

日本銀行の政策は後手に回っていると指摘

ベッセント財務長官のインタビューでさらに注目されたのは、日本銀行の金融政策に言及したことだ。ベッセント財務長官は日本銀行の植田総裁と会談したことを明らかにしたうえで、自身の意見として、「彼ら(日本銀行)は後手に回っている。利上げをしてインフレの問題をコントロールする必要がある」と主張した。
 
日本の現在の物価上昇率の上振れは、供給側の要因によるもので消費を抑制する悪い物価上昇である。日本銀行の対応が遅れることで、先行き物価上昇率の上振れリスクが直接的に強まるとは言えない。また、実質金利が低いことで、経済が過熱している兆候は見られていない。
 
ただし、物価上昇率が上振れる中で日本銀行が政策金利を低位に維持していることが円安を促し、それが輸入物価の上昇を通じて円安と物価高の間に悪循環を生じさせている面があることは否定できない。この点から、ベッセント財務長官が指摘するように日本銀行が後手に回っている、ビハンド・ザ・カーブに陥っている面がないとは言えない。

トランプ政権の経済政策の重点は関税政策からドル安政策に軸足を移しているか

今回のインタビューでベッセント財務長官は、日本銀行の対応の遅れが中長期のインフレ期待の上振れを通じて日本の長期国債利回りを押し上げ、それが米国にも波及していると指摘しており、米国の長期国債利回りの安定のために、日本銀行に利上げを求める主旨の発言となっている。
 
しかし、先日の日本経済新聞のインタビューでベッセント財務長官は、「日本銀行が物価上昇に対処して利上げを進めれば円安相場は反転する」との見方を示していた(コラム「ベッセント米財務長官インタビュー:FRBの利下げを通じたドル安政策に向かうか」、2025年8月12日)。これはドル安円高への期待を表明したものと解釈できる。またこれは、米財務省が6月に発表した半期に一度の為替報告書が日銀の利上げによる円安是正効果を評価していたこととも関連している(コラム「米国為替報告書は日銀の利上げによる円安是正効果を評価:ベッセント財務長官のFRB議長起用でトランプ政権の政策は関税からドル安に軸足を移すか」、2025年6月13日)。
 
このようにベッセント財務長官がにわかに日米の金融政策に直接注文を付けるようになったのは、トランプ政権の経済政策の重点が、関税政策から日米の金融政策の修正を通じたドル安政策、それによる米国貿易赤字の解消に軸足を移している可能性を示唆しているのではないか。
 
(参考資料)
“ベッセント氏、150bp以上の米利下げ注文-日銀は物価抑制で「後手」(Bessent Urges Fed to Lower Rates by 150 Basis Points or More)”, August 13, 2025

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。