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野村総合研究所と
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11月17日付の本コラムにおいて、中国政府による渡航自粛要請に関連する試算値に誤りがありました。読者の皆様にご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。訂正版を、再掲いたします。

​7-9月期GDPは6期ぶりのマイナス成長

内閣府は11月17日に、7-9月期GDP一次速報を発表した。実質GDPは前期比-0.4%、前期比年率-1.8%と、6四半期ぶりのマイナスとなった。事前予想の前期比年率-2.4%程度と比べるとマイナス幅はやや小さかった。

成長率の押し下げに最も大きく寄与したのは、前期比-9.4%の大幅減少となった実質民間住宅投資と前期比-1.2%となった実質輸出だ。実質個人消費は前期比+0.1%と増加を維持したものの、前期の同+0.4%から増加率は顕著に鈍化した。

実質雇用者所得は前期比+0.6%と前期の同+1.0%から低下したものの、比較的堅調を維持するなかでも個人消費の低迷が目立ったのは、物価高の逆風によるところが大きいだろう。

さらに、前期に同+2.3%と大幅に増加した輸出がマイナスに転じたのは、関税導入前の駆け込みの反動と関税導入による米国での販売鈍化の影響が表れたもの、と考えられる。

ただし、同期の大幅なマイナス成長は、前期の成長率が大きく上振れたことの反動が表れたものだ。均してみると経済は低迷を続けているものの、マイナス成長のトレンドに陥ったとは言えないだろう。

経済対策の規模拡大を促すか

政府は現在、総合経済対策の策定を進めているが、7-9月期GDP統計・一次速報が6四半期ぶりのマイナス成長となったことで、経済対策の規模を大きくすべきとの主張がより高まる可能性があるだろう(コラム「経済対策は真水で17兆円超との報道:規模を優先する経済対策の問題点」、2025年11月17日)。

高市首相は、デフレはまだ完全に克服されていないとしており、積極財政と金融緩和継続でデフレからの完全脱却を目指す姿勢だ。内閣府が従来示してきた「デフレ脱却4条件」というものがある。4条件とは、第1に、消費者物価上昇率が2%を超えていること、第2に、GDPデフレーターがプラスであること、 第3に、需給ギャップ(GDPギャップ)がプラスであること、第4に、単位労働コストがプラスであることだ(コラム「需給ギャップのプラス化と満たされたデフレ脱却4条件:政府はデフレ脱却宣言に慎重、日銀金融政策には影響せず」、2023年9月6日)。

第3の条件である需給ギャップ(GDPギャップ)は今年4-6月期には内閣府の推計でGDP比率+0.3%と小幅プラスの状態にあった。しかし、7-9月期の実質GDPがマイナスとなったことで、7-9月期の需給ギャップはGDP比で-0.3%と推計できる。

今までも経済対策の規模の妥当性を議論する際に、マイナスの需給ギャップを穴埋めする規模の経済対策とすべき、との主張がしばしば聞かれてきた。その主張は正しくはないが、7-9月期の需給ギャップがGDP比で-0.3%となる場合、その規模は1.8兆円となる計算だ。

経済対策実施でも日本経済の低調な状況は変わらない

実際には、経済対策の規模が1.8兆円で収まることはないと考える。マイナスの需給ギャップのみが、大規模な経済対策を正当化する理由に使われることはないだろう。実際、減税も含めて17兆円超と報道されている。今回のGDP統計を受けて、さらに規模が上積みされる可能性も考えられる。

昨年の経済対策は一般会計予算で測る「真水」で13.9兆円だった。筆者の計算では、これによって実質GDP成長率は1%強押し上げられる計算だ。積極財政を掲げる高市政権の下、今回の経済対策の真水の規模はこれを大きく上回るとみられるが、17兆円程度の経済対策を前提にした現時点での暫定的な推計では+1%程度である(コラム「経済対策は真水で17兆円超との報道:規模を優先する経済対策の問題点」、2025年11月17日)。

経済対策は毎年実施されていることから、経済対策の効果の分だけ、年間の成長率が押し上げられるわけではない。昨年の経済対策の効果に大きな違いがないのであれば、年間あるいは年度の実質GDP成長率の見通しには、大きな影響は与えないだろう。

国内では実質賃金の低下が続く中、個人消費の弱さが続く一方、輸出には下振れリスクが残ることから、経済対策の効果を考慮に入れても、日本経済の低調な状況は変わらないだろう。

補正予算のあり方を改めて考える

日本では、秋に補正予算編成を伴う経済対策の実施が毎年繰り返されており、既に補正予算は本予算の一部になっているかの印象さえある。

政権は、政策の特色を出しにくい本予算よりも、補正予算でその政策を国民にアピールしようとする傾向が強い。他方、本予算よりも補正予算は審議にかける時間が短く、国会、国民の監視が及びにくい。そのため、無駄な支出が行われるリスクがある。

補正予算は本来、当初予算編成時には想定されていなかった不測の事態に対応する措置だ。

7-9月期のGDP成長率は大きく下振れたが、それは、関税導入前の駆け込み輸出などによって上振れた4-6月期の成長率の上振れの反動という側面が強い。関税の影響や中国からの訪日客数の減少の影響にはなお注意が必要であるが、現状では、日本経済は、物価高と輸出環境の悪化から低調な動きが続いているものの、巨額の経済対策で景気を下支える必要がある状況とは言えない。

物価高が想定よりも長引いていることから、物価高対策を経済対策、補正予算に組み入れることは正当化されるとしても、それだけであれば数兆円規模に収まるのではないか。

積極財政・金融緩和継続による円安が経済対策の効果を相殺するか

高市氏が自民党総裁に就任して以来、為替市場では円安の流れが強まっている。積極財政で財政環境が悪化するとの懸念は、財政と通貨の価値を下落させ、円安を後押しする。そうなれば、円安が物価高を助長し、国民生活を圧迫してしまう。物価高対策としての積極財政が、円安を通じて物価高対策の効果を削ぎ、結果として悪影響をもたらしてしまうリスクがあるということは、高市政権の積極財政政策が抱える大きな矛盾であり弱点だ。

日本銀行の利上げをけん制することも、同様に円安リスクを高め、物価高による経済への悪影響を強めてしまう。高市政権の積極財政、金融緩和継続姿勢がさらに円安を後押しする場合には、国民から批判も出てくることになるだろう。

こうした点から、円安進行が、経済対策の規模を制約する要因となる可能性も考えておく必要があるだろう(コラム「高市政権の積極財政・金融緩和姿勢で勢いづく円安:経済対策の規模を制約も」、2025年11月13日)。

トランプ関税の影響はなお残る

トランプ関税の日本経済、世界経済への影響は、当初懸念されたほどには大きくないように見受けられる。しかしその影響は、今後次第に顕在化していくだろう。
 
関税が1年間の実質GDPに与える影響は、以下の通りと試算される。全体で実質GDPを1年間で0.55%押し下げ、海外での関税の影響を加えると1年間で0.68%押し下げる計算だ。
 
■ 自動車・自動車部品15%関税の影響: -0.14%
■ 鉄鋼・アルミへの50%関税の影響: -0.03%
■ 15%の相互関税の影響:  -0.375%
■ 自動車・自動車部品への15%関税+鋼・アルミへの50%関税+15%の相互関税の影響: -0.55%
■ 海外での関税効果の影響: -0.14% ⇒ 合計で-0.68%
 
相応規模の関税の効果は、今後の日本の成長率を下振れさせるとみられる。さらに、関税による米国経済の動向が不確実な状況も続いている。米国では労働市場の弱さが際立っており、個人消費も概して低調だ。米国経済が明確に下振れる場合、また、トランプ政権が米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ圧力を通じてドル安政策を明確にとる場合、日本の輸出環境は一段と悪化する。日本経済にとって、米国の経済や経済政策が最大のリスク要因である状況は変わらない。

中国政府の日本渡航自粛要請は、GDPを1.79兆円、0.29%押し下げると試算

中国外務省は14日に中国国民に対して、当面の間、日本への渡航を自粛するよう呼びかけた。これは、台湾有事が集団的自衛権を行使可能な「存立危機事態になり得る」とした高市首相の国会答弁への対抗措置と考えられる。これにより、中国の訪日観光客は大きく減少し、日本に相応の経済損失が生じることが見込まれる。

2012年の尖閣問題の際と同様に、向こう1年の中国本土及び香港からの訪日客数が前年比25.1%減少すると仮定すると、インバウンド消費の1年間の減少額は1.79兆円となる。これは1年間の実質GDPを0.29%押し下げる計算となる。

実際に、中国本土及び香港からの訪日自粛がどの程度の規模、どの程度の期間生じるかはまだ明らかでないものの、この先の日本経済や物価高に苦しむ国民生活を考えるうえで、大きな懸念材料が加わった形だ。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。