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原油価格は再び100ドル近くまで上昇

原油価格が再び上昇傾向を強めている。WTI原油先物価格は、13日の東京市場の朝方に1バレル98ドル直前まで上昇し、再び1バレル100ドル台に接近した。
 
新たに選出された最高指導者のモジタバ・ハメネイ師が、ホルムズ海峡の封鎖を継続する方針を示したことが、原油供給の支障が長期化するとの観測を強め、原油価格を押し上げた。ホルムズ海峡の封鎖は革命防衛隊が船舶に運航休止を警告するという非公式な形で行われてきており、イラン政府は国際的な批判を受ける封鎖の事実を否定していた。
 
しかし、最高指導者がホルムズ海峡の封鎖を継続する方針を示したことで、封鎖が正式なものであることが示された。強硬姿勢が強い革命防衛隊に近く、反米志向が強いとされる最高指導者のモジタバ・ハメネイ師が指名されたことで、ホルムズ海峡の封鎖が長期化するとの懸念が強まっている。
 
一方、米国サイドでは、トランプ大統領が、「イランの核開発を阻止することが原油価格の上昇を抑制することよりも重要だ」として、原油価格の上昇を容認する発言をした。さらに、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、米軍がホルムズ海峡での民間船舶の護衛要請を拒否したと報じた。トランプ大統領は、可能な限り早期に、米海軍がホルムズ海峡での民間船舶の護衛を行うとしていたが、10日には大統領報道官が「現時点では護衛していない」と明らかにしている。
 
イラン、米国双方ともに強硬姿勢が続いており、戦争終結で原油価格が落ち着きを取り戻す目途は立っていない。

石油備蓄の放出は、ガソリン価格の継続的な押し下げにつながらない

高市首相は11日夜の記者会見で、民間備蓄15日分と国家備蓄1か月分を放出する石油備蓄の放出を行う考えを打ち出した。それと同時に、補助金によってガソリン価格を1リットル当たり170円程度で安定させる措置を講じる考えを示した(コラム「石油備蓄放出とガソリン補助金復活の合わせ技。19日にも実施が見込まれている」、2026年3月12日)。
 
足もとでは、ガソリン不足への不安からガソリンを買い急ぎ、それが価格を押し上げるという投機的な動きが見られていた。一種のパニックだ。通常、海外で原油価格が急騰した際には、1か月程度の時間をかけて国内のガソリン価格に転嫁されると考えられる。足もとでは一部でガソリン価格が急騰したのは、投機的な動きが背景にあり異例なことだ。
 
政府はこうした異例の社会的混乱を終息させる目的で、石油備蓄の放出を決めたと考えられる。これによって投機的な動きが抑えられ、極端なガソリン価格の上昇は抑えられるだろう。
 
他方、石油備蓄の放出によって、国内の原油や石油製品の需給が緩んで、ガソリン価格が継続的に下がっていくと考えるのは誤りだ。国内のガソリン価格は、円建て原油価格の動きに物流費や利益を上乗せして決まる仕組みであり、国内でのガソリン需給関係は通常の状態のもとでは価格に影響しない(コラム「原油価格上昇の国内ガソリン価格への波及メカニズム」、2026年3月11日)。
 
今回の公的石油備蓄の放出は、随意契約方式になるという。つまり、原油を売却する石油精製業者と価格を政府が決めるものだ。この場合、特定の業者に安い価格で原油を売却して利益供与になってしまうことが疑われる可能性がある。そのため通常では、透明性の高い入札方式で行われる。
 
しかし、入札を行うと高い価格で公的石油備蓄を買い取る先が出てきて、それが国内の石油製品の価格を押し上げてしまうことを政府は警戒したのだろう。
 
他方、不透明さが残る随意契約であっても、政府が業者に販売する価格は海外での原油価格、いわゆる市場実勢に沿ったものとなるだろう。その結果、公的石油備蓄の放出によってガソリンなどの石油製品の価格を下げる大きな効果は生じない。赤澤経産相は、1か月前の産油国の公式販売価格で譲渡する予定としている。

レギュラーガソリン価格は全国平均で1リットル170円程度に早期に収斂

他方、政府が打ち出したガソリン補助金は、国内ガソリン価格に大きな影響を与える。ガソリン補助金制度は2022年1月から昨年末まで約4年間実施されたが、ガソリン価格には概ね狙い通りの影響を与えることに政府は成功している。
 
このように、経験が蓄積され実効性が高い補助金制度によって、来週から再来週にかけて、レギュラーガソリン価格は全国平均で1リットル170円程度に迅速に収斂していくことが予想される。
 
一方、懸念されるのは財政への影響だ。ガソリンの小売価格を一定水準で安定させる今回の補助金制度のもとでは、海外の原油価格が上昇し続ける際には、補助金の額が際限なく膨らむことになる。
 
筆者のメインシナリオは、WTI原油先物価格は平均87ドル程度で推移することを前提としている。イラン攻撃以降の原油価格の平均値も、この水準に比較的近い。その場合、1か月程度後の国内ガソリン価格は1リットル204円となる計算だ。政府は補助金を通じて、この1リットル204円のガソリン価格を1リットル170円に抑えることになる。その際には、毎日40.8億円の財政資金を投入する計算となる。政府は、補助金基金の残り2,800億円をガソリン補助金の財源に充てると説明しているが、その予算は68.6日、つまり2か月強で使い果たしてしまう計算だ(コラム「IEAの石油備蓄放出と国内ガソリン補助金の財政負担」、2026年3月12日)。

健全財政で市場の安定を確保することが重要

海外での原油価格が大幅に上昇すれば、ガソリン補助金の額もさらに大きく膨らむ。その財源を賄うことが難しくなれば、政府は、国内ガソリン価格は1リットル170円で安定させるという措置を、海外原油価格など市場実勢で決まる国内ガソリン価格を10円あるいは20円押し下げるという別の措置に変更せざるを得なくなる可能性もある。その場合、国内ガソリン価格の平均は1リットル170円程度から上昇することになる。
 
当面は政府のガソリン補助金によって、国内ガソリン価格は全国平均1リットル170円で安定することが見込まれるが、海外の原油価格の高騰が続けば、財政面の問題からガソリン価格が再び上昇する可能性も出てくるだろう。
 
ガソリン補助金の下で政府の財政負担が膨らみ、財政がより悪化するとの懸念が、足もとで円安を促し、それが物価上昇リスクを高めているという面もある。これに対して政府は、ガソリン補助金以外の財政政策ではより健全性を重視することで、市場の財政悪化への懸念を和らげる取り組みを進めることが求められる。
 
(参考資料)
「崩れぬイランの海峡支配」、2026年3月13日、日本経済新聞

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。