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電気代の家計負担増加は年間で9,500円

イラン情勢を受けた原油価格の上昇は、様々な価格の上昇をもたらし始めている(コラム「浮上する食料品の消費税率1%案:原油価格高騰と消費税減税の家計への影響を比較」、2026年4月27日)。

しかし、家庭の電気・ガス代は、まだ顕著に上昇していない。これは、火力発電の燃料コストの変動に合わせて電気料金を自動で調整する「燃料費調整制度」の設計による。この制度のもとでは、1-3月の平均燃料価格が6月の価格に反映される。イラン情勢を受けて3月に顕著に上昇した原油価格は、6月から家庭の電気料金に転嫁され始め、その後も電気料金の値上げがしばらく続く。

実際に電気料金がどの程度上昇するかは、今後も原油価格の動向に左右されるが、原油価格が平均で30%上昇するケースを想定すると、電気料金は6%程度上昇することが予想される。これは、世帯当たり(4人家族)の電気代を月額で792円、年間で9,500円増加すると試算できる(図表1)。

これに、ガス代の値上げ分を加えると、家計の月額の負担増加は1,317円、年間で1万5,800円に達する。
 
図表1  電気・ガス代増加の月額家計負担(4人家族)

政府は電気・ガス補助金を検討

しかし実際には、政府が電気・ガス補助金を実施するため、このような家計の大幅負担増加は当面は生じない可能性が考えられる。

4月30日にロイター通信が報じたところによると、政府は7-9月に電気・ガスの補助金制度を導入することを検討している。政府は2024年以降、冬季と夏季に電気・ガスの補助を実施しており(図表2)、今年の1-3月にも実施された(コラム「ガソリン補助金と予算枯渇シミュレーション:電気・ガス補助金と補正予算の議論」、2026年4月30日)。

さらに足元ではイラン情勢を受けて原油価格やLNGの価格が高騰し、電気・ガス代が大きく上昇する見通しであることから、補助金の導入検討は十分に予想されたことだ。

また、予算規模は5,000億円に及ぶ可能性があり、予備費から捻出されるとも報じられている。これは、2026年度予算の予備費1兆円の半分の規模である。

昨年度の補正予算編成で確保された今年1-3月期の電気・ガス補助金の予算は5,296億円だった(図表2)。報道通りであれば、政府はこれと同程度の規模の7-9月期の電気・ガス補助金の予算を、予備費から確保することになる。
 
図表2 過去の電気・ガス補助金の概要

需要抑制策との整合性にも配慮

他方、6月以降の電気・ガス代の家計負担増加は、1か月で1,317円、3か月で3,951円となる計算だ。これを補助金制度で相殺する場合には、2,310億円の予算規模が必要となる計算となる。これは、報道されている予算規模5,000億円の半分程度にとどまる。

仮に政府が5,000億円の予算を確保するのであれば、電気・ガス代の補助を通常のように夏季の3か月に限った措置とせず、半年程度は続けることを想定した措置となるのではないか。

政府は、5月中にも、ガソリンや電気・ガスの節約を呼びかける、需要抑制策を始める可能性があるだろう(コラム「原油の需要抑制策の必要性と石油備蓄枯渇シミュレーション」、2026年5月1日)。しかしそれは、原油価格高騰による電気・ガス代の上昇を補助金で相殺する政策とは矛盾してしまう。補助金で電気・ガス代の上昇を抑えれば、消費者の節約意識を損ねてしまうからだ。

政府は、原油価格の動向、ガソリンや電気・ガスの節約を呼びかける需要抑制策の導入の是非を睨みつつ、予算規模も含めた電気・ガス補助金の具体策を今後慎重に検討していくことになる。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。