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前回の訪日時には高市政権のアベノミクス継承を批判

訪日中のベッセント米財務長官は12日に、高市首相と会談した。片山財務大臣も同席した。13日から予定されているトランプ大統領の中国訪問、日米関係、重要鉱物の確保、日米合意に基づくアメリカへの投資、ミトス問題、そして財政、金融政策について議論したという。
 
注目を集めていた為替政策について、会談後の記者会見で片山大臣は「足もとの為替動向について日米間で非常によく連携してきていることを確認した。今後とも去年9月に発出した日米財務大臣共同声明に沿ってしっかり連携していくということも確認し、全面的にご理解を得たところだ」と述べ、日米間の連携をアピールした。
 
しかし日本政府には苦い経験がある。昨年10月にベッセント財務長官と会談した際に片山大臣は、「日本銀行の金融政策や為替市場への直接的な言及はなかった」と説明した(コラム「日米財務相会談は為替・金融政策は議題に上らず」、2025年10月28日、コラム「日米首脳会談では防衛費増額規模の具体的な要請はなし:ベッセント米財務長官が為替と金融政策に言及し、アベノミクス継承の弊害を指摘か」、2025年10月29日)。
 
ところがその後、米財務省が声明を発表した。それによると「ベッセント氏は会談で、健全な金融政策の策定とコミュニケーションがインフレ期待の安定維持と為替レートの過度な変動を防ぐ上で重要な役割を果たすことを強調した」「アベノミクス導入から12年が経過し、状況が大きく変化する中で、健全な金融政策の策定とコミュニケーションが、インフレ期待の安定維持と為替レートの過度な変動防止に重要な役割を果たす」と述べた、としている。
 
片山大臣は「日本銀行の金融政策や為替市場への直接的な言及はなかった」と説明したが、実際には、「日本銀行の利上げをけん制すると円安が進んでしまう」といった趣旨で高市政権への批判を展開したのである。
 
おそらく、この時のベッセント米財務長官の批判を受けて、高市政権は日本銀行に対する露骨な利上げけん制を封じたと考えられる。そのため、今回は、日本銀行の金融政策を巡って、ベッセント米財務長官が高市政権を批判することはないだろう。

為替市場の過度な変動は望ましくないとの発言

ベッセント財務長官は片山財務大臣との会談後にSNSに「日米間の強固な経済パートナーシップを改めて確認できたことをうれしく思う。為替市場における望ましくない過度な変動に対処する両国の意思疎通と連携は今後も揺るぎない」と投稿した。日本政府が望んでいたように、日本政府の為替介入を積極的に支持するような発言こそされなかったが、予想された通りに両国の意思疎通と連携を強調した(コラム「ベッセント米財務長官は日本で何を語るか」、2026年5月11日)。日本政府はほっとしたことだろう。
 
先進国が為替市場に介入することは市場メカニズムを損ねること等から、基本的には望ましくなく、為替市場が過度に変動する際に例外的に認められる措置、との位置づけだ。そのため、ベッセント財務長官が日本政府の為替介入を積極的に支持する発言をするとは当初から思えなかった。ただし、為替市場の過度な変動に言及したベッセント財務長官の発言は、日本政府の為替介入を間接的に評価する発言だったと言えるのではないか。
 
おそらくベッセント財務長官は、為替介入ではなく日本銀行の利上げを通じて円安修正を実施して欲しいと引き続き考えているだろう。前回の経験もあることから、ベッセント財務長官が3日間の日本滞在中にそうした趣旨の発言をしないかどうかは、金融市場は引き続き気を抜けない。
 
(参考資料)
「高市首相 トランプ大統領の訪中前に米財務長官と会談」、2026年5月12日、NHKニュース

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。