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6月8日の東京市場では、日本株が大幅に下落した。先週末に米国のナスダック総合指数が4%を超える大幅下落となった流れを受け、日経平均株価は前場に一時3100円安と今年最大の下落幅を記録した。

株価下落の背景は主に3つである。第1は、利上げ観測の高まりだ。先週末に発表された5月分米雇用統計が予想を上回ったことで、米連邦準備制度理事会(FRB)が年内に利上げに転じるとの観測が強まった(コラム「利上げモードに入る世界の主要中央銀行と5月米雇用統計」、2026年6月8日)。

また日本では、先週の講演会で植田総裁が6月15・16日に開かれる次回金融政策決定会合での利上げを示唆したことで、金融市場では利上げ観測が強まり、6月の利上げ確率は94%程度にまで達している(コラム「植田日銀総裁の講演は6月利上げを示唆したものか」、2026年6月4日)。さらに今週11日には欧州中央銀行(ECB)が利上げに踏み切るとみられている。

このように世界的に中央銀行の利上げモードが強まり、長期金利が上昇すると、金利上昇に弱いハイテク株には大きな逆風となり、日米の株式市場に打撃が及びやすい。

第2は、中東情勢の悪化と原油価格上昇だ。イスラエルは7日、レバノンの首都ベイルート南郊にあるイスラム教シーア派組織ヒズボラの司令部を攻撃した。その報復としてイランは同日に、イスラエルに対してミサイルを発射した。さらにイスラエルは日本時間の8日未明にイラン中部と西部の軍事標的を空爆するなど両国間では攻撃の応酬が激化している。

イランがイスラエルにミサイルを発射したのは、4月8日の米国との暫定停戦合意以来、初めてのことだ。米国とイランの戦闘終結に向けた期待は後退し、事態は暫定停戦合意以前の状況に戻りつつある。それを受けて原油価格が上昇し、株価下落につながっている面がある。

第3は、6月12日に予定されているイーロン・マスク氏が率いるスペースXのIPO(新規株式公開)が近づいていることだ。スペースXが投資資金を吸い上げる結果、株式市場全体の需給が悪化し、株価の下落が懸念されている(コラム「日本の個人投資家も注目するスペースXのIPO:短期的には株式市場の需給悪化も」、2026年6月8日)。

日米の株式市場には、この3つの逆風が重なっている。ただし、こうした要因だけで、近年のAIブームが終わるとは言えないだろう。AIブームが終焉を迎えるのは、経済ファンダメンタルズの面で、現在の株価がAIの成長、データセンター需要の拡大、AIによる経済の生産性向上を過剰に織り込んだことを裏付けるような新たな証拠が示される時ではないか。

しかし、中東情勢の悪化、原油価格高騰が世界経済の下振れ要因となり、特に日本を含むアジア諸国では深刻な原油・ナフサ不足に陥る潜在的なリスクがある中で、日米の株価は堅調な推移を見せるなど、違和感のある動きが続いてきた。こうした異例の状況は終わりを遂げる可能性があるのではないか。

可能性はなお小さいと考えられるが、株価の大幅下落が収まらず、金融市場の混乱が続く場合には、日本銀行が6月の次回金融政策決定会合での利上げを見送る可能性も出てくるだろう。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。