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首相が週内にも消費税減税を決断か

政府が来年4月から2年間、食料品の消費税率を1%に引き下げる方針を固めたとの報道が相次いでいる。食料品の消費税率引き下げを議論してきた社会保障国民会議は、与野党の意見の隔たりが大きく意見の集約を断念した。社会保障国民会議は、減税案と給付案を併記した中間報告を29日に首相に手渡し、首相は「来年4月から2年間、食料品の消費税率を1%に引き下げる」という議長案に沿って週内にも決断する可能性が高まっている。
 
食料品の2年間の消費税率引き下げについては、野党からは強い批判が出ている。そればかりでなく、28日の自民党の税調幹部による会合でも、「短期間で税率を上下させることは経済を混乱させる」「消費減税は時間がかかる」とし、「給付の方が良い」との意見が出された。
 
近日中に高市首相が食料品の消費税率の引き下げを決断すれば、野党のみならず、自民党内からも批判が噴き出すことが予想される。

最も重要な財源の議論が後回しに

高市首相が食料品の消費税率の引き下げを決断する際には、同時にその財源を明確に示すことができるかどうかが、国民や金融市場の受け止めに大きく影響するだろう。しかし実際には、同時に財源を示すことは難しいだろう。社会保障国民会議でも、食料品の消費税率の引き下げの財源についての議論は十分になされてこなかった。
本来であれば最も重要な財源の議論が後回しにされてきたのである。
 
食料品の消費税率の引き下げについては、夏から秋に制度内容を確定し、秋の臨時国会で法改正を行い、秋から冬にかけて事業者がシステム改修を実施し、来年4月に施行するためには、8月上旬までには食料品の消費税率の引き下げの方針を決める必要がある。
 
一方、財源確保については、歳出削減などで食料品の消費税率の引き下げを賄うのであれば、来年4月の新年度予算編成に間に合えば良いことになるだろう。この点からも、高市首相は、食料品の消費税率引き下げの方針を決める際に、財源確保については今後決めるといった説明をすることになりやすいのではないか。
 
高市首相は、食料品の消費税率の引き下げは赤字国債で賄うことはしない、と明言してきたが、このような説明では、赤字国債で賄われる可能性が強く意識され、金融市場は財政悪化懸念、個人は将来の負担増加懸念をそれぞれ強めることになるのではないか。

補助金と租税特別措置の見直し、外為特会の決算剰余金による財源確保は難しい

政府は年間5兆円規模になる食料品の消費税率の引き下げの財源として、補助金と租税特別措置の見直しで捻出すると説明していた。しかし、産業向け補助金は2024年度で4.7兆円、法人向けの租税特別措置による減税分は2023年度で2.9兆円しかないと考えられる(朝日新聞)。ここから年間5兆円規模となる食料品の消費税を2年間ゼロにするための財源を捻出するのは極めて難しく、仮にそれを実施すれば、政府の産業政策に甚大な打撃となってしまうだろう。
 
「日本版DOGE」と呼ばれる租税特別措置・補助金見直し担当室は、今年1月から2月にかけて、広く国民から意見を募り、寄せられた意見は3.7万件に及んだ。それに基づき各省庁が6月末までに政策減税の租税特別措置や補助金を自主的に点検したが、13府省庁が7月8日までに公表した計約120項目のうち、明確に廃止の方針が示されたのはわずか1件にとどまった。補助金と租税特別措置の見直しは簡単ではない(コラム「日本版DOGEの限界:省庁の自主点検で租税特別措置の廃止方針はわずか1件」、2026年7月10日)。
 
また政府は、追加的な税外収入も財源にすると説明している。これが何を意味するかは明確でないが、外為特会の決算剰余金を消費税減税の財源に充てるべきとの意見がある。
 
しかし外為特会の決算剰余金の一部は外為特会の運用資金である外国為替資金に組み入れ、残りは一般会計や翌年度の外為特会の歳入に繰り入れられている。仮に一般会計に繰り入れる分を減税に利用すれば、その分歳入が減少し、赤字国債の発行につながることから、やはり真の財源確保の手段にはならないのではないか。

税収の上振れ分は安定した財源にはならない:消費税減税が恒久減税になる可能性

このように、年間5兆円規模となる食料品の消費税率の引き下げの財源を確保することはかなり難しい。そうした中、高市首相は、向こう2年間の税収の上振れ分を財源にすることを検討する、と説明する可能性がある。2021年度から2024年度の税収の上振れ(当初予算での税収見積もりからの乖離)は平均で約5.9兆円だった。この点から、年間5兆円規模になる食料品の消費税率の引き下げを税収の上振れ分で賄うことは可能なようにも見える。
 
しかし、税収の上振れ分の予測は難しく、2年間の財源を確保できるとは言えない。また、過去数年の税収の上振れは物価上昇率の上振れによる一時的なものであり、今後についての予測はかなり難しいと考えられる。
 
食料品の消費税率を2年間引き下げると決めても、実際には2年後に税率を元に戻すことのハードルは高い。食料品の消費税率が時限措置ではなく恒久減税になってしまう可能性が相応に高い点を踏まえると、その財源も2年間ではなく恒久財源になり得るものでない限り、2年後からは、赤字国債によって減税が賄われていくとの懸念が残る。

円安進行で減税効果が損なわれる可能性も

食料品の消費税率を8%から1%に引き下げると、4人家族の家計では5万8,863円の負担減少が1年間で生じ、実質GDPは1年間で+0.19%押し上げられる(図表)(コラム「食料品の消費税率を来年4月に1%へ引き下げることは可能か?そして適切か?:財源議論が後回しに」、2026年6月1日)。
 
しかし、財源がしっかりと確保されずに金融市場が財政悪化懸念を強めれば、それは円安を通じて物価を押し上げ、こうした経済効果を損ねてしまうだろう。10%の円安は、物価(個人消費デフレータ)を3年後までの累積効果で+0.27%程度押し上げる計算だ(コラム「続く円安と物価高の連鎖:政府の政策が自ら円安リスクを高める:2022年以来の円安で家計負担は年間4.7万円に」、2026年7月6日)。
 
これ以外にも、来年4月の食料品の消費税率引き下げは、社会保障政策の財源面での障害になり得ること、今後本格化する原油価格高騰による物価高への対応にならないこと、一部でレジの改修が間に合わずに混乱を生じさせること、外食産業や免税事業者の農家に打撃になるなど、課題は非常に多い。こうした点も踏まえて、高市首相には慎重な判断を期待したい。
 
図表 食料品の消費税率引き下げの経済効果

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。