
(1)物流の経営課題化とCLOに求められる役割
法改正で変わる物流管理体制
2026年4月、改正物流効率化法が施行され、一定規模以上の企業に「物流統括管理者(CLO)」の選任が義務化されました。CLOには役員等の経営幹部を充てることが想定されており、物流全体の持続可能な提供の確保に向けた業務全般を統括管理する役割が求められています。
しかし、CLOに求められる役割は法令対応にとどまりません。その背景には、物流が企業経営そのものを左右する課題へと変質しているという現実があります。
物流は経営課題である
労働力不足等により2030年には貨物需要に対してドライバー数が36%不足し、物流費の高騰で営業利益を25%毀損するという予測もあります(※NRIメディアフォーラム資料より)。実際、コンビニ各社の配送頻度削減やEC事業者によるゆっくり配送など、サービスレベルの低下を受け入れてでも物流の寸断を防ぐ動きが広がっています。
物流費高騰による収益の喪失、納期の長期化、顧客満足の低下——これらは現場レベルの改善では解決できず、調達・生産・販売を巻き込んだ「全体最適」の視点が不可欠です。しかし多くの荷主企業では、物流を外部に委ねてきた経緯から自社の物流構造やコストの全体像を把握できておらず、全体最適を図る体制が整っていないのが実情です。
CLOの真の役割
こうした現状を踏まえれば、CLOの役割は、経営課題化した物流問題を解決し、物流の視点から事業の競争力・持続性を守ることにまで広がります。これは、コスト削減や安定稼働を担っていた従来の物流部門長とは異なる役割です。法改正はその契機ですが、CLOが真に果たすべきは、経営視点での物流改革の推進にほかなりません。
本記事では、新任のCLOがどのように目標を立て、改革を進めていくべきか、その指針となる「見るべき指標」と「ロードマップ策定」のアプローチについて解説します。
(2)CLOが見るべき「3つの指標」
(1)で述べたように、CLOには従来の物流KPIとは異なる、新たなものさしが必要です。(1)で整理した経営課題は、収益・競争力をいかに守り高めるかという「攻め」の側面と、物流そのものが止まるリスクをいかに回避するかという「守り」の側面に大別できます。さらに、これらに対する施策を実行するには、データの整備や業務の標準化といった基盤が不可欠です。
これらを踏まえ、NRIでは、CLOが追うべき指標として「物流による事業貢献」「物流の持続性」という2大指標、そしてそれらを補完する「物流の改革度」の、合計3つの指標を提唱します。本指標は、経営的インパクト(=事業貢献)とサプライチェーンのリスク管理(=持続性)の両面から物流を評価し、更にこれらを実現するための基盤整備の進捗を測る軸(=改革度)を加えていることが特徴です。これにより、物流による事業の競争力の向上と、その持続的な改善を推し進めることをねらいとしています。
- ①物流による事業貢献(攻めの指標)
CLOは物流費の高騰による収益悪化や、物流起因でのサービスレベル低下・顧客満足度低下といったリスクに対応するため、物流の高度化を通じて事業の競争力維持に貢献することが求められます。①はこの貢献を測定するための指標です。
指標の考え方例
- 収益性の最大化:主にコスト抑制を目指す視点です。売上高物流費比率の適正化を目指します。
- 成長性への貢献:販売機会を逸失させず維持・向上を目指す視点です。欠品やリードタイムなど顧客満足度や売上への貢献を測定します。
- ②物流の持続性(守りの指標)
サプライチェーンを維持し、運べなくなるリスクを回避するための視点です。
- 物流リソース確保:物流効率化法で努力義務とされる荷待ち・荷役時間の短縮をはじめ、物流現場の負担軽減に積極的に取り組み、物流企業から選ばれる荷主となることが重要です。「運べない時代」に必要なリソースを確保し事業を継続するために、これらの取り組みの進捗を数値化して管理します。
- 社会への責任:CO2排出量の削減や、災害時のBCP策定率などを管理します。
- ③物流の改革度(変革の指標)
上記2つを達成するための土台作りが進んでいるかを測る、補助的ではあるものの重要な指標です。
- データ化度:伝票や発着スケジュールなど、現場のアナログ情報(紙・FAX)がデジタル化されているかを測ります。
- 可視化度:配送状況、顧客やルートごとの費用といった情報が把握できているか、ボトルネックとなる業務がどこか把握できているかを確かめます。
- 標準化度:拠点ごとにバラバラな業務ルールや輸送容器、コードやマスタが統一されているかを評価します。
あえて中間指標的な「物流改革度」を設けた理由は、①物流による事業貢献や②物流の持続性を高めるうえで、自社の改革度の段階によって実行可能な施策が異なるためです。改革度が低い段階では、取り組みやすい施策しか実行できませんが、改革度を高めていくことで、より難度が高く効果も大きい施策が実行可能になります。この軸を設けることで、CLOは自社の現在地を把握し、段階的かつ現実的な改革計画を立てやすくなります。(図1)
図1:CLOが追うべき3つの指標

(3)CLOがまず取り組みたい「改革ロードマップ」の3ステップ
(2)では、CLOが追うべき指標として「物流による事業貢献」「物流の持続性」「物流の改革度」の3つを示しました。しかし、これらの指標を設定し改革を進めるためには、まず自社の物流の現状を正確に把握することが前提となります。
CLOが着任したばかり、物流改革を始めたばかりの段階で、いきなり高度な全社改革を行うのは現実的ではありません。自社の実態に合わせて着実に進めていけるよう、まずは以下の3ステップでロードマップを作ることを推奨します。
Step 1:自社物流構造の可視化
まずは「現状把握」です。サプライチェーンは複雑化しており、自社の物流がどのようなネットワークで、どこにボトルネックがあるのかを把握できていない企業も少なくありません。他社の施策を真似したところで、自社の物流構造と合っていなければ効果も出ないのです。そこで、以下の6つの視点を中心に、自社が置かれている状況を把握することが重要です。
- ビジネススキーム:ステークホルダー間とのモノ・カネ・情報の流れ
- 物流ネットワーク:モノのストック・フローの流れと荷姿・物量、輸送モード等、物理的な輸送経路の広がり
- SCM計画~実行PDCAフロー:物流計画と生産・販売との連携、委託先との役割の可視化
- 物流コスト、物流生産性:床・車・人等コスト可視化、各種指標(積載率、在庫レベル、SLA)の構造整理
- 業務オペレーション&データフロー:オペレーションの標準化・デジタル化状況、マテハン機器等の導入状況
- システム:物流システム構成および社内外周辺システムとの連携度合い、老朽化度合い
Step 2:自社物流に合わせたKPIの設定
可視化で明らかになった自社の特徴や課題に基づき、前述の「3つの指標」ごとにKGIとKPIを設定します。具体的には、以下の流れで進めます。
まず、Step 1で把握した物流構造の中から、自社がコントロールできる範囲と物流企業等との協議が必要な範囲を切り分け、優先的に対処すべき課題を特定します。
次に、各課題の改善による期待効果を見積もり、「3つの指標」のいずれに寄与するかを紐づけます。例えば、売上高物流費比率の低減は「①事業貢献」に、荷待ち時間の短縮は「②持続性」に、伝票のデジタル化率は「③改革度」に対応します。寄与度が大きいものを優先してKPI項目を選定します。
そのうえで、KGI(最終目標)を頂点に、それを構成するKPIへと分解したツリー構造に整理します。個々のKPIが最終目標にどう結びつくかが明確になり、関係者間の共通認識も得やすくなります。
最後に、現状の実績値を起点として、短期・中期の時間軸で段階的に目標値を設定します。Step 1で把握した現状水準と業界水準の双方を参考に、挑戦的かつ達成可能な水準を見極めることが重要です。
Step 3:改革ロードマップの策定
設定したKPIを達成するための具体的な施策を、時間軸に沿って計画します。ロードマップを策定するうえで鍵となるのが、(2)で述べた「物流改革度」の考え方です。図2は、物流改革のテーマを「事業貢献・持続性への寄与度」と「必要な物流改革度」の2軸でマッピングしたものです。
図2:物流改革テーマのマッピングイメージ

図の左下に位置する「物流委託先との契約の見直し」や「オペレーションの効率化」は、改革度が低い段階でも取り組みやすいテーマです。一方、図の右上に位置する「動的な需給コントロール(製販連動)」や「物流の共同化」などは、データの整備や他社・他部門との連携体制が前提となるため、改革度が一定以上に高まって初めて実行可能になります。
このように、これまでの物流におけるデータ活用事例を参考にし、自社が業務改善を行うためにどのような施策が必要で、そのためにどのようなデータが必要かを整理し、施策の効果や実現性を基に段階的なステップを描くことが重要です。
例えば、データがない状態でAIによる最適化を目指しても、期待するような成果を得ることはできません。また、データが不十分な段階で無理にデータ活用型の改革を進めると、序盤で成果が出ず、改革そのものへの信頼を失うリスクもあります。当初から負荷の高いデータ取得を現場に求めると、現場が対応しきれず頓挫する事例も少なくありません。
まずは足元の可視化から始め、早い段階から小さな効果を創出していくことで改革への期待や信頼を高め、機運を醸成しながら効果の拡大を進めていくことが重要となります。
(4)物流改革を競争力の源泉に変えるために
物流関連の法改正は短期的には負担となりますが、同時に自社の物流管理業務を高度化し、競争力の源泉へと転換する好機にもなりえます。
CLOがリーダーシップを発揮し、「物流の事業貢献」「物流の持続性」「物流の改革度」の3つの指標を軸に改革を推進することで、物流はコストセンターから、企業の競争力を支える戦略部門へと進化していくことが期待されます。
NRIでは、物流構造の可視化からKPI設計、ロードマップ策定、そして実行支援まで、荷主企業の物流変革を一気通貫で支援しています。物流改革の第一歩として、まずは自社の立ち位置を見つめ直すことから始めてみてはいかがでしょうか。
プロフィール
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阿久根 智之のポートレート 阿久根 智之
産業ITコンサルティング部
2007年に野村総合研究所に入社。
システムエンジニアを経て、デジタルを活用した事業変革や業務改革などのコンサルティング業務に従事。
現在は主に物流や物流DXの専門家として、物流企業や荷主企業(製造・小売・卸等)に対する物流戦略やデジタル化戦略・業務改革などのコンサルティング業務を行っている。 -
國藤 恭平のポートレート 國藤 恭平
産業ITコンサルティング部
物流事業会社のシステム担当を経て現職。物流領域を中心に、製造業・モビリティといった分野において、事業開発支援、業務・システム刷新計画、新システムの仕様策定・導入支援など、構想から実装まで幅広い範囲でのコンサルティングを手掛けている。
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齋藤 有史のポートレート 齋藤 有史
産業ITコンサルティング部
製造業のシステムエンジニアを経て現職。運輸、製造業等向けに業務改革、IT戦略、システム化刷新・計画などのコンサルティング業務に従事。近年は、物流改革・物流DXなどのCLOアジェンダを中心に、物流企業や荷主企業の変革を幅広く支援。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。