
NRIでは、「AI人材戦略と社内タレント発掘の処方箋 ~AX時代の人的資本経営~」と題したウェビナーを開催しました。ウェビナーでは、「定義なき育成」「データなき配置」から脱却するための、AI人材戦略を構成する4つのポイントや、スキルベースのタレント発掘など、AI時代を勝ち抜く実践的アプローチについて多角的に議論を深めています。
はじめに
生成AIの進化は留まることを知らず、企業の関心も単なる「業務の効率化」から「仕事や組織のあり方そのものの再設計」へと移行しています。しかし、NRIの調査によれば、企業におけるAI活用はCopilotなどのOAツール組み込み機能やチャットボットといった「汎用的な用途」にとどまっているケースが多く、事業・業務の抜本的な変革にまで踏み込めている企業は半数以下にすぎません。
この理想と現実のギャップを生み出しているボトルネックのひとつが「人材」です。
「自社に必要なAI人材のスキル要件を定義できていない」「研修を実施しても一部の社員しか使いこなせず、会社全体の生産性向上につながっていない」「社内から適任者を発掘したくても、データがバラバラでポテンシャルを見抜けない」。このような課題に直面している企業は少なくありません。
こうした背景のもと、NRIでは『AI人材戦略と社内タレント発掘の処方箋 ~AX時代の人的資本経営~』と題したウェビナーを開催しました。
本ウェビナーでは、「定義なき育成」と「データなき配置」から脱却するため、経営課題としてのAI人材戦略の描き方から、具体的な育成サイクル、AIを活用したタレント発掘の仕組みまでを多角的に解説しています。
※詳細はアーカイブ動画でもご覧いただけます。
AI人材戦略は「経営課題」―トップダウンとボトムアップの融合
AIはすでに事業戦略や経営そのものに大きな影響を及ぼし始めており、市場も「企業のAIへの取り組み」を中長期的な競争力の指標として評価しています。例えば一部の海外企業の中には、AI活用で事務業務を効率化し、営業や事業開発へ再配置するといった抜本的な組織改革に踏み切る事例も出てきています。
もはやAI人材の確保・育成は、DX部門や人事部門に任せきりにするのではなく、「経営課題」として全社的に取り組むべきテーマなのです。
AI人材には、AIを自身の業務で“活用”する「AIユーザー」と、AIに関する高い専門性を有し、AIビジネス・サービスを“企画・開発・管理”する「AIスペシャリスト人材」の2タイプに大きく大別できます。それぞれの人材に対して、それぞれの役割に応じた戦略を検討することが肝となります。
「専門資格を持つ人を全社の○%確保する」といった手段が先行してしまうケースやAI人材の確保・育成を単独で検討を進めているケースが散見されます。自社の「AI戦略・変革ビジョン」と整合させ、必要人材・スキルの定義から育成・採用・制度設計、実行までを一気通貫で策定・推進することが重要です。この全体像を踏まえた上で、実効性のあるAI人材戦略を一気通貫で設計・推進するためには、「4つのポイント」があります。

ポイント1:“AIで何を実現するか?”からトップダウンで整理
AI戦略が曖昧なまま闇雲に育成や採用を進めると、実務とのミスマッチが生じます。まずは経営レベルで「AI活用を通じて何を実現したいのか」の戦略を明確にし、そこから逆算して必要な組織機能(戦略、企画、ガバナンス、開発・運用など)を定義します。その機能に基づいて「AIストラテジスト」「AIガバナンスアーキテクト」といった具体的な役割とスキルをトップダウンで落とし込むことが第一歩となります。
ポイント2:全従業員の業務を「+AI」化
トップダウンの整理だけでなく、現場視点のボトムアップのアプローチも不可欠です。AI時代においては、一部の専門家だけでなく、全従業員が既存の専門性にAIをアドオンさせて進化する考え方も重要です。
例えば、従来のITソリューション営業の担当者がAIを用いて提案書を作成する、あるいはプロトタイプを作成し、営業段階から要件を定義できるようになるなど、出来ることの幅が拡がります。これにより、従前の営業スキルから、「提案書作成のプロンプティングスキル」「AIによるプロト作成スキル」などが、従前の専門スキルにアドオンされます。このように、従前から必要なビジネススキル・コンピテンシー・業務スキルの上に、AIスキル(AIリテラシーおよび、業務へ活用するためのAIスキル)がアドオンされるといえます。

ポイント3:実務に根差したAI人材育成と学習サイクルの定着
AI領域は技術の進化が激しく、座学の基礎研修を全社に受けさせても、半年後には陳腐化してしまうという「AI特有の育成の壁」が存在します。
これを乗り越えるためには、基礎研修をeラーニングで効率化しつつ、各部門固有のユースケース(システム開発部門であれば、AI駆動開発など)に特化したワークショップで実践を積むことが重要です。さらに、欧州の先進企業が実践しているように、「Learn(学ぶ)→ Act(実践する)→ Advocate(ナレッジを共有・推進する)」という学習サイクルを組織内に定着させ、常に育成内容をアップデートし続ける仕組みが不可欠です。

ポイント4:AI人材確保に向けた、制度上の対応
市場価値が極めて高い「AIスペシャリスト」を獲得し、社内に定着させるためには、育成だけでなく人事制度そのものの見直しが求められます。
従前のメンバーシップ型に多い年功序列的な人事制度では、AIスペシャリストの専門性や担う職務の大きさに応じた適切な処遇ができず、優秀な人材の流出を招きかねません。職務要件を明確にする「ジョブ型」や、保有スキルをベースとする「スキルベース型」など、専門性を評価・処遇あるいは配置に反映させる制度へのアップデートが、市場価値の高いAIスペシャリスト人材の獲得競争を勝ち抜くために重要な要素となります。
このように、実効性のあるAI人材戦略は「戦略のトップダウン定義」「全従業員のボトムアップ進化」「実務に即した学習サイクル」「専門性を生かした人事制度」という4つのポイントが、AI時代の人材マネジメントに重要な要素となります。単発の施策に終わらせず、これらを一気通貫のサイクルとして回し続けることが、AI時代の競争力を生み出す鍵となります。
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AIによる人材の可視化と“Talent Market Place(TMP)”
全社的なAI人材戦略を描くうえで欠かせないのが「誰がどんなスキルを持っているのか」という人材データの可視化です。しかし、従来のスキル管理には「3つの落とし穴」が存在します。
- 1.目的を見失った形骸化(何のためにスキルを入力するのか分からない)
- 2.真面目にやるほど増える負荷(スキル項目が細分化されすぎて管理不能になる)
- 3.拭いきれないバイアス(自己評価や上司の評価に甘辛のブレが生じる)
こうした落とし穴を回避し、隠れたタレントを発掘するアプローチとして有効なのが、生成AIを活用した分析です。これは、社内に散在する日報や業務報告書、過去の経歴データといった非構造化データを生成AIに読み込ませ、客観的なスキル判定や人材・ポストマッチングレコメンドを行わせる仕組みです。
野村総合研究所が提供するコンサルティングサービス“Talent Market Place(TMP)”は、固定のデータ形式やUIに縛られたパッケージシステム・SaaSシステムではなく、お客様が持つ形式やフォーマットが異なる様々なデータを一括受領し、NRIのAI分析環境で各社オーダーメイドのAIを構築し、全社員の客観的なスキル判定やバイアスに囚われないマッチングレコメンドを提供します。AIが単にスコアを出すだけでなく、「〇〇のプロジェクトでベンダーコントロールを主導し、クラウド移行を成功させた実績があるため、プロジェクトマネジメントスキルが高いと判定できる」といった具体的な理由(根拠)を文章で出力します。AIの出力と人間の判断を効果的に組み合わせることで、評価のバイアスを排除し、納得感の高いスキル判定や配置・育成・採用の意思決定が可能になります。
企業・事業・人材の膨大なデータからジョブディスクリプション(職務記述書)の自動生成も可能で、人事部門は「ポジションに最適な人材」をスキルや意向に基づいた根拠付きでマッチングできます。さらに従業員に対しては、「あなたの強みはここで、目標ポジションに就くためにはこの研修を受けましょう」という具体的な育成カルテを提示できるため、従業員からの情報入力のモチベーション向上と自律的なキャリア形成に直結します。
“Talent Market Place(TMP)”画面イメージ

※上記は一例で、お客様のご要望に応じて、見たいデータを見たい形で柔軟に提供
さらに長期的には、これらの人材・業務の可視化データは「どの部門のどの業務がAIによって代替可能か」「その結果、どの部門へどれだけの人員をリスキリングしてリソースシフトさせるべきか」という、全社トランスフォーメーション(AX)の経営判断を支える強力な土台となります。これまで「この部署に○○人」という量的な検討に留まっていた要員計画が、人材の質的な変化とAIインパクトを踏まえた戦略的リソースプランニングに変わっていきます。

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次の一歩を踏み出すために
AIの導入は、単なるツールの導入ではなく、企業の要員計画の意味を変え、一人ひとりの働き方やキャリア、組織のあり方を根底から変革するポテンシャルを秘めています。
「AI人材戦略」を人事部門やDX部門の個別施策に留めず、経営と現場が一体となって「定義・育成・配置」のデータ駆動型サイクルを回し始めること。それが、このAI時代を勝ち抜くための第一歩となります。
本ウェビナーでは、具体的な企業事例や、AIを用いたスキル可視化ダッシュボードのデモンストレーションなど、実務に直結する生々しいノウハウが多数紹介されています。AI戦略の推進や、これからの人的資本経営のあり方に悩む経営企画、人事、DX推進部門の皆さまには、ぜひアーカイブ動画をご覧いただきたい内容です。
ウェビナー参加者の声(アンケートより抜粋)
- 「AIを使用できる人材を増やす」ということが重要だと考えてしまっていたが、そうではなく、会社がAIを使用して何を実現したいのか、というところから考えなくてはならないと考えを改めさせてくれた。
- AIがどこまで人材配置に貢献するのかが、具体的に理解できた。
- 今、組織内でのAIの活用を考えているが、どのように展開していくのかの説明をするにあたって、今回の内容を引用しながら、社内での運用を促していきたいと思いました。欧州製薬会社の事例は同業者なので、とてもインパクトがありました。
- AI人材の育成、AIの活用方法に悩んでいます。概要を整理するきっかけになりました。Talent Market Placeについても、スキルベースの考え方に基づいており、大変興味深く聞かせていただきました。
プロフィール
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中川 裕貴のポートレート 中川 裕貴
ITマネジメントコンサルティング部
DX戦略策定、DX組織戦略、DX人材戦略に長らく関わり、近年ではそれらにAIをプラスしたAI戦略、AI組織構造、AI人材戦略のコンサルティング案件に数多く従事。
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金池 将司のポートレート 金池 将司
ITマネジメントコンサルティング部
AI/AX戦略策定、AICoE構想、AIガバナンス構築、AI人材育成仕組み構築といった、AIマネジメント領域に関して様々な業界に対するコンサルティングに従事。
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河邊 俊輔のポートレート 河邊 俊輔
AI戦略コンサルティング部
京都大学大学院 機械理工学専攻修了、2010年にNRI入社。製造業・商社の戦略立案・事業開発・技術経営に携わる。
2014年にNRI採用担当に就任し、デジタル広告でエントリー数を3倍に。
2016年から小売・消費財のDXやリテールメディア事業の新規立ち上げに従事。
2020年に米Columbia Business School(MBA)へ留学し、人材・組織論とテクノロジーの融合領域を中心に学ぶ。
2022年からTalent Market Place "生成AIと共創するHR-AX" サービスを自社事業として企画・事業化。数10の官民様々な業界のお客様に対し、AIと人間が協働する新しい人事へのAIトランスフォーメーションを支援。
一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 上席研究員
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。