従業員の健康を考慮した企業経営5つのメリット
#経営
2017/01/16
日本企業の中に、戦略的に従業員の健康維持・改善に取り組む動きが起きています。これまでの健康管理と、何が異なるのでしょうか。
経営視点で健康管理を行う企業を経産省と東証が公表
従業員の健康が会社の運営や業績に影響を与える、だから従業員の健康管理は大切”、ということは、一般的に以前から言われてきました。とはいえ、福利厚生の一環として従業員の健康維持・改善に向けた活動が行われている、というのがこれまでの実態ではないでしょうか。しかしここ数年、企業が従業員の健康を経営視点でとらえる動きが始まっています。
政府の後押しもあり、2015年には、経済産業省が東京証券取引所と共同で「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる(上場)企業」を「健康経営銘柄」として選定・公表する制度を開始。2016年からは、優良な健康経営を実践している法人(上場企業に限らない)500社を2020年までに「健康経営優良法人(ホワイト500)」として認定する制度も始まりました。
従業員が不健康であることのコスト
経営視点での健康管理を企業に対してコンサルティングしているNRIの西尾紀一は、この背景を次のように見ています。
今までは、社員の健康よりも業績を上げるほうが優先度は高かった。また、社員が倒れたら新たな人を採用することで、なんとかなっていた。ところが、社員の不健康は長い目で見れば業績に響くし、費用もかかる。また最近は、必要な人材を簡単には採れなくなっている。こうしたことに、企業が気づきはじめたのだと思います」
さらに、データ分析によって、これまで把握されていなかった組織の健康課題が明らかになり、具体的な施策を打てるようになったことも大きいようです。
健康データの分析から、マネジメント課題が見える
NRIでは2007年から、企業の従業員が加入する健康保険組合向けに、健康診断データとレセプトデータ(医療報酬明細)を分析し、そこで明らかになった健康課題に対して改善策を提案するサービスを開始しました。5年以上の推移も含めて細かくデータを調べていくと、企業、さらには部署によって異なる健康課題の傾向や見落とされていた課題などが見えてくるようです。
うつ病や不眠症、気分障害など、メンタル系疾患の発生率が多いと言われる会社でも、細かくデータを分析すると、管理職側で発生が多い会社と、現場での発生率が高い会社など、各社の違いも見えてきます。また情報システムの開発部門では困難なプロジェクトの期間中に集中してメンタル系疾患が発生する、システムの運用部門では数は少ないけれどコンスタントに発生するなどの違いもあります」
こうした傾向を把握できれば、マネジメント手法の改善を促す、困難なプロジェクトが立ち上がるときは事前に対策を立てるなど、具体的な解決策を打つことが可能です。
健康に配慮した経営のメリット
健康に配慮した企業経営のメリットとして、西尾は次の5つを挙げます。
- 医療費・関連福利厚生費の削減:社員が健康なら、企業の医療費負担が軽くなります。
- 無駄のない人材育成:社員が健康を害して離職した場合、新たに人を採用し、ゼロから育てなければなりません。
- コンプライアンスリスクの削減:自殺や突然死、メンタル系疾患の削減は訴訟リスクを低減します。
- 生産性の向上:限られた時間で最大のアウトプットを出すためには、心身の健康が欠かせません。
- CSR・企業イメージのアップ:健康な社員がいる企業は好感度も上がります。
「多くの経営者は、従業員の健康が重要ということには同意しています。ただ、ほかにもさまざまな経営課題があるので優先順位が上げられない。企業における従業員の健康度合いが、業績や株価にこれだけ影響する、ということを可視化できれば経営者も判断しやすくなり、取り組みが進むと思います。将来的には、有価証券報告書に、健康管理の取り組み度合いや、目標数値に達成できていないことでのリスクなどを明示でき、かつ、中長期的に従業員の健康を大切にする企業は成長している、などのエビデンスを提示できればと願っています」