持続的成長に不可欠なサステナビリティ経営の視点とは
  • 経営

2018年01月17日

持続的成長に不可欠なサステナビリティ経営の視点とは コーポレートイノベーションコンサルティング部 プリンシパル 伊吹 英子

日本企業の「サステナビリティ経営」に対する関心が高まっています。サステナビリティ経営とは「社会の持続可能性に配慮した経営」のことです。以前から志の高い企業は、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)に積極的に取り組んできましたが、2017年7月に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が3つのESG(E:環境、S:社会、G:ガバナンス)指数を選定し、優れた企業を対象に総計で年間1兆円の投資を行うと発表したことが大きな影響を及ぼし、サステナビリティ経営に舵切りをする動きがにわかに活発化しました。「今後は、サステナビリティの要素を経営の枠組みに入れていく動きが主流になるでしょう」と、この分野で長くコンサルティングに携わる野村総合研究所(NRI)の伊吹英子は考えます。

社会課題の解決が事業成長に直結する時代に

ここ数年、企業を取り巻く環境は大きく変化してきました。投資家がESGの視点で投資先企業を選ぶ、消費者が環境に配慮した商品を好んで買う、若いミレニアル世代(2000年以降に成人あるいは社会人になった世代)が就職活動の際に企業のCSRを重視するといった動きが出てくるようになりました。一言でいうと、企業を取り巻くさまざまなステークホルダーの価値観に大きな変化が起こっています。こうした変化に対して、当事者である企業も敏感に反応し、サステナビリティ経営に積極的に取り組むような変化が見られています。

「社会・環境問題に対する国際的な規制の強まりや枠組みの整備が進展し、特にリーマンショック以降は短期的利益を追求する過度な資本主義への懐疑性が高まっています。こうした環境変化のもと、ステークホルダーの価値観が変わったことで、従来では企業にとってコストと考えられていた社会課題の解決や長期的な視点が、競争戦略上も重要な要素になったのです。そこにいち早く気が付き、サステナビリティ経営に関わる取り組みを経営や事業の中核に組み込み対策を打てるかが、企業の持続的成長のカギになってきているのです」と伊吹は指摘します。

サステナビリティ経営を実践することで、企業は具体的に『競争戦略としての寄与』『リスクヘッジとしての寄与』『従業員ロイヤルティとしての寄与』という3つのメリットを享受することが可能になります。

例えば、世界的なある消費財メーカーは、各国政府やNPO、国際機関と協力して貧困地域の衛生問題を解決することを通じて、新たな市場を開発しています(「競争戦略としての寄与」)。英国のある小売事業者は、調達や製造工程を積極的に開示し、サステナビリティに配慮する姿勢を示すことで、気候変動や品質に関する不安感などに対しリスクを回避するとともに、価格のプレミア化にも成功しました(「リスクヘッジとしての寄与」)。日本でもサステナビリティ経営を志向することで、企業の採用活動や従業員のロイヤルティ・エンゲージメントにつながる効果があると考えられます(「従業員ロイヤルティとしての寄与」)。

サステナビリティ経営を実現するために変革が必要な3つの領域

もともと日本には、「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の“三方良し”という近江商人の心得が伝わっており、創業時より長期志向と高い志を企業理念に謳ってきた企業風土があります。しかし近年は、短期的な売上や利益の拡大を追求した経営管理により、現実と理念が乖離してきている実態がありました。

「GPIFのESG投資の姿勢により、日本企業の経営トップのサステナビリティ経営に対する関心が一気に高まりました。今後は経営基盤を中長期的な視点で考え、サステナビリティを考慮することが必須要件になっていくことが想定されます。これを実現するには、社内の統治システムやプロセスといった『オペレーション領域』に多様な変化が必要です。」と伊吹は言います。

サステナビリティが企業のオペレーション領域に与える影響

「オペレーション領域」は大きく3つに整理することが可能です。1つは経営管理・情報開示領域です。企業ビジョンや経営計画の中に非財務・社会価値の組み込みが求められ、本社と事業部門とのより密な連携が必要となります。また、情報開示においては、財務のみならず非財務・社会的観点から積極的な開示が求められるようになるでしょう。2つ目は組織統制領域です。組織としてサステナビリティを推進するためには、経営陣が関心を持ち、意思決定や評価の仕組みなどでサステナビリティの要素を組み込み組織に浸透させていくことが求められます。最後に、サプライチェーン領域です。これまでの品質や価格という条件だけではなく、人権や環境などのESGに配慮をしたサプライチェーンの構築が求められます。リスクヘッジの観点で捉えられがちな領域ですが、取組みによりサプライチェーン全体の付加価値向上へと繋げることができる領域です。

世界的にも、社会課題に対し企業が関与して解決することへの期待はますます高まり、企業は経営や事業自体の在り方を問われる時代になっています。「経営判断や組織統制を財務的な流れで行う従来の仕組みは限界にきています。人権や環境リスク、社会責任などさまざまな軸を中長期の経営戦略に取り入れて変わっていくことで、日本企業のもともとの強みを生かせるのではないかと考えています」と伊吹は推察します。

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