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リフレクション「内省」

野村マネジメント・スクール学長・専務理事 中島 久雄

#経営

2022/10/19

ある大成功を収めているベンチャーキャピタルのCEOは、投資をする際に起業家たちに一風変わった助言を与えている。「もし私があなたのオフィスを訪問したとして、そのときにあなたが机の上に足を投げ出して窓の外を眺めていたら、給与を倍にしますよ」と。
これは、ハーバード・ビジネス・スクールのバダラッコ教授の最新刊『ステップ・バック』の序章にある下りである。
このCEOの助言の意図するところは、まずは「リフレクション(以下、内省)」が経営者の習慣として非常に重要であること、かつ多忙な経営者にとって、「内省」の実行が非常に難しいということ、の2点である。

「内省」とは

「内省」が経営者にとってなぜ重要なのであろうか。「内省」とは、自分が体験したり、決断したりしたことを、自分自身で振り返り、そこから将来の意思決定に役立つ経験則を抽出して体得することである。単純に次々と体験を重ねるだけではなく、いったん立ち止まり、客観的に鳥瞰して、「果たして、それが最善の意思決定だったのか、次はどうするべきか」について考える。経営者としての経験則を常にアップグレードしておくことにより、最善の意思決定が可能となる。
「内省」は、問題点にのみ焦点を当てて改善点を探す「反省」とは異なる。客観的に振り返り分析した後は、今後も続けることと、やめること、付け加えることに分けて、経験則を整理する。日本人の特性として、とかく失敗の「反省」に行きがちだが、結果的にうまくいった事象も「内省」の対象として、今回の意思決定においてよかった点を再確認しておくことが、次の意思決定への自信にもつながる。
また、「内省」は、上司や第三者からの「フィードバック」とも異なる。自分自身で行うからこそ、他人からは分かりにくい自身の価値観や主義に照らした経験則なども磨かれてゆく。
「内省」により、体験を経験則に変換して自分の腹に落としておくと、次に意思決定を下そうとした際に不完全な情報しか得られない局面で、「どうも腑に落ちない」「違和感を覚える」といった経営者の勘を働かせることができ、いったん立ち止まって考えることで、失敗を回避できるのだ。「内省」は、精神世界の習慣のように聞こえるかもしれないが、実は、経営のための実益的なツールである。

「内省」を習慣化し活用するために

「内省」が経営者としてこれほど重要なことだと分かっているのに、なぜ、その実行が難しいのであろうか。何かうまくやるためのコツのようなものはあるのか。
バダラッコ教授が100人以上の経営者にインタビューをしてたどり着いた最も重要なコツは、「ほどほど」を目標にする、である(英文では「aim for good enough」)。多くの経営者はとても忙しく、まとまった時間を取って「内省」に充てることは難しい。冒頭のシーンにあるように、起業家などは、少しの隙間時間を充てて、窓をボーッと眺めながら、自分の意思決定を振り返る。ある事象を、綿密に紙に書き出して、客観的に評価・分析して、体系的にやるような十分な時間を常にはとれない。だからといって、「内省」を先送りすると、次から次へと仕事がやってきて、記憶をたどれなくなる。
「ほどほど」アプローチは、隙間時間の10分を使って、スマホをいったん手から離し、メールの返信を中断して、付箋メモとペンを使って、記憶が鮮明なうちに「内省」を行い、自分の経験則の引き出しにしまうのである。そのときに結論が出ないときは、事実を綴っておくだけでもよい。最善は善の敵。最初から構えずに、まずは中庸を目指して第一歩を踏み出すことに意味がある。

このように「内省」を習慣化できたら、どこかでしっかり時間をとって、これまで蓄積された経験則を体系化できるとさらによい。その際は、場を設定して「チームで行う」のも有用である。あくまでも自身の行動を、自身で見つめ直すことには変わりないのだが、複数人で「内省」をやることで、ほかの人が行う「内省」のアプローチを参考にできる。
さらには、まだ体験していない意思決定課題について、ケーススタディなどを利用して疑似的に体験して、「私なら、自分の経験則に基づいて、こう判断するだろう」とチームの中で意見を戦わせることも有用であり、未経験の課題に対する経験則をあらかじめ会得することもできる。
野村マネジメント・スクールでは、ケーススタディを通じた経営意思決定の演習を集中型合宿型で行っている。バダラッコ教授も、古くから野村マネジメント・スクールで「経営トップのための経営戦略講座」の教壇に立っていただいているお一人だ。次期経営者育成で課題をお持ちの方がいらっしゃれば、40年の歴史のある当スクールの門を、ぜひ叩いてほしい。

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