フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ NRI JOURNAL DX後半戦のはじまり

NRI JOURNAL

未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

DX後半戦のはじまり

研究理事 コンサルティング事業本部副本部長 桑津 浩太郎

#AI

#DX

#桑津 浩太郎

2024/06/20

DXが広く世の中に認識されるようになって から5年以上が経過した。身の回りを見ても数多くのSaaSやスマホアプリが導入され、たとえば、タクシーの配車予約や経費精算も大きく様変わりしている。企業の情報システムは外からは分かりにくいが、クラウド基盤へのアップリフトやモダナイゼーションによって、強靱な体質に生まれ変わっている。それでもトランスフォーメーションはまだ不十分であり、多くの関係者の奮闘が続いている。

生成AIの台頭と、DX前半戦の課題

その一方で、生成AIに代表されるAIブームも押し寄せてきている。ホワイトカラーの業務領域を手始めに、文章生成や会話応答、イラスト・デザインの自動生成などのクオリティの高さが、われわれ利用者に驚きを与えている。次の段階では文字と画像などのマルチモーダル、さらには機械の動作などの大規模学習も進められており、何でも自動化できるわけではないだろうが、少なくとも単なるツールではなく、人の能力拡張(Augment)のはしりが見られることになる。数え方にもよるが、今回の4回目のAIブームは、かつてのPC、インターネットのように、AIの「民主化」を通じて社会に大きな影響を与えそうである。
DXの取り組みが始まってからある程度の時間を経たこともあり、経営者の中には「DXの山は越えた」と思っている方が多いようである。しかしながら、今回のAIの特徴は、DXとどう関係するのか、これまでのDX検討をどう整理していくのかといった課題に対して急いで腹を決めなければならないということであり、この点を看過してはならない。
これまでのDXは、トランスフォーメーションというよりもデジタル化の取り組みが先行していた。金融、出版、決済など多くの業種や業務でデジタル化が進展したが、悪い言い方をすると、リアルな制約が多く、デジタル化しやすいところから手をつけて、現在ではほぼやり尽くした状態になっている。しかし、残っている領域、業務は依然として多く、訳あってデジタル化が困難な部分でもある。
これまでをDX前半戦とすると、これからのDX推進(後半戦)では、物流、店舗、製造などリアルとのかかわりを欠くことのできない業種が主役となりそうである。

AIが実現する、サイバーとリアルの連携

DX後半戦では、前半戦に比べて労働力不足は厳しさを増しており、急激なインフレ傾向の到来も人件費高騰と併せて労働力調達の負担が増している。生産性の向上だけでなく、サービス維持の観点も必要となってくる。
AIの登場は、自動運転や見守り、無人販売など、人の目や手を必要とする業務を代替・補完してくれるものであり、残されているDX未開拓領域への有効手段と期待されている。生成AIは、テキスト、画像、音声など、ホワイトカラーの業務やコンテンツ制作との相性のよさが注目されており、たとえば自動運転においては、状況認識をテキスト化し、キャラクター経由で、利用者とコミュニケーションするといったアプローチが取り組まれている。その先には、人の活動補完、人とのコミュニケーション、操作や認識とコミュニケーションをまたがった第二の「マルチモーダル化」(第一はテキスト、画像、音声などのマルチモーダル化)が始まると予想されており、AIの役割はこれまでの枠を超えてくることが確実視される。
あらためて海外状況を見渡すと、欧州、EU委員会は、これまでの「Web3.0」(メタバースなど)から、非常に短期間で「Web4.0」コンセプトを打ち出しており、その中心にAIを置き、AIと人間との相互作用を重点ターゲットとしている。中国でも、来年、期間の終了を迎える「中国製造2025」に続いて、AIと従来からの機械との連携を重視した「MachineTech」の検討を進めているといわれる。
また、2030年までに標準化が計画されている次世代移動体通信「Beyond5G/6G」も、これまでの人のコミュニケーションから、マシンと連携することを前提とした「AI delivery」のためのネットワークをコンセプトとしており、これからのAIはサイバーとリアルのつなぎ役となることが想定される。

つまるところ、DXは決して終わってなどおらず、後送りにしておいた残り半分に取り組むべき時期が来たといえる。そのためのツールであるAIを使って、サイバーとリアルを横断するアプローチで残された分野に取り組むというのが、これから2030年までの世界的な動向になりそうである。
日本がサイバーとリアルの連携を「Society5.0」として打ち出したのが2016年。世界に先駆けること8年、見ようによっては世界が日本を追いかけてきたわけであり、先見の明があるといえなくもない。わが国が課題先進国であることの証左でもあるが、ここでDX疲れといってAIブームを傍観してしまえば、課題先進国から課題先送り国になってしまう。それだけは避けたいところである。

知的資産創造4月号 MESSAGE

NRIオピニオン 知的資産創造

特集:岐路に立つ障害者雇用

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn
NRIジャーナルの更新情報はFacebookページでもお知らせしています

お問い合わせ

株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

NRI JOURNAL新着