フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 GOTOトラベル見直しとその経済効果の試算

GOTOトラベル見直しとその経済効果の試算

2020/11/24

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

GOTOトラベル事業は感染リスクを高める可能性

新型コロナウイルスの感染が急拡大する中、20日に開かれた分科会は、感染が拡大している地域では3週間程度酒類を提供する飲食店に営業時間短縮や休業要請をするほか、GoToトラベルの対象から一部地域を除外することなどを検討するよう政府に求めた。これを受けて菅首相は21日に、新型コロナウイルス感染症対策本部の会合を首相官邸で開き、GoToトラベルの運用を見直す考えを表明した。感染拡大地域を目的地とする旅行の新規予約を一時停止する。その対象地域は、都道府県知事の判断をもとに選定する方針だ。

また22日に西村経済再生担当大臣は、一部地域の新規予約を一時停止するなどの制度設計ができ次第、各都道府県の知事と導入について協議する考えを示した。感染拡大地域を目的地とする旅行の新規予約を一時停止するなどの措置については、観光庁が検討を進め、数日中にも公表する考えだという。

GOTOトラベル事業は、感染対策と経済活動再開との両立を目指す政府の政策のいわば目玉政策として打ち出されたものだ。しかし、それ自体が感染拡大を助長するという大きな問題を抱えている。また、感染リスクを軽減させる狙いから、利用プランが高額なものに偏る傾向もある。そのため、幅広い事業者が恩恵を受けることにはならない、という問題もある。

感染対策と経済活動再開は両立できない

筆者は、GOTOトラベル事業は、感染がかなり収束した後に実施すべきであり、現時点での実施は問題が多いと考えてきた。旅行は、個人が感染リスクを踏まえて慎重にその是非を判断すべきであるが、その上で、感染対策を十分に講じつつ旅行を楽しむことは妥当である。

しかし、補助金を通じて政府が国民に旅行を積極的に促すGOTOトラベル事業は、こうした国民の合理的な判断を歪め、感染リスクを高めてしまうのではないか。政府は、感染リスクを高めない経済再開、経済活動を妨げない感染対策はともに最大限進めるべきだが、両者が両立できない部分は必ず出てくる。その場合には、感染リスクの抑制を優先すべきだろう。

中小事業者も含めて、すべての観光関連業者を支援するのであれば、引き続き給付金、助成金の増額、延長の方が妥当な手段ではないか。

感染への警戒がGOTOトラベルの利用を4分の1にとどめる

GOTOトラベル事業の経済効果を確認してみよう。国土交通省の発表によれば、7月22日から10月31日までに、GOTOトラベル事業のもとで宿泊・旅行代金が割引された総額は、少なくとも約1,886億円、10月1日から11月9日までの地域共通クーポンの付与額は少なくとも約201億円である。

宿泊・旅行代金の35%に相当する割引額から、その間のGOTOトラベルを利用した全体の旅行支出額を計算すると、5,389億円となる。必ずしも正確ではないが、これをGOTOトラベル事業によって追加的に生まれた国内旅行需要と見なそう。さらに東京が除外されていなかった場合、つまりGOTOトラベル事業がフルに稼働していた場合の需要を計算すると、推定で6,150億円、月間平均で1,809億円、年換算で2兆1,708億円となる。

ところで、GOTOトラベル事業は、国内旅行需要を1年間で8.7兆円増加させると試算される(コラム「東京除外で減少するGo Toトラベルの消費押し上げ効果は1.5兆円程度か」、2020年7月17日)。この試算値に対して、実績値は4分1にとどまっている計算だ。その分、感染への警戒が、GOTOトラベルを利用した旅行需要を減少させている、と考えることができる。

4都市適用外で個人消費は月間347億円、年換算で4,159億円減少

GOTOトラベル事業がそのまま実施される場合と比べて、感染者の再拡大を受けて、事業全体を一時停止する場合には、月間平均で1,809億円、年換算で2兆1,708億円の消費が減少することになる。これは個人消費の0.71%、GDPの0.39%に相当する規模だ。

現時点では、旅行の新規予約を一時停止する感染地域は、都道府県ではなく市単位で定めることも検討されている。しかし、現在の感染の急拡大を踏まえれば、より規模を広げた対策が必要ではないか。

仮に東京都、大阪府、愛知県、北海道の4地域がGOTOトラベル事業から適用外とされる場合には、その地域の住民(個人所得の規模で全国の34.5%に相当)がGOTOトラベル事業を利用できなくなると仮定して計算した場合、個人消費額は月間平均624億円、年換算で7,489億円減少する計算となる。

一方、現在適用外が検討されている大阪市と札幌市が実際に適用外となった場合には(人口からの推計)、それぞれ月間平均96億円、年換算で1,152億円減少となる。さらに、東京23区、大阪市、名古屋市、札幌市の4都市が適用外となった場合には、それぞれ月間平均347億円、年換算で4,159億円減少と計算される。

このように、GOTOトラベル事業を一時停止する、あるいは感染拡大が顕著な一部地域を除外する場合には、相応のマイナスの経済効果が生じることは避けられない。

しかし、現在の感染状況を踏まえれば、それは妥当な措置である。筆者は、一部地域の除外ではなく、すべての地域でGOTOトラベル事業を見合わせるのが良いと考える。その方が、やや長い目で見た場合には経済活動の正常化を助けることになるだろう。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn