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銀行の地球温暖化対策への株主提案は日本でも

2021/01/13

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日本でも銀行に地球温暖化対策を求める株主提案

仏資産運用大手のアムンディなど15の機関投資家は英大手銀行のHSBCに対して、化石燃料に関する与信残高を減らすなど、地球温暖化への対応強化を求める共同の株主提案を実施したことを、1月11日に発表した(注)。HSBCは今年4月の株主総会でその賛否を問うことになる。地球温暖化対策に関する株主提案は、従来では環境団体などが中心だったが、今回のように、今後は機関投資家が主導していく形となるかもしれない。

HSBCは欧州の主要銀行の中では、英バークレイズに次いで石炭を含む化石燃料関連企業への与信が多いとされている。そのバークレイズは、2020年の株主総会で、11の機関投資家からパリ協定の目標に沿わない業種への融資を停止する提案を受けた。その対抗策として、2050年までに排出量を実質ゼロにする提案を企業が行い、可決された。

石炭火力事業への融資残高が世界の中で突出して高いとされる日本の大手銀行でも、今年は同様な機関投資家の共同提案が出てくるかもしれない。昨年には、環境NGO「気候ネットワーク」がみずほFGの株主となり、3月に「パリ協定の目標と整合的な経営戦略を策定し、毎年開示すること」を提案した。また、欧州の機関投資家がこの提案に賛同すると表明した。この提案は6月の株主総会では否決されたが、35%の賛成票を集めた。

メガ3行は石炭火力発電所の新設事業に対する融資を原則停止

これがきっかけになったとみられ、昨年10月にみずほFGは新設石炭火力への融資は実行しないとした上で、2019年度末で約3千億円に上る石炭火力に対する既存の融資残高を2030年度までに半減し、2050年度にはゼロにする方針を打ち出した。三井住友FGも石炭火力発電所の新設事業への融資停止を発表し、2019年に既に原則停止を決めていた三菱UFJ・FGと足並みを揃えた。

ただし、こうしたメガ銀行の対応も、欧米の大手金融機関と比べてなお消極的との見方が、投資家の間には根強いようだ。メガ3行は、新設石炭火力への融資は実行しないとしているが、既存の発電所の修復などへの融資は可能と見られる。また、事業者への出資という形での資金供給の道も残されていよう。さらに、石炭火力関連企業に対する融資全体を停止するものではない。仏BNPパリバなどは、石炭火力事業が売上高に占める割合が高い電力会社などに、企業向け融資にまで踏み込んで制限をかけるとしている。

この点から、日本の銀行に対してさらなる地球温暖化対策を求める世界の投資家、環境団体などの声は、今年も高まりそうだ。

社会貢献とリスク管理の2つの観点

ところで、銀行の地球温暖化対策、気候変動リスクへの対応は、こうした社会貢献の観点だけから求められるのではない。それに加えて、銀行自身のリスク管理の観点も欠かせない。

金融庁は3メガバンクに今後30年を見据えた気候変動リスクの財務分析と対策を求め、また日本銀行も金融機関の経営への影響を点検する。金融庁と日本銀行は、3メガバンクなどの大手金融機関に対して、気候変動による経営への影響を分析するストレステスト(健全性審査)を、2021年度にも実施する検討に入ったという(コラム「地球温暖化対策に中央銀行はどう関わるか」、2020年12月17日)。

銀行は、洪水などの自然災害の影響を受けやすい企業、今後ビジネス縮小が避けられない石炭火力発電関連企業について、融資のリスクを把握、計測することが求められる。そして、後者の企業に対しては、リスク軽減の観点から融資を抑制していく方向となろう。それが、石炭火力発電の比率を低下させ、地球温暖化対策ともなる。この点では、社会貢献の観点からの地球温暖化対策と自らのリスク管理の観点からの地球温暖化対策とは矛盾しない。

しかし、銀行が石炭火力発電を行う企業への融資を一気に停止し、その事業が行き詰まれば、銀行の資産が毀損されて不良債権化し、財務リスクを高めることになる。このように、社会貢献とリスク管理が矛盾するケースも出てくるのである。

CO2排出量が多い企業の排出量削減を支援することが重要に

また、石炭火力発電を一気になくすことは、現実的ではない。それは急激な発電コストの増加と経済の混乱をもたらすだろう。地球温暖化対策のためであれば何を犠牲にしてもよい、と言う訳ではない。段階的なアプローチという観点も重要である。中期的に段階的かつ円滑な石炭火力発電離れを促していくことも、銀行にとっては重要な社会貢献となるはずだ。

さらに、石炭火力発電関連企業が、その発電の効率化や他の発電方式への転換を進めていくことは、既にCO2の排出量が少ない企業がさらなる削減に取り組むよりも、国全体としてはCO2の排出量削減に大きく貢献するはずだ。

銀行が、CO2排出量が少ない企業には積極的に融資する一方、CO2の排出量が多く、その削減余地が大きい石炭火力発電関連企業には、それに必要な設備投資などに必要な融資を一律行わないのであれば、地球温暖化対策には逆行してしまう。

社債では、CO2排出量が少ない企業がグリーンボンドを発行しやすい一方、CO2排出量が多い企業がグリーンボンドを発行できないことで、CO2排出量の削減に取り組むための資金が手当てできないという問題もある。それに対応するため、CO2排出量が多い企業がその削減に取り組むための資金を調達できるトランジションボンド(移行債)の発行が世界では増えている(コラム「グリーンボンド・トランジションボンドの信頼性を高める」、2020年12月21日)。日本政府もその発行を後押ししようとしている。

これと同様に銀行も、CO2排出量が多い企業がその削減に取り組むことを資金面で支援することこそが、重要な地球温暖化対策となるだろう。銀行には、社会貢献と自らのリスク管理とのバランスをとりつつ、地球温暖化対策を進めていくことが求められる。

銀行には、時流に流されずに、経済、社会にとって中長期的に最善となる形での地球温暖化対策を模索することが求められる。

(注)「HSBCに気候変動対応求める 機関投資家が株主提案-仏アムンディなど15社 運用資産250兆円」、日本経済新聞電子版、2021年1月11日

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