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決め手を欠く米個人投資家の株価吊り上げ行動の規制

2021/01/29

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ロビンフットは取引規制を導入も1日で緩和

米国では、オンライン掲示板「レディット」を通じて個人投資家が特定銘柄の買い入れを呼びかけ、いわば結託して株価を吊り上げる、株価操作的な行動が際立っている(コラム「ヘッジファンドに敵対し暴走する米個人投資家」、2021年1月28日)。

米証券取引委員会(SEC)は1月27日に、「オプション市場と株式市場の相場変動について承知しており、注視している。他の規制当局と協力して、状況を分析し、規制対象の企業、金融仲介業者、その他の市場参加者の行動を見直している」との声明を出した(注1)。

こうしたSECの強いメッセージに即座に反応するように、個人投資家が多く利用しているとみられるオンライン証券ロビンフットは28日、ビデオゲーム小売りのゲームストップや映画館チェーンのAMCエンターテイメント・ホールディングスなど、最近の株価急騰銘柄の取引を制限する措置をとることを発表した。ところが、それに対する顧客からの強い反発を受けて、29日から取引制限を緩和することを余儀なくされたのである。

SECの牽制やロビンフットの措置に強く反発するかのように、米個人投資家は、レディットを通じた株価吊り上げの行動をさらに強めているようにも見える。28日には、レディットの人気ページ「WallStreetBets」で、アパラチア地域の無名のエネルギー企業「ニュー・コンセプト・エナジー」の株式購入が呼びかけられた。その結果、同社の株価は1日で1,000%近く上昇し、時価総額は数時間で1億2,800万ドルに膨らんだという(ブルームバーグ)。

ターゲット株式から商品にも広がる

いくら証券会社が特定銘柄の取引規制を実施しても、個人投資家は直ぐに別の銘柄にターゲットを移してしまうのである。こうした状況の下では、特定銘柄の取引規制が、投資家の行動を抑えるのには有効でないことは明らかだ。

また、28日のニューヨーク市場では、銀先物の価格が一時6%も急騰した。これもまた、レディットで取り上げられ、個人投資家のターゲットとされたせいだ。日経速報ニュースによると、レディットには、「(銀の地金市場は)地球上で最も操作された市場の1つ」、「銀行が実質的なインフレを補うために金と銀を操作している」などと投稿されたという(注2)。

ゲームストップの株価吊り上げは、その銘柄を空売りするヘッジファンドをショートスクイーズ(空売り勢の損失覚悟の買い戻し)に追い込むことが目的だった。そして攻撃の対象は、銀行にも広がっているかのようである。いずれにしても、既存の権威に挑戦する、という姿勢がそこにはうかがえる。

利益動機だけではない投資行動が市場を歪める

個人投資家の投資行動が、純粋に投資で儲けることにあるのであれば、ここまで株価の吊り上げは成功しないだろう。一定程度株価が上昇すれば、先行き価格が下落すると考える投資家が一定程度出てきて、株を売り始めるためである。このような利益動機に基づく投資行動こそが、株式市場の流動性、効率性、安定性を支えていると言えるだろう。

ところが、レディットを通じた株価吊り上げでは、こうした純粋な利益動機だけでなく、巨額の利益を上げてきたヘッジファンドなどを叩く、という別の動機に基づく投資行動の要素が入り込む。そのため、株価が異常な動きを示すのではないか。

これは、利益動機ではなく政策手段として行う中央銀行による資産購入が、資産価格を歪めるのと似ている面がある。中央銀行の場合には、その市場の歪みこそが、政策効果となるのであるが。

SNSという未知の領域を取り入れた新たな金融規制

オンライン証券のロビンフットは、銀行のコミットメントライン(信用供与枠)を使って、少なくとも数億ドル程度の資金を確保したと報じられている(ブルームバーグ)。急騰した株価が大幅に下落に転じた際には、オプション取引を行う顧客が代金の支払いに滞り、証券会社が立て替える必要が出てくることを警戒して、財務の健全性を維持する方策を講じたのかもしれない。

足もとでの米個人投資家の行動は、金融市場の信頼性を損ねると共に、ヘッジファンドや証券会社の経営を不安定にすることで、金融システムの安定にも悪影響を及ぼしかねない由々しき状況だ。

これに対抗するには、取引規制、証拠金引き上げなど、既存の対応では役に立たないのではないか。表現の自由、情報発信の自由等の個人の権利に十分配慮しつつも、SNSが投資行動に大きな影響を与える状況を修正する必要があるのではないだろうか。そうでなければ、いずれは多数の個人投資家が大きな損失を被り、深刻な社会問題へと発展してくる可能性がある。

金融当局は、SNSという未知の領域を取り入れた新たな規制を早急に模索していく必要に迫れている。

(注1)「SEC、ゲームストップなど株価急騰を「注視している」」、ダウ・ジョーンズ米国企業ニュース、2021年1月27日
(注2)「レディット狂騒曲、商品市場にも NY銀、一時6%急騰」、日経速報ニュース、2021年1月29日

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