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米国での仮想通貨規制の本気度

2021/06/01

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米国金融規制当局が仮想通貨への規制を協議

仮想通貨(暗号資産)ビットコインの価格は、依然乱高下を続けている。5月に入ってからは、中国当局が金融機関に対して仮想通貨に対するサービスを提供することを禁じると通告したこと、あるいはマイニングを禁じたことがビットコインの価格の急落を引き起こした。また、米EV(米電気自動車)メーカーであるテスラのマスクCEO(最高経営責任者)が、「ビットコインを同社のEVの購入代金として受け入れる」とした今年2月の方針を撤回したことも価格下落のきっかけとなっている(コラム「暗号資産(仮想通貨)ビットコイン急落とコロナ相場の終焉」、2021年5月21日)。

ビットコイン、あるいはその他の仮想通貨の次の価格下落のきっかけになりえるのは、仮想通貨への規制の動きなのではないか。市場の関心も高まっているだろう。実際、大きな価格変動を受けて、米国の規制当局は1.5兆ドル規模に及ぶ仮想通貨の規制を協議し始めている。関係する規制当局は、米連邦準備制度理事会(FRB)、通貨監督庁(OCC)、連邦預金保険公社(FDIC)である。今月、第1回目の会合が開かれた。

FRBのクオールズ副議長(金融規制担当)は5月25日に、仮想通貨への規制の議論で、国内の各金融規制当局が協力している、と表明した。共通の規制の枠組みや資本処理、運用処理を含め、意見の取りまとめを急いでいるという。また監督に向けた共通枠組みの構築は優先順位が高い、として、近いうちに何らかの結論が得られるよう期待しているとも述べた。

規制議論には政権交代が関係

ただし、規制についての具体的な方向性はまだ見えていない。議論に参加しているOCCのマイケル・スー長官代理はフィナンシャル・タイムズ紙に答えて、「会合の目的は政策を作ることではなく、各機関の間で検討課題のアイデアを出し合うことだ」としている。この発言から推察すると、近いうちに彼らが仮想通貨に対する厳しい規制を打ち出す可能性は高くないのだろう。

仮想通貨に対する規制の議論が米国で始まったのは、最近の激しい価格変動だけがきっかけではない。それは、政権交代とも関係している。トランプ前政権のもとでは金融規制の緩和が進められたが、その中で仮想通貨への規制の動きも強まらなかった。トランプ政権下のOCC長官はブライアン・ブルックス氏であった。彼は仮想通貨取引所大手のコインベースの前CLO(最高法務責任者)だ。そうした人物が、仮想通貨への規制強化に乗り出すはずはない。政権交代が、仮想通貨に対する規制の議論を始めるきっかけの一つになったと言えるだろう。民主党主導の議会も規制強化を求めており、金融規制当局にはそれに答える必要が出てきたのである。

リブラへの対応とは大きな差

昨年まで、各国の金融規制当局は一致団結して、フェイスブックが主導したリブラ(現ディエム)に強い圧力をかけた。それと比較すると、仮想通貨の規制についての各国金融規制当局同士の協調姿勢は、決して強くないように見える。

彼らが、グローバル・ステーブルコインとして設計されたリブラ構想を潰しにかかったのは、それが世界で広く利用されるにようになれば、マネーロンダリング(資金洗浄)などに利用されるだけでなく、銀行預金からの資金シフトなどを通じて、各国の銀行システムに大きな打撃を与える可能性、各国の金融政策に悪影響を与える可能性などを強く懸念したためだ。重要なのは、決済手段として利用されるかどうかなのである。

価値が法定通貨と結びついているステーブルコイン以外の仮想通貨は、金融システム、金融政策などに与える影響が小さい。そもそも金融機関が保有する仮想通貨はわずかな額であり、仮にその価格が急落しても、金融システムが揺らぐことはない。

個人投資家保護が規制の中心か

他方で懸念すべきは、個人が仮想通貨への投資に失敗して、大きな損失を出してしまうことである。それは金融システムの問題ではなく社会問題である。

イングランド銀行(英中央銀行)のベイリー総裁は、仮想通貨への投資について、「有り金をすべて失う用意があるなら買えばいい」と突き放した発言をしている。仮想通貨への投資は、あくまでも個人のリスクで勝手にやればよく、当局は責任を持たない、というニュアンスではないか。しかし、民主党リベラル政権下の米国では、そうはいかないのかもしれない。

米証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長は、「株式と同様の投資家保護が必要」との考えを示している。仮想通貨への規制の動きは、投資家保護の観点を中心に進められる可能性が出てきたのではないか。他方でゲンスラー委員長は、「まず、どの規制当局が仮想通貨を監督するのかを法律で決める必要がある」とも発言している。

仮想通貨が、金融政策や金融システムに大きな影響を与えないことから、銀行監督を担うFRB、OCC、FDICがその規制にそれほど強い関心を抱かないのであれば、SECがそれに関与していく形へ向かうのではないか。

(参考資料)
"Crypto currency concerns push US watchdogs to take more active role", Financial Time, May 31, 2021
「暗号資産規制巡り米当局が協力、共通枠組み『優先』=FRB副議長」、2021年5月25日、ロイター通信

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