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悪い円安批判を警戒する日本銀行

2022/01/18

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物価見通しの上方修正は比較的小幅に

1月17・18日に開かれた日本銀行の金融政策決定会合では、直前に政策変更の可能性を示唆する報道も一部に流れたものの(コラム「市場に大きな影響を与えた日銀利上げ検討の報道」、2022年1月14日)、実際には大方の予想通りに政策維持が決定された。

展望レポートでは、2022年度と2023年度の消費者物価(除く生鮮食品)見通し(政策委員見通し中央値)が引き上げられた。昨年10月の2022年度+0.9%、2023年度+1.0%から、それぞれ+1.1%、+1.0%へと引き上げられた。

原油価格上昇の影響などを受けて、物価見通しの上方修正は事前に予想されていたが、予想よりもやや小幅な上方修正にとどまった感じだ。2022年度から2023年度にかけて物価上昇率が加速する見通しとはなっておらず、また、日本銀行の物価目標の+2%に接近していく見通しにもなっていない。

足もとでの物価の上振れは、原油価格上昇など海外要因によるところが大きく、内需の拡大、賃金上昇を伴う「持続的な物価上昇率の高まりではない」との日本銀行の見通しが示されたと言えるのではないか。

物価見通しのリスクバランスを巡る誤解

展望レポートの中で見通しの数値とともに注目を集めたのが、物価見通しのリスクバランス評価である。その記述は、前回までの「下振れリスクが大きい」から、今回「概ね上下にバランスしている」へと修正された。これを受けて、日本銀行が先行きの物価の上振れリスクを警戒し始めた、との解釈も聞かれる。またそれは、将来の正常化期待を高めることにもつながるものだ。しかし、それは誤解である。

政策委員の物価見通しのコンセンサスは、見通し中央値の数値で表現される。それに尽きるのである。政策委員は、自らが数値で示した見通しに対して、リスクがバランスしているか、上振れリスクが大きいか、下振れリスクが大きいかを合わせて示す。

各政策委員の物価見通しが確率分布(横軸が物価上昇率、縦軸が確率)に従っていると考えた場合、各自が示す物価見通しの数値は、確率分布の山が最も高い物価上昇率、いわば最頻値を示す。一方で、確率分布が正規分布のように左右対称で中央が最も高くなっているのであれば、平均値はこの最頻値とずれてくる。平均値が最頻値よりも高い場合には、各委員は自らの物価見通しのリスクバランスは「上振れリスクが大きい」と回答し、平均値が最頻値よりも低い場合には、リスクバランスは「下振れリスクが大きい」と回答する。それらを集計して全体の傾向を表現したものが、展望レポートの基本的見解に記述される、リスクバランスの評価となるのである。

ただしその評価が、物価見通しの中央値のリスクバランスに関する政策委員のコンセンサスを示しているという保証はない。ましてや、リスクバランスの評価が、日本銀行の中期的な物価見通しを示していると考えるのは、全くの誤解である。

日本銀行は正常化観測を一定程度容認か

ただし、日本銀行はそうした誤解を黙認することで、円安に歯止めをかける意図があるのではないか。足もとでの円安傾向が物価に与える影響は実際にはそれほど大きくない。しかし、人々の間では、海外の中央銀行が金融政策の正常化に動く中、達成困難な高い物価目標を掲げる日本銀行は政策を維持し、その結果、円安と物価高が進んで国民生活を圧迫する、との批判が出始めている。日本銀行としては円安が大きく進むことで、そうした批判が高まることは避けたいところだろう。

「先行き物価の上振れ傾向が強まることで、2%の物価目標は達成できなくても、2023年4月の黒田総裁の退任後など、日本銀行がいずれは正常化に動く」との観測が浮上すれば、それが円安に歯止めをかける効果が期待できるだろう。そこで日本銀行が、今回の展望リポートのリスクバランス評価の修正、その他さまざまな面から、市場に浮上する日本銀行の正常化観測の浮上を黙認、あるいは時にはそれを暗に誘導する形で、急速な円安進行の阻止を試みる可能性があるのではないか(コラム「15~30%割安の円がもたらす真の弊害は何か」、2022年1月17日)。

もちろん、正常化期待が強まり過ぎて、急速な円高進行や長期金利の大幅上昇が生じる場合には、それをけん制するオペレーションや情報発信を行う可能性も、将来的には考えられるところだ。

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