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米CPIで進んだドル高円安と日銀の指値オペ実施

2022/02/14

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米1月消費者物価を受けて円安が進行

3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での金融政策決定を占う観点から注目されていた2月10日(木)の米国1月消費者物価は、前年同月比+7.5%と1982年以来の高い上昇率となった。食料・エネルギーを除くコア指数は、前年同月比+6.0%である。季節調整済み前月比は前月と同じ前月比+0.6%となり、加速傾向には歯止めがかかりつつあるようにも見えるが、依然高い上昇率が続いている。中古車・新車、タバコなど、財の価格の高い上昇が目立つ。

この統計を受けて米国の利上げ(政策金利の引き上げ)観測は一段と強まり、米国10年国債利回りは一時2.0%を上回り2019年7月以来の高水準を付けた。それに合わせて、為替市場ではドル高・円安傾向が強まった。10日の米国市場では、1ドル116円台まで円安が進んだ。

他方、11日(金)の米国市場では、経済指標の下振れとウクライナ情勢への不安からリスク回避傾向が強まり、米国の長期金利は低下、115円台まで円が買い戻された。

日本銀行が「指値オペ」をアナウンス

先週の日本市場では、10日(木)に10年国債利回りが+0.23%程度まで上昇し、日本銀行が変動レンジの上限としている+0.25%に近付く中でも、日本銀行は場中にそれを牽制する姿勢を見せなかった。

ところが場が引けた後の午後6時になって、特定銘柄の長期国債(363回債、364回債、365回債)を固定金利0.25%で無制限に買入れる「指値オペ」を3連休明けの14日(月)に実施することを、日本銀行は突然発表したのである。同日に発表される米国1月消費者物価次第では、米国の長期金利が一段と上昇し、日本の10年国債利回りが上限の+0.25%に一気に達する可能性があることを踏まえ、それをあらかじめ牽制しておく措置である。

日本銀行はイールドカーブ・コントロールを導入した2016年以降、7回の指値オペを実施してきているが、いずれも場中に通知されている。今回、引け後に通知されたのは、まさに「変化球」だ。

固定金利0.25%で指値オペを実施することをアナウンスしたことで、日本銀行は、0.25%の変動レンジの上限を守る姿勢を示したことになる。その結果、14日の市場では、10年国債利回りは0.25%を相当分下回る水準で取引されることになるだろう。そのため、0.25%という高めの金利、割安の価格で日本銀行に対象となる国債を売却する金融機関は出てこないと見込まれる。14日の「指値オペ」では、日本銀行は実際に国債を買うことを免れるのである。実弾なしの牽制に終わるのである。

日本銀行は長期金利の上限を死守するよりも円安進行回避を選ぶ

仮に、場中で10年国債利回りが0.25%を上回っている状況の下で0.25%の固定金利で「指値オペ」を実施していれば、相当額の国債を日本銀行は買わざるを得なくなる。それは、円安が進み、物価高が進むもとで金融緩和を強化することを意味する。金利をコントロールするために、経済・物価環境から期待される金融政策の方向と逆の政策を選択せざるを得なくなることが、イールドカーブ・コントロールが抱える本質的な矛盾である。

そうした政策の矛盾を回避するためにも、10年国債利回りが0.25%を上回った後に、場中で0.25%の固定金利で「指値オペ」を実施することを、日本銀行は避けたのだろう。

しかし、今回の「指値オペ」は、0.25%という10年国債利回りの変動レンジの上限を何としても死守する、との強い意志を持って日本銀行が実施しているものではないように思われる(コラム「日銀は10年国債利回りの変動レンジ上限を死守しない」、2022年2月9日)。10年国債利回りが一方的な流れの下で急速に高まることを牽制する狙いではないか。

しばらくは、10年国債利回りは0.25%を下回って推移すると見られるが、早晩、市場は0.25%の上限を再び試す動きを見せてくるだろう。その際には、日本銀行が「指値オペ」で大量の国債を買入れながら、0.25%の上限を何としても死守する、とまでの動きは見せないのではないか。比較的緩やかな上昇であれば、いずれは0.25%の水準を超える利回り上昇を容認するだろう。

仮に「指値オペ」を通じて上限を死守しようとすれば、日本銀行は大量の国債を買入れることになり、それは金融緩和の強化となってしまう。さらに悪いことには、10年国債利回りの上限を完全に固めてしまうと、米国の長期金利がさらに上昇する下で、急速な円安が生じるリスクが高まるのである。

そうした形で進む円安は、国民の間で円安を通じた物価高懸念を高め、他の中央銀行とは異なり金融政策の正常化を行わない日本銀行の政策に対する強い批判へと発展しかねない。

このような大きなリスクを考えれば、円安進行を許すよりも、日本銀行は上限を超えた10年国債利回りの上昇を容認し、イールドカーブ・コントロールの運営姿勢をより柔軟化する道を選ぶだろう。

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