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ロシア原油輸入禁止の制裁措置で先進国に足並みの乱れ

2022/03/09

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米国がロシア産原油、天然ガス、石炭などの輸入禁止を決定

バイデン米大統領は8日に、ロシア産原油、天然ガス、石炭などの輸入禁止を決定し、対ロシア制裁を一段と強化した。英国もこの米国の制裁措置に歩調を合わせ、ロシア産原油の輸入を数か月かけて段階的に禁止する計画を発表した。

米エネルギー情報局(EIA)によると、2021年に米国が輸入した原油のうちロシア産の占める比率は約3%、石油製品を含めると約8%だった。

さらにバイデン大統領は、この制裁措置が国内でのガソリン価格の急騰につながらないように、価格引き上げを牽制した。

EUはロシア産原油の輸入禁止に慎重

前日7日にブリンケン米国務長官が、「米国と欧州の同盟諸国がロシア産原油の輸入禁止を協議している」と発表すると、原油価格が跳ね上がり、WTI原油先物価格は一時1バレル130ドルにまで達した。ただしこの発言は、各国間での調整が進んでいない中で飛び出した、いわばフライングであった。

原油価格が大きく上昇したことで、ドイツを中心に欧州連合(EU)諸国はロシア産原油の輸入禁止に慎重な姿勢をより強めてしまったと見られる。ロシアに対するエネルギー依存度が高い欧州と、比較的低い米国との経済環境の違いが、対ロシア制裁で足並みを揃えることの障害になっていることが、改めて浮き彫りになったのである。

エネルギーのロシア依存度が大きい欧州にとって、原油供給を急に遮断することは現実的ではない。EUは、天然ガスの約46%、原油の約25%をロシアに依存している。石油輸入量の約3割がロシア産であるドイツは、特に原油禁輸措置に慎重だ。ドイツのショルツ首相は7日に、欧州の市民生活や経済活動がロシアからのエネルギー供給なしでは維持できないことを主張している。

ロシアは、ウクライナ侵攻に対する欧州の対ロシア制裁措置への報復として、既存のガスパイプライン「ノルドストリーム1」経由での欧州への天然ガスの供給停止をちらつかせている。このことも、欧州諸国がロシア産原油の輸入禁止という追加制裁措置に踏み切れない要因となっている。

EUもロシアへの天然ガス依存からの脱却を図る

SWIFT(国際銀行間通信協会)制裁についても、当初はドイツを中心に欧州諸国の一部は反対していたが、ロシアがウクライナ侵攻を進める中、制裁に合意せざるを得なくなった、という経緯がある。この点から、欧州がロシアからの天然ガスの供給停止を覚悟のうえで、ロシア産原油の輸入禁止で米国、英国と足並みを揃えることも、いずれは起こる可能性はあるだろう。しかし、現時点ではまだ難しそうだ。

一方でEUの行政執行機関である欧州委員会は8日、今年のロシア産ガス輸入需要を3分の2減らす戦略を打ち出した。さらに需要が再び高まる来年の冬に向けて、天然ガスの調達先の多様化とクリーンなエネルギーへの移行を加速させる考えを示した。

EUは、先日決定したいわゆるEUグリーン・タクソノミーの中で、天然ガスと原発を環境にやさしい持続的なエネルギー源と定義したが、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、天然ガスについては依存を減らす方向へと軌道修正している。原発からの脱却を目指すドイツのエネルギー政策も、軌道修正を迫られる可能性があるだろう(コラム「投資家らの反発を受けるEUグリーン・タクソノミー」、2022年2月21日)。

他方、日本の原油のロシア依存度は4%と、欧州と比べれば格段に小さい。しかし、日本も現時点ではエネルギーの確保を優先し、ただちには米英の制裁措置実施に追随しない方針とみられる。

制裁緩和でベネズエラからの原油調達を検討

他国との調整が難航する中、米国内では既に、米国単独でのロシア産原油の輸入禁止を模索する動きが出ていた。議会では、超党派の有力議員4人が7日に、ロシア産原油を禁輸とする制裁法案で合意したと発表した。他にも超党派の上院議員18人がロシア産原油、石油製品、天然ガス、石炭の輸入を禁止する法案を提出した。

米国のロシア産エネルギーへの依存度は欧州に比べてはるかに低いものの、原油と石油製品の輸入に占めるロシアの割合は既にみたように約8%と、日本と比べれば2倍の水準にある。輸入禁止措置によって、ガソリンの元となる真空軽油(VGO)や重油の調達が難しくなる、と見られている。

そこで米国においても、ロシア産原油の輸入禁止に備えて、原油の代替調達が検討されてきたのである。その一つが、南米ベネズエラからの原油調達だ。米国は2019年に当時のトランプ政権が反米左派のマドゥロ政権に経済制裁を発動し、同国の主要な外貨獲得手段である原油の輸入を制限した経緯がある。ロイター通信などによると、米政府高官は5日にベネズエラを訪問し、経済制裁の一環で停止している同国産原油の輸入再開を協議したとされる。

ウクライナ情勢について、ベネズエラはロシアを擁護する立場をとる。そのベネズエラに対して、経済制裁を緩和してまで米国への輸出を促すというのは異例であろう。自身に跳ね返ってくる、いわゆるブーメラン効果を持つ対ロシア制裁には、米国もかなり苦慮しているとの印象もある。

(参考資料)
"Oil Industry Contemplates World Without Russian Crude", Wall Street Journal, March 8, 2022
「<ウクライナ緊迫>ロシア産原油禁輸措置、欧州は「困難」 依存度高く、経済に打撃」、2022年3月8日、毎日新聞速報ニュース
「米、ベネズエラと原油輸入再開協議 ロシアの代替めざす」、2022年3月8日、日本経済新聞電子版

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