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高まる悪い円安批判とポスト黒田体制下の日銀金融政策の試金石

2022/03/18

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主要中央銀行のなかでひとり政策維持を続ける日本銀行

18日の金融政策決定会合で日本銀行は、大方の予想通りに金融政策の維持を決めた。対外公表文の景気の総括判断については、前回の「持ち直しが明確化している」を「一部に弱めの動きもみられるが、基調としては持ち直している」へと下方修正した。足元までの感染リスクの再拡大に加えて、ウクライナ紛争によるエネルギー価格上昇、海外経済の不透明感の高まり、金融市場への悪影響などを踏まえたものだ。

リスク要因については、「ウクライナ情勢が、国際金融資本市場や資源価格、海外経済の動向等を通じて、わが国の経済・物価に及ぼす影響についてもきわめて不確実性が高い」と、ウクライナ情勢を明確なリスク要因として挙げている。

今週は16日に米連邦準備制度理事会(FRB)が2018年以来となる利上げ(政策金利引き上げ)を実施し、ゼロ金利の解除を決めた。また、17日にはイングランド銀行(BOE)も3回連続での利上げを決めた。欧州中央銀行(ECB)も、資産買い入れの縮小を加速させている。

そうした中、主要中央銀行のなかではひとり、日本銀行のみが政策の維持を続けている。これは、内外金利差の拡大から円安圧力を生じさせる。16日にFRBが利上げを決めた直後には、ドル円レートは一時119円台を付けた。これは、6年ぶりの円安水準である。

「悪い円安」批判はさらに高まる方向に

総務省が18日に発表した2月の消費者物価指数で、生鮮食品を除くコア指数は前年同月比+0.6%となった。携帯通話料金引下げの1.5%分の影響が剥落する4月以降、コア指数は前年比で一時的に2%を超える可能性がある。それでも、それが日本銀行の政策変更につながることはない、と黒田総裁は強調する。賃金上昇を伴わない物価上昇は一時的であり、持続的でないためだ。その説明は正しいが、政府や国民はその説明に十分納得していないのではないか。

生鮮食品を除くコア指数が前年同月比+0.6%という現状のもとで、国民は既に物価高による打撃を強く感じている。食料、エネルギーなど購入頻度が高く、また必需性の高い財の価格上昇には、より負担を感じやすいためでもある。4月以降物価上昇率が2%を超える中で、円安がさらに進めば、物価上昇圧力を高める「悪い円安」を日本銀行の政策姿勢が生じさせているとして、日本銀行に対する国民の批判は高まる可能性があるだろう。

黒田総裁は円安容認姿勢を維持

それでも、2023年4月の黒田総裁の退任までは、明確な形での金融政策の正常化が実施される可能性は低い。イールドカーブ・コントロールの変動レンジの再拡大など、正常化方向での微調整を示唆するような施策が出される可能性はあるとしても、明確な変更はないだろう。

任期が残り一年となった黒田総裁は、より自身の信念を貫く姿勢を強めているのではないか。その中には、「円安は日本経済にとって良いこと」というものがあり、円安阻止のために金融政策を修正することを強く拒むだろう。

他方で、物価上昇率が高まりまた円安が進めば、来年4月の黒田総裁退任後の新体制の下で、マイナス金利解除を含む正常化策が実施されるとの観測が一層強まるだろう。日本銀行の事務方は、そうした観測を黙認することで、円安に一定程度歯止めをかけることを狙うのではないか。

長期金利上昇への対応がポスト黒田体制下での金融政策の試金石にも

当面の日本銀行のオペレーションで注目されるのは、長期金利上昇への対応である。2月14日に、日本銀行は指値オペを実施して、目標とする10年国債の金利の上昇を牽制した(コラム「米CPIで進んだドル高円安と日銀の指値オペ実施」、2022年2月14日)。

その後、ウクライナ情勢を受けた金融市場がリスク回避の傾向を強めたことで、円安傾向に歯止めがかかるとともに長期金利もやや低下していたのである。しかし足もとでは、米国の利上げ観測の高まりや利上げ実施を受けて、円安傾向が強まるとともに、米国の長期金利が上昇し、その影響で日本の長期金利も上昇している。日本の10年国債金利は足もとで再び0.20%台に乗せ、日本銀行の変動許容レンジの上限である0.25%に近付いてきた。

10年金利が再び0.25%に接近、あるいはそれを上回れば、日本銀行は再び指値オペを実施するだろう。しかし、米国の長期金利が一段と上昇し、日本の長期金利に上昇圧力がかかり続けるなかで、日本銀行は0.25%の上限を完全に固めるようなオペレーションはしないのではないか、と考えられる。米国の長期金利がさらに上昇するなかで、0.25%以上の日本の10年国債金利の上昇を力づくで阻んだ場合、その分、円安のリスクが急速に高まってしまうからである。

黒田総裁は、自身の信念に従って円安容認の姿勢を変えないとしても、より事務方の裁量の余地が大きい指値オペなどのオペレーションでは、世論にも配慮して、長期金利の上昇阻止よりも円安阻止を重視する姿勢を見せるかもしれない。

長期金利の上昇容認は正常化策の一種ともなる。長期金利の上昇を受けた今後の日本銀行のオペレーションは、来年4月以降のポスト黒田体制下での日本銀行の政策姿勢を占う試金石ともなるのではないか。

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