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米国国債のイールドカーブ・フラット化は景気悪化の兆候か

2022/03/24

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FRB高官から利上げ加速の表明が相次ぐ

米連邦準備制度理事会(FRB)は3月16日に0.25%の利上げ(政策金利引き上げ)を決めたが、その後、FRB高官からは利上げを加速させる考えが相次いで表明されており、金融市場の利上げ観測は一段と強まる方向にある。それが、為替市場ではドル高円安の流れを後押ししている。

21日の講演でFRBのパウエル議長は、先行き0.5%幅での利上げの可能性を示唆し、さらに、5月の次回FOMCにおいて0.5%幅で利上げを行う可能性を排除しなかった。これを受けて、市場は5月のFOMCで0.5%の利上げが実施される可能性を一気に織り込んだ。オーバーナイト・インデックス・スワップ市場では、その確率は約7割となったのである(コラム、「日米金融政策デカップリングで円は120円台に突入」、2022年3月22日)。

またクリーブランド連銀のメスター総裁は22日に、年末までに政策金利であるFF(フェデラルファンズ)金利の誘導目標を2.5%程度まで引き上げ、来年はさらに引き上げるのが適切との考えを示した。

前回の利上げ局面と比べて格段に急速なペースの利上げが見込まれる

2015年12月に始められた前回の利上げ局面では、利上げ開始から1年間の利上げ幅は0.5%であったことと比較すると、今回はそのおよそ4倍ものペースでの利上げとなる可能性が見込まれていることになる。年末までにFF金利が2.5%まで引き上げられる場合、前回は2年以上の時間を掛けて到達したその水準に、今回は9か月足らずで達することになる。

これほどまでに急速な利上げが、米国経済を悪化させることにつながらないか、という点は、金融市場が感じる大きな懸念である。今回の利上げ局面で、FF金利のピークが前回の利上げ局面と同様の2.5%から3.0%程度、という見通しはFRB、金融市場ともに共通しているように見える。ただし、FRBは、急速な利上げによって物価の安定が回復されることで、政策金利はこの程度の水準で頭打ち、と考えているのに対して、市場では、急速な利上げによって経済が悪化することで、政策金利は比較的早期に頭打ちになる、と考える向きが少なくないのではないか。

イールドカーブには重要な情報が含まれる

急速な利上げが米国経済を悪化させることを警戒する金融市場は、米国債のイールドカーブに注目する。過去の利上げ局面でしばしば注目されてきたのが、2年債と10年債の金利差(スプレッド)である。これが逆転する、いわゆる逆イールドとなれば、半年先など一定期間後に景気はピークを付け、景気後退に陥る場合もあるというのが経験則である。ただし近年は、この経験則が当てはまらないケースも見られる。

現時点では2年債の利回りは2.2%程度、10年債の利回りは2.4%程度とその差は0.2%程度まで縮小している。向こう数カ月のうちに、逆イールドとなる可能性が見込まれる。

長期金利の水準は、短期金利の先行きの見通しで決まる傾向が強い(金利の期間構造理論)。この点から、イールドカーブは単なる市場の見通しを反映しているに過ぎず、景気後退リスクなど、実体経済の変化を正確に予見するものではない、との考え方もできるだろう。

しかし、イールドカーブは単なる市場の見通しを反映するだけでなく、経済に対する金融政策の効果、引き締まりの度合いを映している、との側面がある点に留意したい。短期金利は中央銀行の政策金利によって人為的に決まる部分が大きい一方、市場実勢で決まる長期金利は、経済に中立的な水準に落ち着きやすい、という面もある。長期金利は中央銀行の直接的なコントロールを受けないのが通例であるからだ。この場合、長短金利差が逆転すれば、経済に中立的な金利水準よりも短期金利が高い水準にあり、経済活動に抑制効果を発揮していることを示唆する、と考えることができる。

こうした点を踏まえれば、イールドカーブは金融政策が経済に与える影響と経済の先行きを一定程度示していると考えることができるため、無視すべきではない。

FRBが注目する短いゾーンの逆イールドで判断すれば手遅れに

2年債と10年債の利回りがほぼ横並びとなるフラット化が、経済の先行きの悪化リスクを示すとの懸念を、21日の講演会でパウエル議長は一蹴した。議長は、現在のイールドカーブは、FRBの金融引き締め策が行き過ぎて経済を悪化させるリスクをまだ示していない、としている。FRBの分析によると、2年債と10年債の利回り格差ではなく、3か月TB(短期国債)と18か月の国債利回り格差が重要だという。それが逆転すれば、景気悪化のリスクが高まっていることを意味し、FRBが利下げに転じるサインとなるが、現状ではまだ金利差は開いている、議長は説明している。

パウエル議長は、市場が注目する2年債と10年債の金利差よりも、3か月TB(短期国債)と18か月の国債利回りの差の方が、先行きの景気悪化を予想する精度は高い、としているが、それは当たり前のことのようにも思われる。

この短期ゾーンの金利差が逆転する場合には、もはや景気悪化の兆候が明確に広がっていて、金融緩和の可能性が視野に入っているのである。短期ゾーンのイールドカーブの逆転は、景気後退の直前に表れやすいが、それが確認された時点でもう景気は悪化に向かっている。それでは、景気の先行きを踏まえて金融政策を決めるのに利用される指標としては、あまり役に立たない。つまり、手遅れとなりやすい。

FRBは、既に表れている2年債以降など長めのイールドカーブの変調に十分に注意を払いつつ、金融引き締め策を慎重に進めていく必要がある。現在の物価高騰は、供給側の要因によるところも多いことから、金融政策だけで対応しようとするのは無理があるだろう。それをしようとすれば、金融引き締めが景気を過度に悪化させるオーバーキルのリスクが高まり、金融市場の不安定化も招いてしまうだろう。FRBには、市場の声に耳を傾ける謙虚さも必要だ。

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