フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 景気対策よりもコロナ対策の徹底を

景気対策よりもコロナ対策の徹底を

2022/03/25

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

現時点で景気対策は必要か

国会で2022年度予算が成立したとたんに、政府・与党内で新しい経済対策に向けた動きが一気に高まってきた。岸田首相は23日に、ウクライナ情勢を受けた物価高に対応するため、追加経済対策を検討する考えを示した、と報じられている。与党内では10兆円規模の大型対策を求める声もある。「夏の参院選に向けた選挙対策」との指摘も聞かれている。

ウクライナ紛争を受けた物価高騰への対策が、経済対策の中心となりそうだ。原油価格の上昇が、家計や企業の活動に悪影響をもたらしていることは確かである。しかし、現時点で景気対策は果たして必要だろうか。

昨年9月末に緊急事態宣言が解除された後、11月に政府が経済対策を打ち出した際には、景気は既に持ちなおし局面に入っていた。今回も、まん延防止等重点措置が3月21日に全地域で解除され、経済活動が再び持ち直しに向かって動き始めたタイミングで、政府は経済対策を検討しているのである。

政府が経済対策を講じるべきなのは、経済が急速に悪化している局面で、それに歯止めをかけ、民間経済が自律的に回復するのを助ける呼び水の役割を狙う場合か、あるいは、一部の弱者が大きな打撃を受け、それが既存の社会保障制度などで十分に支えられない際に、セーフティーネットの強化策として実施する場合、の2つではないか。現在は、そのどちらにもあたらない。

物価対策は広く国民から集めた金を国民にばらまく構図に近い

現在、物価高対策の選択肢とされるのは、ガソリン価格で25円まで引き上げられた石油元売り業者への補助金枠の拡大である。しかし、原油価格の高止まりが続けば、補助金を廃止することができなくなり、長期に渡って財政負担を高めてしまう。その出口戦略はかなり難しい。

あるいは揮発油税の税率引き下げを可能とするトリガー条項の凍結解除も検討されるだろう。しかしそれは、東日本大震災対応の財源を奪うものとなり、また地方政府の財政を圧迫する。

年金生活者への一人当たり5,000円支給などの施策も、引き続き議論されよう。しかし、年金生活者への物価高対策として実施するのであれば、年金支給額が物価、賃金の変化によって調整される仕組みを含む、現在のマクロ経済スライド制度を無視しているようにも見える。さらに、物価上昇によって所得が目減りしているのは、年金生活者だけでなく勤労者も同じである。今年の春闘での賃上げ率は予想よりも上振れそうだとはいえ、一人当たり賃金上昇率に対応するベア上昇率は+0.3%程度と考えられ、今春以降予想される消費者物価(除く生鮮食品)の前年比+2%を超える上昇分をとても補うことはできない。年金生活者だけ追加の支援をする、正当な経済的理由はないのではないか。

このような施策は、政府が付加価値を付けたサービスの提供ではなく、単にお金をばらまくものに近い。それをかなり広範囲な国民に対して行うのである。そして、そうした経済対策は、幅広い国民の負担によって成り立つ。国債発行で賄えば、将来世代を含めた国民の負担となる。

国民から幅広くお金を集め、それをまた国民に幅広く配るという施策に、経済を活性化させるなどの効果があるとは思えない。物価高対策は、原油価格上昇でとりわけ打撃を受ける事業者など、「弱者」に絞った施策を中心とすべきではないか。

まん延防止措置による経済損失はウクライナ紛争を受けた原油高による経済損失の2.7倍

足もとで原油価格は再び上昇傾向を示している。2月7日には、WTI原油先物価格は一時130ドルに達したが、これは年初から75%程度の原油価格上昇となる。それは、日本の実質GDPを1年間の累積効果で0.26%押し下げる計算だ(コラム「まん延防止措置延長で経済損失は合計4.0兆円。ウクライナ情勢による原油高の影響と政府の各種政策の評価」、2022年3月3日)。名目GDPを1.5兆円程度減少させる。

他方、1月7日から3月21日まで続いたまん延防止措置による経済損失は、筆者試算によると4.0兆円である(コラム、「まん延防止措置延長で経済損失は合計4.0兆円。ウクライナ情勢による原油高の影響と政府の各種政策の評価」、2022年3月3日)。これは、ウクライナ紛争を受けた原油価格上昇による経済損失の実に2.7倍にも達する。

この点から、対処療法的な原油高対策よりも、再び感染が大きく拡大しないように予防策を講じるコロナ対策強化の方が、経済的なメリットはずっと大きいということになるだろう。コロナ対策としては、ワクチン接種の接種率引き上げ、4回目のワクチン接種の前倒し実施、医療体制の拡充などが引き続き重要である。

原油価格の高騰といった海外で生じている現象に、日本政府は直接対応することはできない。しかし、国内のコロナ対策であれば、政府の政策対応の巧拙によって感染リスクには大きな差が出てくる可能性がある。それは、経済的な損失のリスクを大きく減らすことも可能だ。こうした点から、政府は物価高対策を中心とする追加経済対策よりも、感染再拡大のリスクを減らすコロナ対策により注力すべきだ。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn