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世界経済の分断を象徴する米中長期金利の逆転とドル高円安

2022/04/11

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乖離する米国と中国の経済環境

4月11日に中国の10年国債利回りは2.75%となる一方、米国の10年国債利回りは2.77%まで上昇し、両者は実に12年ぶりに逆転した。この逆転は、世界第1の規模である米国経済と第2の中国経済の分断化を象徴しているようだ。

米国金融市場では、5月3・4日に開かれる次回米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%の大きな幅での利上げ(政策金利引き上げ)が実施されるとともに、急速なペースでの資産圧縮、いわゆる量的引き締め策(QT)が合わせて実施されるとの観測が高まっている。FOMCに向けこうした観測は一段と強まり、米国の長期金利をさらに押し上げる可能性があるだろう。

失業率が新型コロナウイルス問題前の水準近くまで低下するなど、米国経済が堅調さを維持する中、40年来の水準にある消費者物価上昇率は、なお加速の方向にある。物価高騰への対応として、FRBは異例のペースで金融引き締めを進めようとしている。

他方で中国経済は、昨年後半から弱含んでいる。共同富裕の理念の下で進められている政府による民間企業の統制強化によって、不動産分野が不況に陥った影響が大きい。さらに、年明け後にはオミクロン株の感染拡大を受けて、感染封じ込めのための厳しい規制が採用されている。足もとでは中国経済の4%を占め、物流の拠点でもある上海市でロックダウン(都市封鎖)が実施されている(コラム、「中国経済、そしてサプライチェーンを通じて海外経済にも悪影響が及んでいる中国ゼロコロナ政策が世界経済のリスクに。ウクライナ問題と結びつき世界の食料問題にも」、2022年4月8日)。

米中の金融政策は逆方向

中国でも海外要因によってエネルギー、食料品の価格は上昇しているものの、物価全体は欧米など比べて比較的落ち着いている。そこで、金融政策は緩和方向にあり、中央銀行の中国人民銀行は早晩、景気下支えを狙って、中期貸出制度(MLF)の1年物金利を引き下げる可能性が高まっている。

FRBが金融引き締めを加速させる一方、日本銀行は金融政策を変更しない考えを明確に表明していることから、両国の長短金利差拡大への期待から、為替市場では円安傾向が進んでいる。

他方、中国は米国の金融政策とは逆方向に、金融緩和を進めている。それが10年国債利回りの米中逆転に繋がっているのだが、同時に中国からの急速な資金流出も招いている。

米中経済のデカップリングが日本の金融市場のかく乱要因にも

世界第1の経済規模である米国経済と第2の中国経済の経済環境、物価環境、金融政策がこれほど乖離しているのは異例なことだが、その背景には、両国の経済政策、コロナ対策の姿勢の違いだけでなく、中国の経済規模が高まる一方、米国経済の影響力が世界の中で低下していることがあるだろう。米国経済の影響力が極めて高かった時期であれば、新興国経済は米国経済に強く影響を受け、金融政策も米国に追随する傾向が強かったはずだ。

さらに、米中間でのこうした乖離は、米国のトランプ前政権から進められてきたデカップリング政策が影響している可能性もあるだろう。

ところで、日本にとっては米国と中国は2大輸出先である。米国に対して中国経済から受ける影響が次第に高まる方向にある。米中の経済環境が乖離する中、日本経済が中国経済により影響を受けるのであれば、今後、日米間の経済環境の乖離も進むことになる。そうなれば、現状のような日米の金融政策の乖離も恒常化してくる可能性もあるだろう。

現在は日米の金融政策の方向性の違いを反映する円安傾向が、物価上昇を後押しするという「悪い物価上昇」として企業や家計から警戒されるようになっている。仮に、中国経済の影響によって、日米の経済環境の乖離、そして金融政策の乖離が恒常化するようになれば、日米間の資金フローのボラティリティも高まることになる。それが為替市場を中心に、日本の金融市場の大きなかく乱要因となってくるリスクがあるのではないか。

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