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ロシアのデフォルトは誰が認定するのか

2022/04/13

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主要格付機関はロシアの外貨建て国債のデフォルト認定を行わない

ロシア政府は4月4日に期限を迎えたドル建て国債の償還と利払いを、ドルではなくルーブルで実施した。同日に米財務省が、米銀に対してロシア政府がドル建て国債の償還、利払いを行うことを許可しない方針を突如打ち出したためである。その後、ロシア財務省は、「債務返済は完全に履行されたと考えている」と説明し、大統領報道官は、「実際にデフォルトになったという根拠はない」とした。

米大手格付機関のS&Pグローバル・レーティングは4月8日に、ロシアの外貨建て国債の格付けを「SD(選択的デフォルト)」に引き下げた。30日間の猶予期間中にドルで債務の返済が履行される可能性が低いと判断したのである。そのうえでS&Pは、ロシア政府、企業が発行する証券の格付け自体を撤回し、格付け業務を停止することを発表した(コラム「ロシア国債は選択的デフォルト。ルーブルの安定回復は一時的」、2022年4月11日)。

3月のEUの要請に応じて、4月15日までに主要格付機関はいずれも、ロシアの格付け業務を停止する。通常、主要格付機関がデフォルトの格付けをすることで、デフォルトが正式に認定される。ところが、彼らがロシアの格付け業務を停止することから、30日間の猶予期間を終えても正式にロシアの外貨建て国債のデフォルトは認定されないことになる。

ロシア政府は外貨建て国債債務返済よりもルーブルの安定を優先か

30日間の猶予期間中に、ロシアがドルで債務の返済を行う可能性もまだ残されてはいる。エネルギー関連の輸出代金としてロシア企業が得る外貨を政府が利用することで、ドルでの支払いを続けることができるかもしれない。

ただし、輸出代金で得た外貨の8割をルーブルに換えるよう、ロシア政府は企業に義務付けている。ルーブルの買い支えを狙った施策である。その結果、企業の手元に外貨は多く残らないはずだ。

さらに、ロシアの最大の輸出品目である天然ガス、原油、石炭などは、欧州向けが中心であり、それはドル建てではなくユーロ建てだ。また、ロシアが一方的に要求している天然ガスのルーブル建てでの支払いスキームでは、やはりルーブルの買い支えを狙って外貨はすべてルーブルに転換される。そしてロシアは、そのスキームを他の輸出品にも広げていく方針を示している。

このように考えれば、ロシア企業が保有するドルは多くは積み上がらず、それを利用してドル建て国債の債務返済をロシア政府が進めていくことは簡単ではないだろう。先進国側の一段の制裁強化によって、ロシアの輸出が先行きさらに減少する可能性も考えておく必要がある。

ところで、ロシアが輸出代金の外貨をすべてルーブルに換えるスキームを幅広い輸出品目で進めようとしていることは、外貨を手元に維持して、外貨建て国債の債務返済を進めることと矛盾する。このことは、ロシア政府が外貨建て国債のデフォルトを回避するよりも、ルーブルの安定の方を重視している表れかもしれない。

前者は対外的なロシアの信頼を損ねることになるが、後者については、ルーブル安が物価高騰をもたらし、ロシア経済の混乱を引き起こすことで、国民の不満が高まり、国内での政権基盤を揺るがすリスクにつながりかねないからである。

後者の点により配慮するのであれば、手元に残される少ないドルを、今後も外貨建て国債の返済には優先的に充てないかもしれない。

ウクライナ侵攻以降で初めてのロシア企業のデフォルト

11日にロイター通信が報じたところによると、国営ロシア鉄道は3月14日が期限のスイス・フラン建て社債の利払いが実行できずに、デフォルトに陥ったという。ロシアのウクライナ侵攻以降、ロシア企業のデフォルト認定は、これが初めてのことである。

重要なのは、このデフォルトを認定したのは誰か、という点だ。通常、デフォルトの認定を行う主要格付機関は、既にロシアの証券の格付け業務を停止しつつある。今回デフォルトを認定したのは、金融商品の業界団体である国際スワップ・デリバティブズ協会(ISDA)である。

推察ではあるが、ISDAがデフォルトを認定したのは、国営ロシア鉄道の発行した外貨建て社債について、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)が発行され、取引されていたためではないか。

このCDSとは、デリバティブ取引の一種で、債券などの信用リスクを取引する金融商品だ。債券を保有する投資家は、それがデフォルトに陥る場合には元本が返済されない、という信用リスクを抱える。そのリスクをカバーするために、投資家は「保険商品」に当たるCDSを購入するのである(コラム「近づくロシアのデフォルトと蘇るCDSのリスク」、2022年3月14日)。

国際スワップ・デリバティブズ協会がロシア国債のデフォルトを認定か

ロイター通信によると、ロシアに関するCDSの契約残高は60億ドル前後あるという。ロシアの外貨建て国債についてもCDSが発行されている。4月4日の償還・利払い期限の日にロシアがドルでの債務返済ができなくても、ルーブルやルーブル建て国債の価格は大きく変動しなかった。しかし、ロシアの外貨建て国債のCDSは敏感に反応し、ロシア国債の保証率が上昇して100%を大きく超える水準で推移した。ロシアの外貨建て国債の価値はゼロになったと市場は理解したのである。

30日の猶予期間が過ぎ、5月4日になっても、もはや主要格付機関はロシアの外貨建て国債のデフォルト認定を行わない。それに代わってデフォルトの認定を行うのは、ISDAではないか。通常、証券に対する主要格付機関のデフォルト認定とその証券のCDSのデフォルト認定とは基準が異なることから、判断が一致しないことが多い。

主要格付機関のデフォルト認定を持って正式なデフォルトと判断されるのが普通だ。しかし、今回は、主要格付機関がデフォルト認定を行わないことから、ISDAのデフォルト認定を持って、国際社会はロシアの外貨建て国債のデフォルトが決定した、と広く理解することになるのではないか。

(参考資料)
「情報BOX:ロシアのデフォルト秒読み、想定されるシナリオ」、2022年4月11日、ロイター通信ニュース

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