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EUがロシア産原油の輸入禁止措置で合意

2022/06/01

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EUのロシア産原油の輸入禁止にハンガリーが強く反対

欧州連合(EU)は5月30日に、ブリュッセルでロシアのウクライナ侵攻などを巡る特別首脳会議を開き、対ロ制裁としてロシア産原油の一部輸入禁止で大筋合意した。

EUは5月4日に、対ロシア制裁第6弾として加盟27か国に対し、ロシア産原油の段階的な禁輸を提案していた。ロシア産原油の輸入を段階的に減らして年末までに停止し、また石油製品についても年末までに購入を禁止することがその提案内容だった。ただし、ロシア産石油への依存度が特に大きいハンガリーとスロバキアには、2023年末まで猶予を与える方針を示したのである(コラム「G7がロシア産原油の輸入禁止で合意。いずれ天然ガスも輸入禁止か」、2022年5月9日)。

これを受けて、G7(主要7か国)の首脳は5月8日に開いたオンライン会議で、対ロシア追加制裁措置として、ロシア産原油輸入を禁止する方針を表明した。

ところがその後、EUはロシア産原油の段階的な禁輸の具体策で、長く調整を続けてきたのである。ロシア産原油依存度が高いハンガリーが、EUの提案に強く反対したためだ。

パイプライン経由の原油は除外もロシア産石油のうち約90%の輸入が停止

ミシェルEU大統領(欧州理事会常任議長)は30日の深夜にツイッターで、EU各国首脳が「ロシアによるEUへの原油輸出の禁止で合意」したと明かした。

パイプライン経由でロシア産原油を輸入するハンガリーに譲歩して、禁輸対象を海上輸送に限り、パイプライン経由の原油を除外する妥協案で大筋合意に達したのである。パイプラインで輸送される原油は、EUがロシアから購入している量の3分の1に相当する。この部分が除外されることは、禁輸の有効性をかなり削いでしまうようにも見える。

ただし、ドイツとポーランドもロシア産石油をパイプライン経由で輸入しているが、両国は輸入停止方針を打ち出している。このため欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、EU全体で「年末までに事実上、ロシア産石油のうち約90%の輸入が停止されるだろう」と語っている。最終的には、かなり実効性の高い対ロ制裁措置となる見込みである。

ハンガリーなどにパイプライン経由でのロシア産原油輸入を認める期間は、明らかにされておらず、なお具体策の詳細で議論が続けられるだろう。

ロシア経済にも世界経済にも打撃

EUがロシア産のエネルギーの輸入を続けていることは、ロシアのウクライナでの軍事侵攻を金銭面から支えるもの、と国際世論からの批判を浴びてきた。ロシア産原油の輸入禁止合意は、そうした国際世論に強く影響を受けたものだ。この措置によって、ロシア経済は追加の大きな打撃を受けることになる。ロシアはアジア向けを中心に、新規の輸出先を開拓しようとしているが、それは短期的には簡単なことではないだろう(コラム「ロシアが原油・天然ガスの新たな供給先を開拓しEU制裁の影響を相殺するのは難しい」、2022年5月10日)。

2021年のロシアの原油生産量は、日量1,052万バレルと世界全体の約12%を占めていた。ただし国際エネルギー機関(IEA)によると、今までの制裁措置の影響で5月には日量300万バレル近く供給が減った見通しだ。これは、ウクライナ侵攻前の原油生産量が3割程度減少し、世界の原油供給量を3~4%減少させる効果を持つ。今回EUが合意したロシア産原油輸入禁止措置が実施されれば、ロシアの原油生産量はさらに減少し、世界の原油需給を一段とひっ迫させることになるはずだ。

実際、EUのロシア産原油輸入禁止合意のニュースを受けて、31日のWTI原油先物価格は、1バレル115ドル台から118ドル台へと上昇した。EUのロシア産原油輸入禁止は、ロシア経済に大きな打撃となるが、同時にロシア産原油に依存してきた欧州経済にも打撃となり、また、原油価格の上昇を通じて世界経済に打撃となる。さらに、原油価格上昇は米連邦準備制度理事会(FRB)の急速な利上げ姿勢を維持させることで、先行きの米国および世界経済の下振れリスクも高めることになる。

いずれロシア産天然ガスも輸入禁止か

EUは、ロシア産原油と同様に、ドイツを中心に準備のめどが立ち次第、いずれロシア産天然ガスの輸入禁止にも踏み切るのではないかと推察される。それは、石炭、原油の輸入禁止以上にEU経済には大きな打撃となり、またハンガリーなどの強い反対にあう可能性が高い。しかし、EUのロシアからのエネルギー関連輸入がロシアのウクライナ侵攻を間接的に助けている、といった国際世論の批判の高まりを踏まえると、原油以上に長期の移行期間を設定しつつも、ロシア産天然ガスの輸入禁止を決めることに、最終的にはなるのではないかと考える。

それは、EU経済に大きな逆風となり、EU経済の失速、ドイツ経済のマイナス成長などをもたらす可能性も出てくる。また天然ガスの価格は急騰し、それが原油価格の一段高ももたらすことで、世界経済にも追加の打撃となるだろう。

しかし一方で、天然ガスの輸入禁止にまで踏み切れば、ロシア経済にも大きな打撃を与えることが可能となるはずだ。一段の輸出減少からルーブルの需給は悪化し、ルーブル相場は再び下落を始める可能性があるだろう。そうなれば、ロシアの物価高を通じて、ロシア経済にさらなる打撃となるだろう。制裁をかける側もかけられる側も、ともに経済的には大きく傷つくのである。

(参考資料)
"European Union Pledges to Curb Oil Purchases From Russia", Wall Street Journal, May 31, 2022
「<ウクライナ侵攻>EU、ロシア産原油禁輸で合意 海上輸送に限定、ハンガリー除外」、2022年5月31日、毎日新聞速報ニュース
「EU、ロシア産石油禁輸で合意 パイプライン経由は対象外」、2022年5月31日、AFPBB News
「EU、ロシア追加制裁で原油禁輸 油送管経由は暫定免除=声明案」、ロイター通信ニュース、2022年5月30日

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