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広がり始めたR-Word:米国景気後退(リセッション)観測

2022/06/24

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パウエル議長は景気後退の可能性に言及

米国では、不吉な言葉で禁句(タブー)ともされる景気後退(Recession)という言葉が頻繁に聞かれるようになってきた。いわゆる「R-Word」である。

6月22日の議会証言の中で、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、FRBが急速に金融引き締めを進める中、景気後退を引き起こす可能性について問われ、「確かにその可能性はある(it’s certainly a possibility)」と答えた。

議長は、「景気後退を引き起こすつもりはなく、引き起こす必要があるとも考えていない」と述べているが、他方でインフレを低下させることは「絶対に必要」との考えも合わせて示している。

一連の発言は、「FRBは急速な金融引き締めを通じて物価の安定と経済の安定の双方を得たいと考えているが、その実現可能性は必ずしも高くない。中途半端な政策で、「二兎追う者は一兎も得ず」とならないよう物価の安定をより優先する」というFRBの基本姿勢を表現しているように見える。

物価と経済の安定を同時に達成することについて議長は、「われわれが望むことを実現するのはより困難になった」と述べ、そうした道のりが「簡単で明白だと言ったことはない」とやや開き直った発言もしている。

そして議長は、物価上昇率がFRBの目標である2%へ低下しつつあるという明白な証拠が確認されるまでは利上げを継続する考えを示したのである。通常、物価上昇率は景気に遅行するため、物価指標を重視し、そこに物価上昇率の明確な低下を確認するまで金融引き締めを続ければ、景気が犠牲となりやすい。

FRBの論文、エコノミスト調査、経営者調査でも景気後退見通しが強まる

ウォールストリート・ジャーナル紙の最新の調査でも、エコノミストが予想する向こう1年間での景気後退確率は44%と、異例の高さに達している。また、22日にFRBが公表したエコノミストの研究論文では、向こう4四半期で米国経済が景気後退に陥る確率は50%強、向こう2年間では約3分の2と結論付けられた。これは、失業率、物価上昇率、国債と投資適格社債の利回り差、短期・中期国債の利回り差の4つの変数から、景気後退確率を推計したものだ。

さらに、企業幹部を対象としたコンファレンスボード(全米産業審議会)の最新調査によると、CEO(最高経営責任者)など企業幹部750人のうち、1年~1年半以内に景気後退入りすると予想したのは、実に60%超、すでに景気後退入りしたと考えているのは15%に達している。米国の実質GDPは1-3月期にマイナス成長、4-6月期もほぼゼロ成長と予想されていることから、既に景気後退入りしている可能性も決して無視はできない(コラム「米国景気後退見通しが強まる:FRBは景気を犠牲にして物価安定の回復を目指すか?」、2022年6月22日)。

金融市場には強い逆風に

景気後退(Recession)という言葉は、従来企業経営者にとっては不吉な言葉であり、「R-Word」とも呼ばれるが、今やそれを口に出すことがタブーでなくなるほど現実味を帯びてきているのである。

FRBが景気よりも物価重視の姿勢を貫くとすれば、当面は金融引き締め姿勢をさらに強化する可能性がある。それは長期金利の一段の上昇、140円辺りを目途とする一段の円安ドル高進行を招く可能性がある。

他方、金融市場はFRBの金融引き締めが景気を悪化させる「オーバーキル」の懸念を強めていくことになるだろう。長期金利の上昇と景気減速懸念の双方の影響から、株式、ハイイールド債、証券化商品など高リスク資産の価格は大きく崩れる可能性がある。それは、FRBの金融緩和観測が浮上するまで続くことになるだろう。

景気を犠牲にしてでも物価安定を確保するFRBの政策姿勢は、このように金融市場には強い逆風となる。

(参考資料)
"Fed Chair Jerome Powell Says Higher Interest Rates Could Cause a Recession", Wall Street Journal, June 22, 2022
"Fed Paper Finds Elevated Probability of Recession", Wall Street Journal, June 23, 2022
"Recession Fears Surge Among CEOs, Survey Suggests", Wall Street Journal, June 18, 2022

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