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金融市場の注目が高まるジャクソンホール

2022/08/23

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パウエル議長は昨年のジャクソンホールでの汚名を晴らすか

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は8月26日(金)に、米ワイオミング州ジャクソンホールでカンザスシティー連銀が主催する年次シンポジウムで講演を行う。講演は、米国時間で26日(金)午前10時、日本時間で同午後11時である。金融市場はジャクソンホールでのこのパウエル議長の講演への注目度を非常に高めている。

過去には、このジャクソンホールでのシンポジウムは、FRBの議長が金融政策について重要な情報を提供する場となってきた。2020年には、物価上昇率が長らく目標の2%を下回っていることへの対応から、パウエル議長は「新たな金融政策の枠組み」をジャクソンホールで説明した。物価上昇率が2%を一定期間下回った後には、2%を上回る物価上昇率を一定期間容認して、中長期の平均で2%程度になるような政策方針だ。ハト派色の強い方針と言える。

2021年には、パウエル議長は資産買い入れペースを縮小させるテーパリングを年内に開始する考えを、このジャクソンホールで初めて示した。実際には2021年11月にテーパリングは開始されたのである。

他方でパウエル議長は、テーパリングが利上げ(政策金利引き上げ)に直接つながっていくものではないと主張し、利上げにはなお慎重な姿勢を見せたのである。しかし実際には、今年3月にテーパリングが終了すると同時に、FRBは利上げを開始した。

パウエル議長は、2021年春から加速傾向を示してきた物価上昇率の高まりを「一過性のものにとどまる可能性が高い」とし、賃金上昇が過度のインフレを誘発する「賃金・物価スパイラル」の兆候はほとんど見られない、と断じたのである。

この際のパウエル議長の発言は、物価上昇のリスクを見逃し、FRBの利上げが遅れることにつながった、とその後強い批判を浴びた。この昨年の苦い経験から、いわば汚名を晴らすために、今回のジャクソンホールではパウエル議長は、タカ派色の強い発言をするのではないか、との認識が金融市場に広まっている。

7月FOMC後に広まった金融市場の期待の修正は既に進んだ

さらに、7月の前回米連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBは、「今後の利上げペースは経済指標次第になる」、とそれ以前の大幅な利上げの姿勢が変わる可能性を示唆した。これを受けて、金融市場ではFRBの利上げペースが鈍る、また来年にはFRBは利下げに転じるとの見方が広まり、長期金利の低下、株価上昇、ドル安が生じたのである。

しかし、物価の高騰がなお続く中、早すぎる長期金利の低下や株価上昇は金融引き締め効果を損ね、またドル安は物価高を促すなどの問題を生む。そこで、パウエル議長はこのジャクソンホールの場を利用して、7月のFOMC後に広まったこうした金融市場の期待の修正を試みる、との見方が金融市場で強まっているのである。

その結果、一時2.5%程度まで低下した米国の10年国債利回りは、足元で3.0%程度まで戻している。長期金利の上昇はドル高を招き、1ドル130円まで円高方向に戻していたドル円レートは足元で137円台まで上昇し、再び140円台をうかがう展開となっている。また株価も足元では調整しており、22日のダウ平均株価は600ドルを超える大幅下落となった。

ジャクソンホールを前にして、7月FOMC以降の市場の楽観論は既に相当修正された、と言えるだろう。

市場の期待を上回る非常に強いタカ派色を打ち出す可能性は疑問

FRBは物価高に対する強い警戒を維持しており、景気を犠牲にしても物価高を定着させないという強い覚悟を持っていることは確かである。パウエル議長が今回のジャクソンホールで、物価高を警戒する姿勢を強調する可能性は相応に高い。

他方で、フェデラルファンズ(FF)金利が中立とみられる2.25%~2.5%の水準まで引き上げられたことで、利上げの出遅れ感はかなり解消された、とFRBは考えているだろう。そのため、後れを取り戻すための大幅利上げ姿勢から、経済指標次第で利上げ幅を調整する姿勢へと、FRBの方針が7月FOMCで修正されたことは確かである。

また物価高騰が最悪期は過ぎたことを示す指標や、景気の減速を示す指標も確認され始めている。中国や欧州など海外の景気も下振れが見られ始めている。

これらの点を踏まえると、パウエル議長が非常に強いタカ派色を打ち出すことで、既に進んだ期待のさらなる修正を意図するかどうかは疑問である。そうなれば、今回のパウエル議長の講演は、金融市場に織り込み済みで大きな影響を与えないか、あるいは懸念したほどタカ派ではないとの判断から、金融市場では長期金利の低下、ドル安に再び一定程度動く可能性の方に注目しておくべきではないか。

ところで、今回の講演でパウエル議長は、9月20・21日の次回FOMCでの利上げ幅に直接言及することはないだろう。そこまでには8月分雇用統計、消費者物価統計など重要な経済指標の発表があるため、現時点で利上げ幅を判断できないのである。その結果、ジャクソンホールでのパウエル議長の講演後も、9月のFOMCでの政策対応を睨んで市場の観測はなお揺れ動くだろう。

いずれにせよ、ジャクソンホールのみで金融市場の方向性が大きく決まる、ということはない。市場の方向性を決めていくのは、やはり経済指標となるのではないか。

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