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与党税制改正大綱は防衛増税議論の実質先送りでなし崩し的な国債増発に道を開く

2022/12/16

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増税議論は実質先送り

大きな政治的混乱を生んだ防衛費増額の財源確保のための増税議論は、16日に決定される与党税制改正大綱で一応の決着を見る。しかし、増税については与党内での強い反対意見に押されて、「2024年度以降の適切な時期に実施」とし、来年度に改めて具体策を議論するという問題先送りの着地となる。財源確保の手段が決まらないまま、防衛費増額は来年度から見切り発車で始まるという、大きな問題を残すことになる。

増税は、法人増税、所得税、たばこ税の3つの項目を組み合わせで、2027年度までに1兆円強の財源が捻出される。法人増税は、納税額に4~4.5%を上乗せする付加税方式となる。法人税額から500万円を引いた額にこの税率を掛けるため、課税所得2,400万円以下で納税額500万円以下の中小企業には増税とはならない。

所得税については、現行2.1%の復興特別所得税の税率を1%引き下げ、2037年度の期限を13年間延長することで総額を変えないようにする。そのうえで、1%分を防衛費の財源とする。合計の税率は2.1%で変わらないが、復興特別所得税の支払い期間を延長することで、実質的な増税策となる。

「とりやすいところからとる」増税のあり方は問題

新たな歳出増加を賄うために増税実施を決めたうえで、適切な増税項目を選択する際には、応益原則と応能原則という2つの考え方がある。新たな歳出増加、つまり政府サービスの利益を受ける人や企業が負担するのが応益原則、負担する能力がある人や企業が負担するのが応能原則である。これは財政学での考え方であるが、現実社会ではもう一つ、「とりやすいところからとる」という3番目の選択肢がある。

今回の増税案は、この3つの考え方が組み合わされている。たばこ税はとりやすいところからとるものだ。喫煙者が防衛費増額の負担をすべきとの理屈はないが、たばこ増税によってたばこの消費量が減れば、健康を害するリスクが下がるということから、国民に比較的受け入れやすい増税項目である。また、大企業を中心にする法人増税についても、大企業は巨額の利益を上げる一方で、それを賃上げなどで労働者に還元していないとの認識が国民の間に広がっていることから、国民に受け入れやすい増税項目である。

他方、大企業中心の法人増税としたところは、応能原則に従っているとも言える。そして、防衛力強化のメリットを受けるのは、企業と個人の全体であることから、応益原則に照らせば、法人税と所得税が組み合わされるのは妥当とも言える。

増税の選択は応益原則を基本とすべきだ。「とりやすいところからとる」増税のあり方は問題である。

不安定な財源の設計のもと先行き大きな財源不足が生じる可能性

与党税制改正大綱で増税の具体策は示されるが、その実施は先送りが繰り返され、結局実施されない可能性が相応にあるだろう。世界経済の減速によって、おそらく来年の日本経済の状況は足元よりも悪化する可能性が予想される。その場合には、増税実施時期は2024年度からさらに先送りされるのではないか。増税実施の先送りが繰り返される中、なし崩し的に国債発行で防衛費増額分が賄われていく可能性が相応にあるだろう。

政府は2027年度までに防衛費が4兆円程度増加し、その財源として1兆円強を増税、1兆円強を歳出削減、7,000億円程度を決算剰余金の活用、9,000億円程度を防衛力強化資金で賄うとしている。

しかし、2027年度までに1兆円強の歳出削減が可能であるかは明らかでなく、いまだ具体策は示されていない。また、決算剰余金、そして特別会計の決算剰余金や国有財産の売却などを含む防衛力強化資金は、非常にあいまいな財源確保手段である。毎年の剰余金の額は変動が大きい上に、そもそも今でもその一部は一般財源に組み入れられている。それを新たに防衛費増額の財源と位置付けるだけに終わって、実際には新たな財源確保にはならない可能性がある。そして、国有財産の売却などは、明らかに1回限りの財源確保でしかない。

そのため、2027年度で3兆円程度が歳出削減、決算剰余金、防衛力強化資金の3つで賄われる保証はなく、2027年度以降についてはそのリスクはさらに高まる。その場合、1兆円強の増税では防衛費増額分は賄えなくなることから、穴埋めに国債発行がなし崩し的に充てられる可能性が高まるだろう。

国債発行がなし崩し的に充てられていくという最も望ましくない方向に道を開く

かなり先の将来世代までが防衛費増額の恩恵を受けるのであれば、それは国債発行で賄うことも正当化されるが、将来世代が受ける利益は不明確であり、かつそれはあってもごく一部にとどまるだろう。

防衛費増額を歳出削減、増税、国債発行のいずれの手段で賄うとしても、それは国民の負担となる。フリーランチはありえないのである。歳出削減、増税は現在に生きる国民の負担であり、国債発行は将来世代も含めた国民の負担である。

この点を正確に理解した上で、どのような財源で賄うのかは、国民が最終的に判断しなければならない。さらに、防衛費増額が大きな負担には値しない、あるいはその負担が経済や生活に大きな打撃を与えてしまうと考えれば、防衛費増額の妥当性を再度検証するというプロセスがあるべきだ。岸田首相が当初示した方針である、防衛費増額は規模、中身、財源の3つを一体で決定する、というのは、まさにそういうことを意味するのだろう。しかし実際には、中身と財源よりも規模が先に決まってしまい、負担を踏まえて規模を再び検証するという機会は失われてしまったのである。

今回の与党税制改正大綱は、防衛費増額の妥当性や負担のあり方を国民が明確に判断しないまま、先行きはなし崩し的に国債発行で賄われる部分が広がり、将来世代に負担が転嫁されていくという、最も望ましくない方向に道を開く決着になると言えるだろう。

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