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衆院補選で自民が全敗:総裁選・衆院解散の戦略に影響:金融政策・為替介入にも影響か

2024/04/30

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補選で自民全敗も「岸田おろし」の動きは強まらないか

4月28日に投開票が行われた衆院東京15区、島根1区、長崎3区では、いずれも自民党が議席を失った。自民党は2つの不戦敗を含め、すべての小選挙区で敗北したのである。他方で、立憲民主党は3戦全勝となった。

唯一自民党が候補者を両立した島根1区は、自民党の細田前衆院議長の死去を受けた選挙で、立憲民主党元職の亀井氏が自民新人の錦織氏を下した。「政治とカネ」の問題が、自民党の強い逆風となった。

衆院選の前哨戦となる衆院補選の結果は、過去にも政局に大きな影響を与えてきた。2008年には福田政権が4月の衆院2区補選で大敗し、福田首相は衆院解散を行わないままに同年9月に退陣した。2021年4月には、自民党が補選で全敗し、菅首相は同年9月の総裁選への出馬を断念した。

今回の補選全敗を受け、岸田首相はその責任を問われることになり、衆院解散の時期を判断する戦略を練り直すことになるだろう。岸田首相にとっては9月の自民党総裁選で再選を果たすことが再優先課題となる。その前に自民党内で支持率が低い岸田首相を交代させることで党の浮揚を目指す場合には、いわゆる「岸田おろし」の動きが強まる。

しかし、9月の自民党総裁選までに「岸田おろし」の傾向が強まる場合には、岸田首相は衆院解散に踏み切ることを示唆することで、そうした動きをけん制することができるだろう。党の支持率が比較的高く、岸田首相の支持率のみが低い場合には、自民党の衆議院議員らは、首相の専管事項である衆院解散を恐れずに「岸田おろし」に動く。しかし、現在は自民党全体の支持率も大きく低下しており、選挙となれば自民党候補には厳しい戦いとなることは必至だ。そのため、解散総選挙を恐れて9月の総裁選まで「岸田おろし」の動きは強まらないのではないか。岸田首相に代わる有力候補がいないことも、岸田政権の延命を当面助けることになるだろう。

NHKの4月の世論調査によると、岸田内閣の支持率は23%で、内閣発足以降で最も低かった昨年12月の支持率と並んだ。他方、4月の自民党の政党支持率は28.4%だ。自民党の政権復帰後で自民党の政党支持率が30%を下回ったのはいずれも岸田内閣で、昨年12月の29.5%、3月の28.6%に続き3度目となる。

経済面でも岸田政権への逆風は一層強まる方向

一報、産経新聞社とFNNが4月20・21日に実施した合同世論調査で、次の首相に誰が一番ふさわしいかを尋ねたところ、首位は自民党の石破茂元幹事長(17.7%)だった。これに小泉進次郎元環境相(14.1%)、上川陽子外相(7.9%)、河野太郎デジタル相(7.7%)が続いている。先の自民党総裁選で河野氏陣営の中心となった「小石河連合」に上川氏が加わる4者が上位グループを形成する構図が定着している。

9月の総裁選に向けて、岸田政権が支持率を回復することは容易ではない。実際には逆風が一層強まる可能性が考えられる。政治資金規正法を巡っては、他党に大きく遅れて自民党は改革案を提示したばかりだ。今後の国会審議は難航が予想されるが、その過程では、「自民党は政治改革に後ろ向き」との印象を野党によって植え付けられやすいだろう。

経済面では、3月の春闘での大幅賃上げ、6月の定額減税が一定程度追い風となるも、5月には再生可能エネルギー賦課金引き上げ、6月、7月には補助金終了で電気・ガス代が上昇する。この3か月間で消費者物価は一気に0.7%~0.8%も上昇することが見込まれる。

さらに円安も先行きの物価高懸念を強め、現政権に逆風となるはずだ。岸田首相がこうした逆風を撥ねつけて、国民及び自民党内での支持を回復し、9月の総裁選で再選されるのは容易なことではないだろう。

政治情勢悪化は円安阻止の為替介入を後押し

政治情勢は、日本銀行の金融政策の判断に大きな影響を与えないと考えられるが、全く影響しない訳ではないだろう。日本銀行の追加利上げの実施は、円安の影響を部分的に受けるとはいえ、中小・零細企業も含めた賃金全体の動向とその物価への影響を見極めてからとなるだろう。その時期は、最短で9月19・21日の金融政策決定会合と考えられる。

ただし、9月末に任期満了を迎える自民党総裁選挙が決定会合の後に実施される場合、さらにその時点で国内経済に不安がある場合には、追加利上げの時期が10月の決定会合などに後ずれする可能性も出てくるかもしれない。

金融政策以上に政治情勢の影響を受けやすいのが、政府の為替介入だろう。25日にイエレン米財務長官が日本の為替介入をけん制したことが、現在、日本政府の為替介入を制約している可能性が考えられる。

しかし企業や国民からは、円安進行が輸入物価の上昇を通じて経済活動に悪影響を与えるとして、不満が強まっている。企業からは為替介入を求める声も出ている。日本銀行が26日の決定会合で早期追加利上げに慎重な姿勢を見せたことから、円安阻止に向けた政府と日本銀行の強い連携は揺らいでいる。こうした中で政府が為替介入を行っても、円安阻止に有効な策とはならない可能性がある。

それでも、円安に対応をしたとの証拠づくりで政権の支持率回復を後押しすることを狙って、政府が早期に為替介入を行う可能性はあるだろう。

(参考資料)
「「政治とカネ」の逆風直撃」、2024年4月29日、日本経済新聞

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