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ジャクソンホール待ちの金融市場:中立金利の議論に注目

2023/08/23

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ジャクソンホールでパウエル議長は今年もタカ派発言をするか

米連邦準備制度理事会(FRB)の先行きの金融政策を占う観点から、金融市場での注目度が高いカンザス・シティ連銀主催の国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が、今年も8月24日~26日の日程で開かれる。25日にはパウエル議長が講演を行う。

昨年のジャクソンホール会議では、主に利上げの打ち止め時期を探るという観点から金融市場はパウエル議長の講演に注目していた。しかし議長は、インフレ抑制を「やり遂げる」と明確な決意を示すなど、予想以上にタカ派の発言となったため、長期金利は上昇し、株価は大きく下落した。1年経過した現状でもなお、FRBの利上げの打ち止めは明確に見えていない。

パウエル議長は今年も、インフレ抑制への意思を繰り返す可能性が考えられる。それをある程度見越して、8月21日の米国市場では、10年国債利回りは一時4.35%と16年ぶりの高水準に達した。

急速な利上げでも経済が安定を維持しているのは中立金利の上振れによるか

ジャクソンホール会議では毎年テーマが設定される。今年のテーマは「グローバル経済の構造転換」である。FRBの目先の金融政策にはあまり結びつきそうもないテーマであるが、足もとで米国の潜在成長率など経済構造に変化が生じているといった議論は、政策金利の中立水準の議論とつながり、目先の金融政策の見通しに影響を与える可能性があるだろう。

ニューヨーク連銀のエコノミストは、8月9日、10日と2日にわたって、需給ギャップ及び経済に中立的な金利水準である「r(アールスター)」の推計を発表した(The Evolution of Short-Run r* after the Pandemic, Liberty Street Economics, Federal Reserve Bank of New York)。9日には長期の「r」の推計を、10日は短期の「r」の推計をそれぞれ示している。

後者の短期の「r」は、コロナショック後に大きく上昇し、一時は6%以上、足もとでも5%程度の水準を維持していると試算されている。これは、現在の政策金利の水準をわずかに下回る程度であり、金融引き締めの度合いはまだ強くないことを示している。

同論文は、FRBが大幅に利上げをする中でも米国経済がなお安定を維持している理由は、この分析で説明がつくとしている。つまり、コロナショック後に政策金利の中立水準が大幅に上昇したため、実際の政策金利がなかなかそれに追いつかなかったのである。

利上げの効果は顕在化するのはこれからか

中立金利の正確な推計ができるのか、という問題はあるだろう。仮にこの名目の中立金利の推計が正しいとしても、その大幅な上昇が、実質中立金利、すなわち自然利子率の上昇によるのか、短期の期待インフレ率の上昇によるのかで、経済や金融政策への意味合いは違ってくる点が重要だ。

同論文では、昨年来、金融面でのショックによって、実質中立金利(自然利子率)はそれ以前の0%近傍から+1%台半ばまで上振れた、と試算されている。ただし、今年に入ってからはその水準は低下しており、先行きも低下傾向は続く。実質中立金利の上振れは、一時的側面が強いようだ。

金融引き締めの効果は十分に効かない理由が、名目金利の中立水準の上昇にあるのであれば、それは実質中立金利(自然利子率)の上昇よりも、短期のインフレ期待の上昇によるところが大きかったと考える方が自然ではないか。消費者物価上昇率は7月に前年同月比+3.0%と、昨年のピークの3分の1まで低下している。このように短期の実質中立金利が低下し、短期のインフレ期待が急速に低下していくことが見込まれる。そうしたなかでFRBが政策金利の水準を維持すれば、政策金利と中立的な名目金利との差は急速に開いていく。その場合、金融引き締め効果は、まさにこれから先急速に米国経済に効き始めることになるだろう。

ただしFRBは、そうしたリスクに一定程度配慮しながらも、物価上昇率が目標値の2%を大幅に上回り、また経済が安定を維持する中では、インフレ警戒を緩めず、政策金利を長く高水準で維持する姿勢を続けるだろう。今回のジャクソンホールでは、そうした姿勢を改めて金融市場に示すのではないか。

(参考資料)
「米「中立金利」上振れ観測 ジャクソンホールの注目点 長期金利に上昇圧力」、2023年8月19日、日本経済新聞
「経済変容どう見極め 24日からジャクソンホール会議」、2023年8月20日、日本経済新聞電子版

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