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世界で着々と準備が進む2次元バーコード移行

2023/12/21

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店舗・飲食店での決済、ポスター・広告からの情報取得、映画館・各種イベント会場への入場など、2次元バーコードは日常生活で幅広く使われている。その2次元バーコードを使って、消費財流通を変革する動きが世界で加速している。本稿ではそれを紹介したい。

消費財流通での2次元バーコード活用

2次元バーコードの特長の1つが、1次元バーコードと比べて多くの情報を小さいサイズで表現できることだ。1次元バーコードの代表例が、店舗で販売されている商品の外装に印字された白黒の縞々、JANコードだ。そのJANコードには商品を識別する番号だけが埋め込まれている。しかし、1次元バーコードの代わりに2次元バーコードを使うと、製造日や製造ロット番号などを追加で埋め込める。それを活用することで、メーカー・卸・小売そして消費者に及ぶ消費財流通でさまざまなメリットが得られると期待されている。
「多くの情報を小さいサイズで表現できる」という2次元バーコードの特長を使って、消費財流通を変革する取り組みが約3年前から始まっている。その取り組みは今、「2次元バーコードの世界的移行」(Global Migration to 2D、以降でGM2Dと略す)と呼ばれる。このGM2Dを推進しているのが、消費財流通に必要な、商品や事業所などの各種識別番号の標準や、バーコードや電子タグなどの自動認識技術の標準を定める国際標準化団体、GS1だ。GM2Dが加速していることをうかがえる変化が2023年後半に起きた。

中国・浙江省で食品トレーサビリティ義務化が2024年1月に開始

最初に取り上げるのは中国・浙江省での食品トレーサビリティ義務化である。2023年5月のコラムで、2次元バーコード移行プロジェクトが同省で進行中と紹介した。このプロジェクトの狙いは食品安全強化であり、商品外装の2次元バーコードに商品識別番号のほか、製造ロット番号や賞味期限といった動的情報が埋め込まれている。しかし、そのコラムを執筆した時点では、筆者は同省で食品トレーサビリティがいつから義務化されるかを知らなかった。
そして2023年11月。同省での2次元バーコード移行プロジェクトの動向を調べていたところ、「2023年9月に浙江省人民代表者大会常務委員会で食品安全デジタルトレーサビリティ条例が可決」という記事に遭遇した。この条例が施行される時期は2024年1月1日。つまり、もうすぐ食品トレーサビリティ義務化が始まるのだ。法規制の可決から施行までわずか3か月あまりというスピードに、驚きを隠せなかった。2023年2月時点で浙江省の2次元バーコード移行プロジェクトに参加したのが約7万社のメーカーと約5千の店舗。この大規模な実験を通じ、食品トレーサビリティ義務化の影響が及ぶ食品関連企業で義務化への準備が進んでいたことで、法規制の可決から施行まで3か月という短い期間に収めることができたのかもしれない。
実は、2次元バーコード使用を視野に入れた食品トレーサビリティ義務化の取り組みは、米国が先行していた。2020年9月に、米食品医薬品局が食品安全強化法に追加する食品トレーサビリティ記録・保持義務の規則案を策定。パブリックコメント募集を経て、2022年11月に同局が最終化した規則を公表。発効は2023年1月だ。義務化が始まるのは2026年1月であり、3年間の準備期間が設けられた。中国・浙江省と異なり、米国では2次元バーコード移行の実験は行われていない。当初、同局は最終規則の発効から義務化開始までの所要期間を2年と見込んでいた。しかし、一部の食品関連事業者が2年以内に義務化準備を完了することに懸念を表明し、同局はその所要期間を3年に延長したという経緯がある。
食品トレーサビリティ義務化実現へのアプローチは米国と中国・浙江省で異なるため、その所要期間を単純に比較することはできない。とはいえ、年表に示すとわかるように中国・浙江省の食品トレーサビリティ義務化の取り組みは、目を見張る速さである。今後、同種の取り組みを進める上で、米国と中国・浙江省の事例は格好のケーススタディになるのではないだろうか。

産業界で2次元バーコード移行の取り組みが始動

前述の食品トレーサビリティでの2次元バーコード活用は、食品安全強化を狙う法規制によって起きている。これとは異なり、産業界で2次元バーコード移行への取り組みが2つ、2023年後半に動き出した。1つはフランス、もう1つはThe Consumer Goods Forum(TCGF)である。

  1. フランス
    まずフランスでの動きだが、消費財業界の流通企業とメーカー、ソリューションプロバイダーなど約80社が集まるコミュニティがGS1フランスによって立ち上げられた。冒頭で消費財流通分野の各種標準を定める国際標準化団体がGS1であると述べた。そのGS1は世界各国に組織を構えている。フランスにあるのがGS1フランスだ。
    2023年9月に1回目の会合が行われ、フランスに本社を置くグローバル小売企業のカルフール、チーズ市場で世界5位の乳製品メーカーのサヴァンシア、インクジェットプリンターメーカーのマーケムイマージュが講演したという。同コミュニティは、2027年末までに2次元バーコードを実装することを目標としている。企業向けトレーニング講座が用意されるほか、技術的課題や業界で取り組む事項が盛り込まれたロードマップが作られる見通しだ。
    厳密にいうと、フランスでの2次元バーコード移行の取り組みの呼び名は、「GS1拡張QRコード」である(フランス語表記はQR Code augmenté GS1)。これはウェブ接続可能な2次元バーコード標準仕様であるGS1 Digital Linkのことを指している。GS1 Digital Linkは、バーコードを表現する次元が1つから2つに増える以上の変革をもたらす可能性を秘めている。たとえば、消費者が商品を購入した後、商品外装にあるGS1 Digital Link対応2次元バーコードをスマートフォンでスキャンすることで、メーカーと消費者が直接つながる、つまり、Direct to Consumer(D2C)を実現する手段の1つでもあるのだ。
    フランスで、消費財流通に変革をもたらすGS1 Digital Linkに関心を持ち、コミュニティに参加する企業が約80社も集まったというわけだ。フランスの大手小売企業、カルフールでCIOを務めていたレノー・ド・バルブア氏が現在GS1のCEOに就いていることが影響しているかもしれないが、筆者が知る限り、米国・中国以外の国で2次元バーコード移行の取り組みが始まったのは初めてではないだろうか。今後、これと似た動きが世界各地に広がっていくことを期待したい。
  2. The Consumer Goods Forum(TCGF)
    次にTCGFでの動きについて。2009年に、国際チェーンストア協会、Global Commerce Initiative、Global CEO Forumの3つの組織が合併して設立された業界団体がTCGFだ。TCGFには世界中の消費財業界の小売企業、メーカー、サービスプロバイダーなど約400社が加盟している。日本からは小売企業、加工食品・日用品のメーカーを中心とした64社がTCGFに加盟している。
    毎年1回、グローバル・サミットが開催される。会員企業のCEO・経営幹部が集まり、将来のビジネス動向を討議したり、ネットワークを築いて知識とベストプラクティスを共有したりする場となっている。2023年のグローバル・サミットは6月に京都で開催された。
    現在、TCGFでは、消費財業界での社会的・環境的課題が「サステナビリティ」「食品安全」「ヘルス&ウエルネス」「エンドトゥエンドバリューチェーン」の4つに分類され、各種の取り組みが行われている。これらの内容がグローバル・サミットで討議されるわけだ。
    2023年10月末のこと。TCFGの理事の1人、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)社でCEOを務めるジョン・モラー氏がTCFG理事会に書簡を送った。その狙いは、GS1 Digital Linkによる2次元バーコード移行を業界リーダー企業に促すことだ。つまり、2次元バーコード移行が、世界的消費財企業のトップ経営層が関与するイシューの1つに位置付けられたということだ。
    これは消費財流通での変革が世界中で起きる兆しと呼べるのではないだろうか。2次元バーコードの使途は多岐に及ぶ。トレーサビリティは品質管理部門、D2Cはマーケティング部門、ダイナミックプライシングは店舗オペレーション部門が関与することになる。2次元バーコード移行に一企業内の複数部門が関わることから、その実装にはトップ経営層の意思決定が不可欠と考えられる。P&G社は消費財業界で影響力の大きい企業の1つである。TCGFの動きが日本の消費財業界企業のトップ経営層に届くのは、ひょっとすると時間の問題かもしれない。

 

日本での、第二世代の消費財流通変革に期待

これまで述べたように2023年後半に、2次元バーコード移行について目を見張るほどの変化が3つ起きた。中国・浙江省で2024年1月に始まる食品トレーサビリティ義務化、フランスでのGS1拡張QRコード活用のためのコミュニティ設立、P&G社CEOによるTCGF理事会への働きかけの3つである。
来る2024年2月に、GS1グローバルフォーラムが催される予定だ。そのプログラム案が先日公開された。合計で約60あるセッションのうち、2次元バーコードに関わるものが約2割を占めている。加えて、セッション内容の説明文に「このセッションでは2次元バーコードが取り扱われます」と書かれるほどの扱いだ。筆者は同フォーラムに2021年から参加しているが、1つのトピックにこれほどまで注目が集まるのを観測したのは初めてである。世界の消費財流通で、2次元バーコード移行への関心が高まっている証拠と言えるだろう。
今から50年前の米国で、チューイングガムの外装の1次元バーコードが小売店舗のPOSレジのスキャナーで初めて読み取られた。約40年前の日本で、コンビニエンストアに納品される商品に1次元バーコードが付けられたことがきっかけとなり、日本の消費財流通で1次元バーコード使用が広まった。どの商品がいつ、どこで、いくらで売れたかがわかり、消費財流通に革新が起きた。1次元バーコード採用を第一世代の消費財流通変革と呼ぶとすれば、2次元バーコード移行は第二世代の消費財流通変革と呼べるほどのインパクトがあるのではないだろうか。既に世界では2次元バーコード移行への準備が着々と進んでいる。日本の消費財流通業界で2次元バーコード移行への関心が広まることを期待したい。

参考資料

執筆者情報

  • 水谷 禎志

    産業ITイノベーション事業本部 産業ナレッジマネジメント室

    エキスパートコンサルタント

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