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脱炭素と地方創生を同時に実現する「脱炭素ビジネス」への挑戦

2023/10/19

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2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、農山漁村、離島、都市部の街区など多様な地域で温室効果ガス(GHG)排出削減を行う「脱炭素ドミノ」を実現することが期待されています。
本記事では、地域との共生を図りながら地域で脱炭素ビジネスを推進していくためにどのような取組みが有用なのか、環境省が公募する「脱炭素先行地域」で求められる取組みと選定事例を参考に考えていきます。

執筆者プロフィール

エキスパートコンサルタント 佐野 則子:
民間シンクタンクを経て、1998年野村総合研究所に入社。システムエンジニアを経験した後、事業変革や業務改革などのコンサルティング業務に従事。現在は、デジタルで社会課題を解決することを目的として、社会提言、社会課題解決の実行支援、海外における革新的なデジタル活用調査、事業創出の人財育成などを行っている。少子高齢化に関するヘルスケア分野の日米特許所有。

脱炭素ビジネスへの挑戦

環境省では、地域で脱炭素を行うと同時に地方創生に貢献する取組みを行う「脱炭素先行地域」を公募し、2025年までに100か所以上の脱炭素先行地域の創設を目指しています。選定されると補助金を得ることができ、2023年4月時点で累計62 地域が選ばれました。

脱炭素先行地域とは、民生部門(家庭や第三次産業の事業所など)の電力消費に伴う二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにし、あわせて運輸部門や熱利用などその他の温室効果ガスについても日本の2030年度目標(2013年度から46%削減)と整合させる形で、地域特性に応じて実現する地域のことです。

脱炭素先行地域の拡大は、企業にとってビジネスチャンスといえます。脱炭素や地方創生に事業機会を見出す企業は、脱炭素先行地域への公募に、自治体と共同で提案する機会を活用することができます。これらの企業は脱炭素先行地域でグリーンテックやスマートシティ、モビリティなどの知見・技術を提供し、投資を行ってくれる金融機関や自治体と連携してビジネスの創出に取り組んでいます。脱炭素先行地域での取組みは、先進的で他地域にも展開できるものが多いため、脱炭素先行地域でどのような取組みが行われているのかを確認することで、地域で脱炭素ビジネスを挑戦する企業への有益なヒントを得ることができます。

脱炭素先行地域で求められる取組みの3軸

脱炭素先行地域で求められる取組みとしては、大きく3軸あると捉えられます。

出所)2023年8月に公開された脱炭素先行地域の公募情報(第4回公募)などを参考にNRI作成

1.民生部門の電力に関する取組み

民生部門とは、「家庭部門」や第三次産業の事業所などを指す「業務その他部門」のことです。脱炭素先行地域では、民生部門における電力消費量を省エネによって削減すると共に、「再生可能エネルギー(再エネ)などによる電力供給量」を増やす事が求められており、後者の割合をできる限り高めることが目指されています。
日本は国土の面積が狭く、平野が少ない南北に長い島国です。そのため、太陽光発電や風力発電など、気象条件で発電量が変動する再生可能エネルギー(変動電源)によって電力供給量を増やすことは、日本の挑戦です。国際エネルギー機関(IEA)が示す変動電源の導入段階(全6段階)においても、太陽光発電の導入が先行している九州以外の地域では、日本はまだ第2段階※1にとどまっています。

一方、環境省では太陽光、風力、中小水力、地熱に関する日本の再生可能エネルギー・ポテンシャルを「電力供給量の最大2倍」※2と試算しています。再生可能エネルギーによる電力供給には、安定性、効率性、発電量の少なさなど課題がありますが、小規模な電力を集めて電力の需要と供給のバランスを取る事業を行うためにアグリゲーター・ライセンス制度が2022年4月に創設され、課題解決に向けて一歩前進しました。地域のエネルギーを集約(アグリゲーション)するアグリゲーター(特定卸供給事業者)が中心となり、分散型エネルギーリソースとして発電設備・蓄電設備・需要設備などを有効活用する「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス」(ERAB)が新たな領域として期待されています。

これまでに企業は、例えば以下のような民生部門の電力に関するビジネスを計画し、その挑戦が脱炭素先行地域として選定されています。

  • 地域の再生可能エネルギーによる電力のアグリゲーション
  • 発電量・蓄電量が小さい分散型エネルギーリソースを集約し、発電所のように電力の需要バランス調整を行う仮想発電所(VPP)の構築
  • 初期費用の負担がない太陽光発電や蓄電池の導入
  • 省エネや再生可能エネルギーの導入を促進するための、エネルギー診断

2.運輸部門や熱利用などに関する取組み

第2の軸は、「運輸・産業部門」の取組みと「民生部門の電力以外」の取組みに大別でき、脱炭素先行地域に選定されるためには少なくとも1つ以上取り組むことが必要です。
前者は自動車や交通など運輸部門に加え、農林水産業などの第一次産業や、鉱業・建築業・製造業などの第二次産業などの産業部門で温室効果ガスの排出量削減を行います。
後者は「熱利用」や廃棄物の焼却など「非エネルギー起源」の温室効果ガス排出量削減、CO2を地中・陸上・海洋などに吸収固定する「CO2貯留」、ボイラーなどの「機器の効率化」といった取組みを行います。

これまでに企業は、例えば以下のような運輸部門や熱利用などに関するビジネスを計画し、その挑戦が脱炭素先行地域として選定されています。

  • 普段はEVをシェアリングし、非常時にはEVから建物へ給電
  • バイオ炭入りの牛糞堆肥を使用した有機農業
  • 地域の特産品を製造する農業ハウスで地下水熱を暖房に利用する熱エネルギー利用
  • 観光地の複数施設で温泉熱を1次・2次利用などと複数回利用する熱エネルギー利用
  • 海岸に漂着するプラスチックごみを燃料に変換してボイラーで利用し、非エネルギー源からの温室効果ガス排出量を削減
  • バイオ炭および剪定枝を活用したCO2貯留

3.地域課題の解決と暮らしの質の向上に関する取組み

脱炭素先行地域では、地域資源や地域の強みを生かし、地域課題を解決して地域経済の循環に貢献することが求められています。第3の軸は、2023年8月の公募から具体的な地域経済循環への貢献観点が提示されました。

地域の未利用資源や副産物の活用、美しい環境など地域が持つ資本の活用や雇用創出につながる取組み、再生可能エネルギーを利用する発電設備などの維持管理体制の構築、地域内でエネルギーへの支出を循環させる取組み、社会的課題を事業的に解決する社会的投資などが挙げられています。これらの具体的なスキームや期待される定量的効果まで記述することが求められているため、企業は、より地方創生への貢献を打ち出す挑戦が要請されていると思われます。

脱炭素先行地域での取組みにおける留意事項

脱炭素先行地域における取組みを企業がビジネスとして継続させるためには、留意事項が3点あります。第一に、事業の「実現可能性」、第二に、事業に関わる関係者との「合意形成」、第三に、事業の「モデル性」の確認です。

第一の事業の「実現可能性」は、導入規模が大きく、地域へ貢献して新たな需要を生み出すような技術であると同時に、その技術が実現可能でなければならないということです。ビジネス面では、事業コストを下げる取組みを行い、設備の維持管理や必要な資材(例:バイオマス発電の材料)を継続して調達できる、など事業を支える体制を構築する必要があります。

第二の「合意形成」は、パートナー企業や、脱炭素先行地域内の全ての需要家(家庭・企業)との間で行われます。パートナー企業には、事業の意義やビジネスの実現可能性、そしてその効果を分かりやすく説明し、理解を得る必要があります。一方、需要家に対しては省エネや再生可能エネルギーの導入を支援するために、インセンティブの仕組みをつくることも重要です。

最後に「モデル性」です。脱炭素先行地域での取組みは、他の地域に横展開できることが重要です。そのためには、地域課題の解決方法や、地域資源やエネルギーの効率的な活用などに先進性があり、かつ何らかのモデル性があると、横展開しやすくなります。例えば仮想発電所(VPP)のように実証実験が多く行われて間もないが、社会での実装例がまだ少ない取組みは、モデル性・先進性がある可能性があります。

おわりに

地域との共生を図りながら地域で脱炭素ビジネスを推進するためには、今まで見たような脱炭素先行地域で選定された取組みが参考となります。再生可能エネルギーの主力電源化は、第6次エネルギー基本計画(2021年10月)でも謳われており、最優先に、地域との共生を図りながら最大限に導入を推進することが示されており、方向性を同じくします。
脱炭素と地方創生を同時に実現する取組みが、日本全国から生まれ、他の地域に波及するような先進性がある時、それはビジネスとして飛躍するポテンシャルを持つことになります。そのようなビジネスへの挑戦が、今、期待されています。

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